Bon Iver “For Emma, Forever Ago”
ボン・イヴェール 『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』
発売: 2007年7月8日(自主リリース), 2008年2月19日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)
ジャスティン・バーノン(Justin Vernon)を中心に2006年に結成されたフォークロック・バンド、ボン・イヴェールの1stアルバム。2007年に自主リリースされたあと、翌年にはインディアナ州ブルーミントンのインディペンデント・レーベル、ジャグジャグウォー(Jagjaguwar)より発売されています。
こういうエピソードと音楽を聴くと、アメリカは自主リリースレベルで、ぽっとこんな優れた作品が出てくるという事実に驚きます。歴史的に見れば新しい国ながら、移民が作ってきたという特殊な事情も作用しているのでしょうが、音楽の豊潤さを感じますね。
ちなみにバンド名のカタカナ表記は、以前は「ボン・イヴェア」という表記も散見されましたが、最近は「ボン・イヴェール」に統一されたようです。
今作は、アコースティックギターの弾き語りを基本にしたフォーキーなサウンドに、オルタナティヴなアレンジが加えられた1枚。歌とアコースティック・ギターだけのシンプルで綺麗な曲だなぁ…と思って聴いていると、突如として異物的な音が入ってきて、驚くこともしばしば。しかし、「異物的」とは書きましたが、フォーキーな歌とギターに見事に溶け合ったかたちで、多種多様なサウンドやアレンジが加えられています。
もっとフランクな言葉で言い換えると、変な音が音楽のフックになっているということ。例えば1曲目「Flume」の奥で持続して流れている電子的な音や、ジリジリした鐘のような音だとか、違和感がありそうなのに、むしろ心地よく感じるほどにメインの音楽と溶け合っています。
2曲目の「Lump Sum」は、ギターのフレットを移動するときの弦をこする音まで拾った生々しいサウンドの曲ですが、パタパタとはためくようなリズムが、ギターの邪魔をせず入ってきます。
4曲目「The Wolves (Act I And II)」もアコギの弾き語りのような曲なのに、再生時間3:55あたりから徐々にサンプラーで加工されたような音が入り始め、音楽が増殖していくような感覚があります。
5曲目「Blindsided」はポスト・プロダクションを感じさせながら、音数は少ないものの各楽器が絡み合うようなアンサンブルが秀逸。
7曲目「Team」はドラムとエレキギターの入った、ボーカルレスの1曲。2分弱の曲ですが、ミニマルなドラムのリズムに、ギターが折り重なるように乗っていくのが心地よい1曲。
8曲目は「For Emma」。個人的にアルバムの中で1番好きな1曲。わずかに濁りを感じさせるコード、アコースティックギターの刻むリズム、バンド全体のアンサンブル、全てが良いです。
基本的には、フォークやカントリーに近い、アコースティックギターの弾き語りを中心に据えたアレンジと音作り。そこに、わずかにエッセンス程度に実験性を忍ばせていて、クセになる1枚です。こういうルーツと現代性が融合した音楽に出会えるところも、アメリカのインディー・シーンの魅力。