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Guided By Voices “Mag Earwhig!” / ガイデッド・バイ・ヴォイシズ『マグ・イヤーウィッグ!』


Guided By Voices “Mag Earwhig!”

ガイデッド・バイ・ヴォイシズ 『マグ・イヤーウィッグ!』
発売: 1997年5月20日
レーベル: Matador (マタドール)

 ロバート・ポラード(Robert Pollard)を中心に、オハイオ州デイトンで結成されたバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの通算10枚目のスタジオ・アルバム。

 前作のあとに、ギターとバッキング・ボーカルのトビン・スプラウト(Tobin Sprout)、ギターのミッチテンミッチェル(Mitch Mitchell)、ドラムのケビン・フェンネル(Kevin Fennell)の3名が脱退。この事態に、フロントマンのロバート・ポラードは、オハイオ州クリーブランド出身のバンド、コブラ・ヴェルデ(Cobra Verde)をバック・バンドとして迎えることで乗り切ります。

 ちなみに、上記3名の脱退理由は、ツアーには出ずに子育てに集中したいなど、ケンカ別れではないようで、本作の一部の曲には、脱退したメンバーも参加しています。

 1983年に結成後、しばらくは地元で地道に活動を続け、1995年リリースの8枚目のアルバム『Alien Lanes』からマタドールと契約し、全米規模の人気を高めていくガイデッド・バイ・ヴォイシズ。初期は、限られた機材で宅録に近い環境でレコーディングされ、ローファイなサウンドが魅力のひとつとなっていましたが、9作目となる前作『Under The Bushes Under The Stars』は、プロフェッショナルなスタジオで24トラックで録音。音質が格段に向上しました。

 通算10作目となる本作では、前述のとおりフロントマンのロバート・ポラード以外はバンドが入れ替わったと言っても過言ではない、大幅なメンバー・チェンジを経て、音楽性も前作から大きく変化しています。

 前作は、音質の面ではローファイ色は薄くなり、ソリッドなサウンドを持った作品でしたが、音楽性の面ではシンプルなロックが下敷きになった、それまでのローファイ志向の音楽性を多分に引き継いでいました。しかし本作では、エフェクターを前作以上に多用し、サイケデリックな空気が強まっています。

 アルバムの1曲目を飾る「Can’t Hear The Revolution」は、エフェクトのかかった複数のギターが絡みあい、徐々にテンションを上げていきます。スポークン・ワードも交えた、やや呪術的なボーカルも、これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズにはあまり無かったサイケデリックな空気をプラス。

 2曲目「Sad If I Lost It」は、テンポは抑えめに、空間系エフェクターの効いたギターが印象的に響く1曲。

 3曲目「I Am A Tree」は、単音弾きのイントロから、歯切れ良いギターリフが重なり、複数のギターが絡み合いアンサンブルを構成していきます。ボーカルは抑え気味の歌い方ですが、テンポも速めで、軽快なリズムと、ギターのフレーズが、加速感を演出する1曲。

 5曲目「Bulldog Skin」は、オルガンの音色と、気だるいボーカルが、ややサイケデリックな空気を振りまきつつ、ファットに歪んだギターがアンサンブルを先導していく、ミドルテンポのロック・チューン。

 6曲目「Are You Faster?」は、だらりとしたギターと、リズムも音程もぴったりと合わないコーラスワーク、全体のエコーのかかった音像から、サイケデリックな空気が充満する1曲。

 8曲目「Knock ‘Em Flyin’」は、トレモロなのか空間系エフェクターのかかったギターと、タイトなリズム隊が、メリハリの効いた演奏を展開する曲。

 10曲目「Choking Tara」は、やや濁った音色のアコースティック・ギターによる弾き語り。ボーカルも奥まった音質で、ややチープにレコーディングされています。

 11曲目「Hollow Cheek」は、ピアノがフィーチャーされた30秒ほどの短い1曲。ピアノは音色もコードも濁っていて、妙に耳に残ります。インタールード的な役割の曲としては、非常に秀逸。

