BLK JKS “After Robots” / ブラック・ジャックス『アフター・ロボッツ』


BLK JKS “After Robots”

ブラック・ジャックス 『アフター・ロボッツ』
発売: 2009年9月8日
レーベル: Secretly Canadian (シークレットリー・カナディアン)
プロデュース: Brandon Curtis (ブランドン・カーティス)

 南アフリカ共和国ヨハネスブルグ出身の4ピース・バンド、ブラック・ジャックスが、インディアナ州ブルーミントンのレーベルSecretly Canadianより発売したアルバムです。今作『After Robots』以外にも、2枚のEPをSecretly Canadianからリリースしています。バンド名は「BLK JKS」と書いて、「ブラック・ジャックス」と読みます。

 南アフリカの音楽事情についても、アフリカ音楽全般についても、語れるほどの知識を持ち合わせておりませんが、これは凄いアルバムです。言語化すると陳腐に響いてしまいますが、アフリカ的リズム感覚を、4ピースのロック・バンドのフォーマットに、鋳造した音楽とでも言ったらいいでしょうか。4人組のロック・バンドですが、レコーディングにはホーンも参加していて、サウンドも一般的なインディー・ロックから比べると、ちょっと異質です。

 1曲目は「Molalatladi」。いくつものリズムの型が見え隠れする、ポリリズミックなイントロ。アフリカのポリリズムを、ロックの文法で再構築したような1曲です。ロック的なダイナミズムを持ちながら、同時にアフリカ的な複雑なリズムが体を揺らします。「複雑な」というのは、西洋のポップ・ミュージック的な価値観からすると、という意味ですが。

 ある特定のリズムにノリながら聴いていると、さらに他のリズムが感じられて、そのふたつが混じり合って…という風に、複数のリズムが多層的に次々と姿をあらわします。前述したようにホーン・セクションも導入されており、トライバルで躍動感あふれるドラムのリズムと相まって、再生時間0:59あたりからのサビのような、ブリッジのような部分では、祝祭的な雰囲気すら漂います。

 現地語と思われる「Molalatladi」と何度も繰り返される歌詞も、当然ながら英語とはリズムとサウンドが異なり、非常に耳に引っかかるリズミックな響きを持っています。やっぱり言語の違いは、音楽の質も変えるな、と感じる曲でもあります。

 2曲目の「Banna Ba Modimo」は、歌のメロディーのリズムと、バックのリズムが噛み合うような、絡み合うような、絶妙なバランスで進行します。この曲は、リズムの緩急のつけ方が大きく、加速と減速を繰り返しながら、リズムがスリリングに切り替わっていく1曲です。

 5曲目「Taxidermy」は、波の満ち引きのように押し寄せるギターとベースに、細かく正確にリズムを刻み続けるドラムのグルーヴが気持ちいい1曲。再生時間1:30あたりから、リズムを見失いそうになるポイントもあります。

 1曲目の「Molalatladi」に集約されているのですが、アフリカのリズムとアメリカのポップ・ミュージックが融合した1作です。ホーンも入っていますが、ギターを中心としたロック・バンドのフォーマットで、トライバルなリズムを取り込みながら、コンパクトなポップ・ミュージックに仕立てるセンスは本当に見事!

 『After Robots』のような作品に出会うと、南アフリカに限らずアフリカ諸国のポップ・ミュージック・シーンを掘れば、多くの個性的なバンドがいるのでは、と興味がわいてきます。