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Chicago Underground Duo “Locus” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『ローカス』


Chicago Underground Duo “Locus”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『ローカス』
発売: 2014年3月25日
レーベル: Northern Spy (ノーザン・スパイ)

 コルネットのロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションのチャド・テイラー(Chad Taylor)によるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの7枚目のスタジオ・アルバム。

 前作『Age Of Energy』に引き続き、フリージャズやエクスペリメンタル系を扱うニューヨークのレーベル、ノーザン・スパイからのリリース。レコーディング・エンジニアは、トータスのジョン・マッケンタイア(John McEntire)が担当。

 結成以来、ジャズとポストロックやエレクトロニカを融合し、オリジナリティ溢れる、新しい音楽を作り続けてきたシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。7作目となる本作でも、これまでのアプローチを踏襲し、ジャズ的なフレーズが、エレクトロニカを彷彿とさせる電子音と溶け合い、ポストロック的な手法で再構築されています。

 1曲目「Locus」では、電子音が四方八方から飛び交うなか、ドラムが肉体的にビートを刻んでいきます。エフェクト処理も大胆に施され、ジャズの即興性と、ポストロックの編集性が、同居する音楽が展開されていきます。

 2曲目「Boss」は、イントロからテクノ色の濃い電子音然とした電子音が用いられ、ドラムとコルネットが絡み合いながら、躍動感あるアンサンブルを構成する1曲。電子音と生楽器が、対等に向き合ったサウンドと、ジャズ的な即興性とスウィング感を持ち合わせた演奏には、このバンドの特徴が端的にあらわれていると言えるでしょう。

 3曲目「The Human Economy」は、増殖していくような薄気味の悪い電子音がフィーチャーされた、アンビエントな1曲。

 4曲目「Yaa Yaa Kole」は、マリンバらしき音色と、コルネットが前面に出た、立体的で躍動感に溢れるアンサンブルが展開される1曲。クレジットを確認すると、マリンバのように聞こえる楽器は、西アフリカに分布するバラフォン(Balafon)というマリンバの先祖にあたる木琴のようです。

 5曲目「House Of The Axe」は、電子的な持続音と、パーカッションらしき音が聞こえる、音数の少ないミニマルな前半から、ドラムと電子音が徐々に広がり、立体的なサウンドへと展開していく1曲。全体を通して、エレクトロニカか音響系ポストロックのような音像を持っており、ジャズ色は薄め。

 7曲目「Blink Out」は、電子音とドラム、コルネットが、それぞれレコーディングされた後に、再構築されたかのような1曲。ジャズ的なフレーズと、ポスト・プロダクションを駆使するポストロックの方法論が溶け合い、ジャンルレスなサウンドを作り上げています。ぶつ切りにされたコルネットの断片的なフレーズが、ドラムと電子音のリズムと重なり、アヴァンギャルドなリズムとサウンドが表出。

 8曲目「Kabuki」は、ドラムと各種パーカッションがポリリズムを作り出し、その上にノイズ的な電子音やメロディーが重なる1曲。アフリカを感じさせる複雑かつ楽しいリズムと、電子的なサウンドが融合し、民族音楽をポストロック的方法論で再解釈したような曲に仕上がっています。

 9曲目「Dante」は、回転するような電子音のフレーズと、エフェクターのかかったコルネット、ジャズ的なダイナミズムとフリーさを持ったドラムが絡み合い、一体感と躍動感のあるアンサンブルを組み上げる1曲。

 コルネットのフレーズや、ドラムのポリリズムが持つジャズらしい要素が、アヴァンギャルドな電子音と溶け合う1作。「ジャズとポストロックの融合」と言うと一言で終わってしまうので、もう少し説明すると、ジャズが持つスウィング感や、曲芸的な即興の快楽が、ポストロックが持つ刺激的な先進性に取り込まれ、スリリングな音楽が繰り広げられます。

 シカゴ・アンダーグラウンド・デュオとして7作目となる本作ですが、マンネリ化することなく、常に新しいサウンドと方法論を導入しているところも、彼らの志の高さと、音楽的なアイデアの多様さを窺わせます。