 12曲目「Portable Men’s Society」は、イントロから徐々に音数が増え、各楽器が絡み合うように、シフトが上がっていく1曲。タイトなリズムを刻む楽器と、ロングトーンを用いる楽器があり、立体的かつ多層的なサウンドが作り上げられていきます。

 18曲目「Jane Of The Waking Universe」は、ゆったりとしたイントロから、いきいきと躍動する音楽へ展開していきます。コーラスワークが心地よく、メロディーも爽やかですが、ギターに効いたワウなどアクセントになり、サイケデリック風味のギターポップとでも言うべき耳ざわり。

 これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズのアルバムの中でも、一際バラエティに富んだ楽曲が収録された1作と言えます。前述したメンバーチェンジも少なからず関係しているのでしょうが、サイケデリック色が濃く、60年代から70年代のロックを強く感じる作品です。

 本作は、アメリカを代表する名門インディー・レーベル、マタドールからリリースする3作目。次作からは、メジャーのTVT Recordsへ移籍しています。(2枚のアルバムをリリースした後に、マタドールへ戻ってくるのですが)

 





Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars” / ガイデッド・バイ・ヴォイシズ『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』


Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars”

ガイデッド・バイ・ヴォイシズ 『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Kim Deal (キム・ディール)

 ロバート・ポラード(Robert Pollard)を中心に1983年に結成された、オハイオ州デイトン出身のバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの9枚目のスタジオ・アルバム。前作から、アメリカを代表する名門インディー・レーベルであるマタドールと契約し、本作がマタドールからリリースされる2枚目のアルバムです。

 プロデュースは、全曲ではありませんが、ピクシーズ(Pixies)とブリーダーズ(The Breeders)の活動で知られるキム・ディールが担当。

 1983年に結成され、他の仕事をしながら、地元で地道な活動を続けてきたガイデッド・バイ・ヴォイシズ。8作目のアルバムとなる前作『Alien Lanes』から、前述のとおりマタドールと契約し、メンバーも音楽活動に専念するため、仕事を辞めています。

 これまでの彼らの作品は、限られた機材でレコーディングされた、チープでローファイな音質が特徴となっていましたが、本作は全編をスタジオで、24トラックでレコーディング。前作までとは一変して、ローファイ感は薄れ、プロフェッショナルなサウンドで録音されています。

 また、今作を最後に5人のメンバー中、ボーカルのロバート・ポラードと、ベースのグレッグ・デモ(Greg Demos)を除いた3人が脱退。レコーディング機材および音質の変化、メンバーの交代を迎える、転換期の作品とも言えます。

 これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズは、ローファイな音質により、ソング・ライティングとアンサンブルのコアな部分が相対的に強調され、音楽のむき出しの魅力が感じられるところが特徴でした。本作では、ローファイな音像から、くっきりとしたサウンド・プロダクションへと変化し、アンサンブルがよりタイトに感じられます。

 前作までのチープで暖かみのある耳ざわりを好む人には、必ずしも向上とは言い切れない音質の変化ですが、各楽器は今までよりもはっきりと聴き分けることができ、一般的には向上と言ってよいでしょう。

 1曲目の「Man Called Aerodynamics」から、歪んだギターの音色は鋭く、リズム隊はタイトで、気だるいボーカルもエフェクト処理されているようで、前作までにはなかった凝ったサウンドであることがわかります。

 2曲目「Rhine Jive Click」は、各楽器とコーラスワークを分離して聞き取ることができる、立体感のあるサウンドが特徴の1曲。イントロから鳴り響く、カウベルらしき音もアクセント。

 5曲目「The Official Ironmen Rally Song」は、ミドルテンポに乗せて、各楽器が絡み合うアンサンブルが展開される1曲。空間の奥行きを感じるサウンド・プロダクションに仕上げっています。再生時間1:22あたりからのギターからは、ざらついたローファイの魅力もたっぷり。

 10曲目「Your Name Is Wild」は、そこまでテンポが速いわけではありませんが、随所のフックのあるシンプルなリズムが、疾走感を演出する1曲。歪みだけでなく、空間系エフェクターも使用されたギターの分厚いサウンドが、楽曲に奥行きをプラスしています。

