Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars” / ガイデッド・バイ・ヴォイシズ『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』


Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars”

ガイデッド・バイ・ヴォイシズ 『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Kim Deal (キム・ディール)

 ロバート・ポラード(Robert Pollard)を中心に1983年に結成された、オハイオ州デイトン出身のバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの9枚目のスタジオ・アルバム。前作から、アメリカを代表する名門インディー・レーベルであるマタドールと契約し、本作がマタドールからリリースされる2枚目のアルバムです。

 プロデュースは、全曲ではありませんが、ピクシーズ(Pixies)とブリーダーズ(The Breeders)の活動で知られるキム・ディールが担当。

 1983年に結成され、他の仕事をしながら、地元で地道な活動を続けてきたガイデッド・バイ・ヴォイシズ。8作目のアルバムとなる前作『Alien Lanes』から、前述のとおりマタドールと契約し、メンバーも音楽活動に専念するため、仕事を辞めています。

 これまでの彼らの作品は、限られた機材でレコーディングされた、チープでローファイな音質が特徴となっていましたが、本作は全編をスタジオで、24トラックでレコーディング。前作までとは一変して、ローファイ感は薄れ、プロフェッショナルなサウンドで録音されています。

 また、今作を最後に5人のメンバー中、ボーカルのロバート・ポラードと、ベースのグレッグ・デモ(Greg Demos)を除いた3人が脱退。レコーディング機材および音質の変化、メンバーの交代を迎える、転換期の作品とも言えます。

 これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズは、ローファイな音質により、ソング・ライティングとアンサンブルのコアな部分が相対的に強調され、音楽のむき出しの魅力が感じられるところが特徴でした。本作では、ローファイな音像から、くっきりとしたサウンド・プロダクションへと変化し、アンサンブルがよりタイトに感じられます。

 前作までのチープで暖かみのある耳ざわりを好む人には、必ずしも向上とは言い切れない音質の変化ですが、各楽器は今までよりもはっきりと聴き分けることができ、一般的には向上と言ってよいでしょう。

 1曲目の「Man Called Aerodynamics」から、歪んだギターの音色は鋭く、リズム隊はタイトで、気だるいボーカルもエフェクト処理されているようで、前作までにはなかった凝ったサウンドであることがわかります。

 2曲目「Rhine Jive Click」は、各楽器とコーラスワークを分離して聞き取ることができる、立体感のあるサウンドが特徴の1曲。イントロから鳴り響く、カウベルらしき音もアクセント。

 5曲目「The Official Ironmen Rally Song」は、ミドルテンポに乗せて、各楽器が絡み合うアンサンブルが展開される1曲。空間の奥行きを感じるサウンド・プロダクションに仕上げっています。再生時間1:22あたりからのギターからは、ざらついたローファイの魅力もたっぷり。

 10曲目「Your Name Is Wild」は、そこまでテンポが速いわけではありませんが、随所のフックのあるシンプルなリズムが、疾走感を演出する1曲。歪みだけでなく、空間系エフェクターも使用されたギターの分厚いサウンドが、楽曲に奥行きをプラスしています。

 17曲目「Don’t Stop Now」にはストリングスが導入され、コーラスワークも美しい1曲。ストリングスの持つオーガニックな響きと、ディストーション・ギターの厚み、爽やかなコーラスが溶け合い、前作と比較して、バンドの音楽性の広がりを感じさせます。

 前述したとおり、前作までのローファイなサウンドから、ソリッドで輪郭のはっきりしたサウンドに一変した本作。しかし、バンドの機能的で躍動感あるアンサンブルや、バラエティに富んだメロディーなど、これまでの魅力も多分に含んだ1作です。