 





Chicago Underground Duo “Age Of Energy” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『エイジ・オブ・エナジー』


Chicago Underground Duo “Age Of Energy”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『エイジ・オブ・エナジー』
発売: 2012年3月13日
レーベル: Northern Spy (ノーザン・スパイ)

 コルネットのロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションのチャド・テイラー(Chad Taylor)からなる実験的なジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの通算6枚目のスタジオ・アルバム。

 前作までの5枚のアルバムは、全てシカゴのスリル・ジョッキー(Thrill Jockey)からのリリースでしたが、本作からはフリージャズやエクスペリメンタル系の音楽を扱うニューヨーク拠点のレーベル、ノーザン・スパイへとレーベルを移籍しています。

 トータスとその周辺のバンドが所属し、ポストロックのイメージが強いスリル・ジョッキー。シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの音楽の特徴は、単純化してしまうとジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロック的な手法で再構築するところにあるので、スリル・ジョッキーらしい音楽性を持ったグループと言えるでしょう。

 レーベルの移籍が音楽性に直接の影響を与えるわけではありませんが、前述したとおり本作からはノーザン・スパイへと移籍。音楽的には、これまでのシカゴ・アンダーグラウンド・デュオを引き継いでいます。強いて相違点を挙げるなら、電子音がやや前面に出てきて、エレクトロニカ色が強まったところ。

 1曲目「Winds And Sweeping Pines」は、19分を超える長尺の曲。イントロからコルネットとドラムではなく、電子音が鳴り響き、前半はおよそジャズとは思われない、アンビエントで電子音楽色の濃いサウンドになっています。再生時間5分過ぎあたりからドラムが入ってくると、リズムが立体的に。その後は、音響が前景化したエレクトロニカ的なアプローチと、ジャズの即興性が溶け合った音楽が展開していきます。

 2曲目「It’s Alright」も、1曲目に続いて10分を超える曲。イントロから、電子的な持続音が全体を埋め尽くし、その中からエフェクト処理された声が響きます。全編を通して、音響系ポストロックかエレクトロニカとしか呼べない音楽が展開。

 3曲目「Castle In Your Heart」では、カリンバのような音色の隙間を、コルネットのフレーズが縫うように進み、ここまでの2曲と比較すると、生楽器のナチュラルな響きを持った1曲です。クレジットを確認すると、カリンバのように聞こえるのは、ジンバブエに住むショナ族の民族楽器、ムビラ(Mbira)だそうです。調べてみると、カリンバもムビラも共にサムピアノ(親指ピアノ)と呼ばれる楽器で、地域によって名称が異なるとのこと。

 4曲目「Age Of Energy」は、ノイズのようにも聞こえる電子音と、立体的なドラムが重なり、アヴァンギャルドかつ躍動的な音楽が展開する1曲。中盤以降は、マイクを通してエフェクト処理されたと思しきコルネットも加わり、ますます実験的でカラフルなサウンドへ。電子ノイズと生楽器、ポストロックの音響的アプローチとジャズの肉体性が融合し、ジャンルレスで躍動感に溢れた演奏が繰り広げられます。これは本当にかっこいい。

 アルバム前半は、ビート感に乏しく、音響を重視したエレクトロニカ色の濃い印象ですが、後半になると肉体性と電子音がブレンドされ、いきいきとした躍動感とアヴァンギャルドなサウンドが両立した、スリリングな音楽が展開されます。

 特にアルバム表題曲でもある4曲目の「Age Of Energy」は、実験性とジャズのエキサイトメントが高次元で溶け合った、めっちゃくちゃかっこいい1曲。1曲目から聴き始めて「ちょっとこれは…」と思った方には、まず4曲目の「Age Of Energy」を聴いていただきたいです。

 ちなみにCD版およびLP版では全4曲収録ですが、デジタル配信版ではボーナス・トラックとして「Moon Debris」が追加され、全5曲収録となっています。