Big Black “Pig Pile” / ビッグ・ブラック『ピッグ・パイル』


Big Black “Pig Pile”

ビッグ・ブラック 『ピッグ・パイル』
発売: 1992年10月5日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 現在はレコーディング・エンジニアとして著名なスティーヴ・アルビニ(Steve Albini)が、1981年に結成したバンド、ビッグ・ブラック。本作はビッグ・ブラックが残した唯一のライブ・アルバムです。発売は1992年ですが、ソースとなったライブ音源は1987年のヨーロッパ・ツアーのもの。

 ビッグ・ブラックがどんなバンドなのか簡単にご紹介すると、リズム・マシーンが淡々とリズムを刻み、ベースもリズムをキープし、その上を暴力的なまでに歪んだ2本のギターが暴れまわる、というバンドです。

 前述したように、本作『Pigpile』はライブ・アルバム。1987年のレコーディングということで、音質に不安を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、彼らのスタジオ・アルバムと比較しても、全く遜色ないクオリティのサウンドです。むしろ、ギターの臨場感や、ドラムの各音のクリアな粒立ちなど、スタジオ音源を上回る部分もあるのではないかと思うほど。

 選曲もベスト的な内容で、演奏もサウンドも素晴らしく、ビッグ・ブラックのアルバムの中でも、積極的にオススメしたい1枚です。ライブ・レコーディングということで、演奏の迫力と臨場感には、すさまじいものがあります。

 1曲目の「Fists Of Love」から、ボーカルもギターも切れ味抜群。スタジオ・アルバムのギターの音は、もっと人工的で金属的な響きが全面に出ていて、それもかっこいいのですが、今作のサウンドの方が倍音を多く含み、重厚な響きを持っています。同時に、ビッグ・ブラックならではのノイジーでジャンクな響きも、損なわれてはいません。

 「One, two, fuck you!」というカウントから始まる3曲目「Passing Complexion」。耳をつんざくようなギターが疾走する、スピード感とスリル溢れる1曲です。

 8曲目の「Kerosene」は、多種多様なノイズ・ギターが堪能できる1曲。イントロから、耳障りな高音ギターと、野太く下品に歪んだギターが絡み合い、2本のギターが自由に暴れまわります。6分を超える曲ですが、展開が多彩で、途中でだれることもありません。

 アルバムを通してあらためて感じたのは、本作がライブ・アルバムでありながら、演奏とサウンドの両面で、スタジオ作品と同じクオリティを保っていること。そして、スタジオ・アルバムでのテンションが、ライブと同じぐらい高いということです。冷静に考えてみると、観客のいないスタジオで、あれだけのテンションで演奏しているのは、本当に凄いと思う。

 このアルバムの魅力をひとつ挙げるなら、やはりギターの音ということになります。「ノイズ・ギター」「轟音ギター」と言っても、その質にはいろいろと種類がありますが、本作で聴かれるギターの音には、無駄な倍音をそぎ落としたような、金属的でストイックな響きがあります。

 僕はアルビニ先生の信者なので、本作もぜひともオススメしたい1枚なのですが、この手の音楽が苦手な方がいるのは分かります。でも、ノイズと感じていたものが、ある日突然ヒーリング・ミュージックに変わる、ということもありますので、ぜひとも一度聴いていただきたいです。