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The Sea And Cake “Any Day” / ザ・シー・アンド・ケイク『エニイ・デイ』


The Sea And Cake “Any Day”

ザ・シー・アンド・ケイク 『エニイ・デイ』
発売: 2018年5月11日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 イリノイ州シカゴを拠点に活動するバンド、ザ・シー・アンド・ケイクの通算11枚目となるスタジオ・アルバム。前作『Runner』から6年ぶり、ベースのエリック・クラリッジ(Eric Claridge)が脱退し、3ピース編成となってから、初のアルバムとなります。

 ザ・ジンクス(The Zincs)や、ユーフォン(Euphone)での活動で知られる、ニック・マクリ(Nick Macri)がサポート・ベーシストとして参加。さらに、2016年のブライアン・ウィルソンによる『ペット・サウンズ』50周年アニバーサリー・ツアーで音楽監督を務めた、ポール・ヴォン・マーテンズ(Paul Von Mertens)も、クラリネットとフルートでレコーディングに参加しています。

 シカゴの名門レーベル、スリル・ジョッキーに所属。トータスのジョン・マッケンタイア、元シュリンプ・ボートのサム・プレコップ、元カクテルズのアーチャー・プレウィットの3人からなり、シカゴ界隈のスーパー・グループの様相を帯びるザ・シー・アンド・ケイク。(ちなみに脱退したエリック・クラリッジも、シュリンプ・ボートの元メンバー)

 彼らの音楽の特徴であり魅力は、ギターポップ的な音像と爽やかなメロディーを持ちながら、ポストロック的な実験性を持ち合わせているところ。非常に聴きやすく、ポップなテクスチャーと、リスナーに若干の違和感を抱かせる、隠し味のように含まれたアヴァンギャルドなアレンジが、共存しています。

 音を詰め込みすぎず、風通しが良いところも、このアルバムの魅力。また、各楽器のフレーズとリズムからは、ジャズの香りも漂い、非常に間口の広い音楽を作り上げています。

 1曲目の「Cover The Mountain」は、シンプルな音色のギターと、柔らかく軽い声色のボーカル、手数を絞ったシンプルなドラムが、浮遊感と緩やかな躍動感のあるアンサンブルを編み込んでいく1曲。

 2曲目「I Should Care」は、音数はそこまで多くない、軽いアンサンブルながら、全ての音が少しずつ前のめりになり、爽やかに吹き抜ける風のような疾走感のある曲。

 3曲目「Any Day」では、スムーズジャズを思わせる、流れるような軽快なグルーブが展開。ギター、クラリネット、フルートが、層のように音を紡ぎ、有機的な音楽を作り出していきます。

 4曲目「Occurs」は、ドラムの跳ねたリズムと、そこに覆いかぶさるように入ってくるギターが、ゆるやかなスウィング感を生む、リラクシングな1曲。

 5曲目「Starling」は、ギターが穏やかに絡み合うイントロに導かれ、疾走感のあるギターポップが展開される1曲。

 7曲目「Day Moon」は、本作の中で、ドラムの音がソリッドで、ビートが強い1曲。ギターもタイトにリズムを刻み、心地よい前への推進力を感じます。

 8曲目「Into Rain」は、オシャレなカフェで流れていそうな、スムーズジャズかボサノヴァを思わせるサウンド・プロダクションを持った曲。この曲も音数は少ないながら、各楽器が有機的に重なり合い、有機的なアンサンブルを作り上げています。

 アルバムを通して、昼下がりのリラクシングな時間を顕在化させたような、心地よい流麗さを持っています。音数が絞り込まれ、隙間まで利用したアンサンブルからは、ゆるやかな躍動感に溢れています。

 やり過ぎないところ、足し算ではなく引き算を駆使して、ポップな耳触りと奥深い音楽性を両立させているところが、本作の最大の魅力。

 3ピースになったことも、マイナスに作用しているところは感じられず、むしろ一音たりとも無駄にしないという態度が強まり、音数は減らしながら、音楽の強度は少しも衰えていません。

 





