Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise” / スフィアン・スティーヴンス『イリノイ』


Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise”

スフィアン・スティーヴンス 『イリノイ』
発売: 2005年7月4日
レーベル: Asthmatic Kitty (アズマティック・キティ)

 ミシガン州デトロイト出身のシンガーソングライター、スフィアン・スティーヴンスの5枚目のスタジオ・アルバム。タイトルは『Illinois』とのみ表記されることもあります。

 アメリカ全50州それぞれのコンセプト・アルバム制作をうたった、スフィアン・スティーヴンスの「50州プロジェクト」(The Fifty States Project)。前作『Greetings From Michigan The Great Lake State』(ミシガン)に続く、プロジェクト2作目が本作『Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise』(イリノイ)です。

 しかし、50枚のアルバムを完成させることなく、プロジェクトは今作で終了。スフィアンは、このプロジェクトはジョークだったと認めています。

 ミシガンをテーマにした前作は、多種多様な楽器とジャンルを組み合わせた、スフィアン・スティーヴンスのポップセンスが光るアルバムでした。本作も、彼のポップセンスがいかんなく発揮された1作であることは間違いないです。

 前作と比較すると、より楽器の音色がカラフルに、実験性の増したアルバムと言えます。ミニマル・ミュージックや実験音楽を感じさせる要素や、前作以上にオルタナティヴなアプローチが目立つアルバムですが、できあがった音楽はどこまでもポップです。

 1曲目「Concerning The UFO Sighting Near Highland, Illinois」は、流れるような躍動感のあるピアノを、オーボエとフルートと思われる笛の音が追いかける1曲。

 2曲目「The Black Hawk War, Or, How To Demolish An Entire Civilization And Still Feel Good About Yourself In The Morning, Or, We Apologize For The Inconvenience But You’re Going To Have To Leave Now, Or, “I Have Fought The Big Knives And Will Continue To Fight Them Until They Are Off Our Lands!”」は、イントロから様々な楽器と人の声が、不思議なハーモニーを作り上げます。

 随所に違和感のあるアレンジなのに、完成された音楽は、ポップでカラフルに響きます。スフィアンのこのあたりのポップ感覚は本当に見事。あと、タイトルがとにかく長いですね…。

 3曲目は「Come On! Feel The Illinoise!」。この曲は1トラック扱いですが、クレジットでは「Part I: The World’s Columbian Exposition」と「Part II: Carl Sandburg Visits Me In A Dream」、ふたつのパートのタイトルも記載されています。

 イントロから、ピアノなのかオルガンなのか、ふくよかな音色の鍵盤が響きます。多くの楽器が参加し、有機的でノリのいいアンサンブルを展開していきますが、様々なジャンルの香りがするのに、ひとつのジャンルに特定するのは難しい、不思議な魅力にあふれたポップ・ソングです。

 クラシックの香りもするし、ジャズのようなスウィングもあり、ロック的なダイナミズムも感じる。そして、できあがっている音楽は、心地よい極上のポップス。そんな1曲だと思います。

 9曲目の「Chicago」は、ヴィブラフォンの柔らかなサウンド、壮大なストリングス、躍動感あふれるバンドのアンサンブルが融合する、生命力を感じるいきいきとした1曲。曲名は、CDでは前述のとおり「Chicago」、アナログ盤では「Go! Chicago! Go! Yeah!」という表記になっています。

 22曲、74分収録のボリュームたっぷりのアルバムですが、無駄に長いわけではなく、多種多様なジャンルを消化し、スフィアン自身のポップ・ミュージックを作り上げた、すばらしい作品です。

 雑多なサウンドやジャンルを、極上のポップ・ミュージックに仕上げるセンス。しかも、聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、彼独自のオリジナリティを持った曲に仕上げるセンスには、脱帽です。