 17曲目「Don’t Stop Now」にはストリングスが導入され、コーラスワークも美しい1曲。ストリングスの持つオーガニックな響きと、ディストーション・ギターの厚み、爽やかなコーラスが溶け合い、前作と比較して、バンドの音楽性の広がりを感じさせます。

 前述したとおり、前作までのローファイなサウンドから、ソリッドで輪郭のはっきりしたサウンドに一変した本作。しかし、バンドの機能的で躍動感あるアンサンブルや、バラエティに富んだメロディーなど、これまでの魅力も多分に含んだ1作です。

 





Guided By Voices “Alien Lanes” / ガイデッド・バイ・ヴォイシズ『エイリアン・レインズ』


Guided By Voices “Alien Lanes”

ガイデッド・バイ・ヴォイシズ 『エイリアン・レインズ』
発売: 1995年4月4日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Mr. Japan (ミスター・ジャパン)

 オハイオ州デイトン出身のバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの8枚目のスタジオ・アルバム。フロントマンのロバート・ポラード(Robert Pollard)を中心に1983年に結成され、本作までに7枚のアルバムをリリースしていますが、本作がマタドールからリリースされる1作目のアルバムとなります。

 結成当初から各メンバーとも仕事を持ちながら、地元デイトンのバーなどで、地道な活動を続けてきたガイデッド・バイ・ヴォイシズ。オハイオ州クリーブランドのインディー・レーベル、Scat Recordsからリリースされた7作目『Bee Thousand』のディストリビューター(流通・販売)を、マタドールが手がけ、8作目となる今作から正式に契約し、マタドールからの発売となります。

 前述したとおり、本作でUSインディーロックを代表する名門レーベル、マタドールと契約するまで、地道な活動を続けており、彼らの初期の作品群は、チープな音質と、テクニックよりも楽しさが前景化した音楽性から、ローファイに括られます。本作以降は、メンバーが音楽活動に専念するために仕事を辞め、徐々に音楽性の幅を広げ、音質も向上。

 マタドールからの1作目となる本作は、彼らのローファイな魅力が詰まった、過渡期の作品とも言えるでしょう。28曲収録で、時間は41分。大半の曲は2分以内のコンパクトな構成。ややざらついたローファイな音質で、メロディーとアンサンブルのむき出しの魅力が前景化された、ロックンロールが展開されます。

 音圧は高くないのに、ギターの豪快な歪み、ロバート・ポラードのソング・ライティング能力、シンプルなロック的アンサンブルのカッコよさなど、音楽の魅力に溢れたアルバムです。

 1曲目の「A Salty Salute」から「ジーー」というノイズを含んだ音質で、各楽器がシンプルながら機能的に絡み合い、感情を絞り出すようなボーカルとも合わさる、ミドルテンポのロックンロールが展開。

 2曲目「Evil Speakers」は、テンポはそこまで速くはないのに、各楽器のリズムが絶妙にフックとなり、耳をつかむ1曲です。

 4曲目「They’re Not Witches」では、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、立体的なアンサンブルとコーラスワークが溶け合い、メロディーの魅力が前面に出てきます。

 11曲目「Pimple Zoo」は、ざらついた音色のギターと、やや渇いたシャウト気味のボーカルが先導するロック・チューン。ブリッジ部分ではアコースティック・ギターが用いられ、わずか43秒の1曲ですが、勢いだけではありません。

 17曲目「My Valuable Hunting Knife」は、ドラムをはじめとして、各楽器の音がチープで、ローファイの魅力に溢れた1曲。メロディーとアンサンブルが前景化し、音圧の低さと音質のチープさが魅力に転化するお手本のような曲です。

 アルバム全体を通して、音質はチープで、楽曲によってばらつきもありますが、音楽性は多彩で、メロディーや各楽器の絡みなど、音楽のコアな魅力を感じられる作品です。音質に頼らないことで、音楽の強度や、音楽を楽しむことが前景化される、ローファイの魅力が存分に含まれたアルバムとも言えます。

 ちなみに、2010年版の『死ぬ前に聴くべき1001枚のアルバム』(1001 Albums You Must Hear Before You Die)に選出されています。