Brokeback “Field Recordings From The Cook County Water Table”
ブロークバック 『フィールド・レコーディングス・フロム・ザ・クック・カウンティ・ウォーター・テーブル』
発売: 1999年7月20日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
トータスのベーシスト、ダグラス・マッカムによるプロジェクトの1作目です。本作には、シカゴ・アンダーグラウンドのロブ・マズレクとノエル・クーパースミス、トータスのジョン・マッケンタイアなどがレコーディングに参加しています。
タイトルのとおり、フィールド・レコーディングされた自然や日常の音と、ベースを中心にしたアンサンブルが溶け合う1作。アンビエントな雰囲気も流れ、音響を前景化させた1面もある作品ですが、6弦ベースとコントラバスを駆使し、思いのほか多彩な世界観を作り出しています。
1曲目「After The Internationals」は、複数のベースが絡み合い、アンサンブルを構成する1曲。当然ながら、重心が低音にあるサウンドです。中盤から入ってくるコルネットの音色が、ベースとのコントラストで、非常に鮮烈に感じられます。
2曲目「Returns To The Orange Grove」は、イントロからフィールド・レコーディングされた音源が使われています。日常の音とベースの音が、レイヤーのように重なり、やがて溶け合う展開。どんな音がフィールド・レコーディングされているかは、実際に聴いて確かめてみてください。
3曲目「The Field Code」は、音数の少ないミニマルなイントロから、ギターとベースとシェイカーが、絡み合うようにアンサンブルを編み込んでいく1曲。
7曲目「The Wilson Ave. Bridge At The Chicago River, 1953」は、イントロからフィールド・レコーディングされた音源が使われています。聴いているうちに、楽器の音とフィールド・レコーディングの音が溶け合い、どれが楽器の音で、どれがフィールド・レコーディングの音なのか、境界線が曖昧に感じられます。
11曲目「The Great Banks」はボーカル入りの曲。ボーカルを担当しているのは、ステレオラブのメアリー・ハンセンです。ボーカル入りといっても歌詞があるわけではなく、声を一種の楽器として取り入れている、と言った方が適切です。ボーカルと伴奏という関係ではなく、声が音楽に自然に溶け込み、サウンドに暖かみと奥行きをもたらしています。
フィールド・レコーディングと、ベースを主軸にしたバンドの音を合わせた…と言うと、実験的でとっつきにくい印象を持たれるかもしれませんが、すべての音を公平に扱い、ひとつの音楽に融合した、優しいサウンドを持ったアルバムです。
しかし、誰にでもオススメできるか?と問われると、正直そういう作品ではないのも事実。ベース・フェチの方は、聴いてみてはいかがでしょうか。ただ、一般的な意味でのポップな作品ではありませんし、ベースがゴリゴリに弾きまくる作品でもありませんので、ご注意を。