The Sea And Cake “The Fawn” / ザ・シー・アンド・ケイク『ザ・フォーン』


The Sea And Cake “The Fawn”

ザ・シー・アンド・ケイク 『ザ・フォーン』
発売: 1997年4月1日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 カクテルズ、シュリンプ・ボード、バストロのメンバーによって、イリノイ州シカゴで結成されたバンド、ザ・シー・アンド・ケイクの4枚目のアルバムです。

 ザ・シー・アンド・ケイクの音楽の特徴として、ジャズからの影響と、ポストロック的なアプローチの2点が、たびたび言及されます。彼らの音楽の魅力と特異性は、ジャズやポストロックをはじめとした、音楽的語彙の豊富さを感じさせながら、非常にポップな歌モノの音楽としても、成立しているところにあると思います。

 本作『The Fawn』も、流れるようなメロディーを持つ、爽やかなギター・ポップでありながら、ポストロックやジャズなど多種多様なジャンルのエッセンスを含むアルバムです。

 1曲目「Sporting Life」は、オーガニックな響きの生楽器と、やわらかな電子音が溶け合い、多層的なサウンドを生み出しています。ソリッドな音色のベースもアクセント。再生時間1:14あたりからの加速と減速を繰り返すようなアレンジも、アンサンブルの躍動感を演出します。

 2曲目「The Argument」。この曲は個人的に大好きな曲なので、本当に聴いていただきたい。イントロのドラムがとにかくかっこいい!微妙にリズムと叩く太鼓を切り替え、立体的なサウンドを単独で構築しています。ややチープでジャンクな音色と、右チャンネルと左チャンネルへの音の振り分けもいい。

 本当にこのイントロのドラム好きです。まずはここを聴いてください! その上に載るミニマルなギターとベース、電子音も素敵。このままインストの曲かと思いきや、2分過ぎにボーカルが入ってきます。

 3曲目「The Fawn」は、イントロから電子音と生楽器が溶け合い、ヴェールのように全体を包みます。柔らかな音像のなかを、ふくよかなサウンドのベースが心地よく泳ぐところも良い。濃密で分厚い、音の壁のようなサウンド・プロダクション。

 4曲目「The Ravine」は、3曲目からシームレスにつながっています。細かい音が重なり合う、ポリリズミックで複雑なアンサンブルが構成される1曲。難しい曲というわけではなく、カラフルで楽しく、いきいきとした躍動感のある曲です。

 6曲目「There You Are」は、イントロからエフェクターによって揺らめくギターが響きます。再生時間1:07あたりから入ってくる柔らかい電子音のような音も、雰囲気を変えるアクセント。展開が素晴らしすぎて聴き入っていると、再生時間1:43あたりからボーカルが入ってきます。

 7曲目「Civilise」は、このアルバムの中では、最もソリッドなサウンド・プロダクションの1曲。

 10曲目「Do Now Fairly Well」は、シンプルなギターと、エレクトロニカのような柔らかいサウンドの電子音、穏やかなボーカルが溶け合う1曲。再生時間2:38からの、風景が一変するような展開もスリリング。

 本作の収録曲は10曲ですが、徳間から発売されていた日本盤CDには、ボーナス・トラックが5曲追加されています。この5曲も良曲揃いなので、何曲かご紹介させていただきます。

 11曲目の「The Parlor」は、ジャンクでサイケな香りもする、不思議な音響の1曲。各楽器だけでなく、全体にエフェクトがかかったようなサウンド・プロダクション。

 13曲目「Studios Music」は、ミニマルテクノのような小刻みなビートが鳴り響く前半と、音の響き自体が前景化した、エレクトロニカのような後半とのコントラストが鮮やか。リズムの前半と、音響の後半。

 インストのポストロック・バンドとしても通用する、複雑で緻密なアンサンブルを持ちながら、流れるような美しいメロディーも備え、全体としてカラフルでポップな作品に仕上がったアルバムです。このバランス感覚が秀逸。

 極上の歌もの作品でありながら、実に多彩なサウンドとジャンルが顔を出し、深い意味でポップな1枚だと思います。これは、心からオススメしたい1作です!