Polvo “Siberia” / ポルヴォ『シベリア』


Polvo “Siberia”

ポルヴォ 『シベリア』
発売: 2013年9月30日
レーベル: Merge (マージ)

 1990年にノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたバンド、ポルヴォの6枚目のアルバム。

 1998年に解散し、2008年に再結成、2009年には、5thアルバム『In Prism』をリリースしています。間に10年の中断期間があり、本人たちの音楽的志向にも変化があったのでしょうが、解散前の90年代と再結成後では、音楽性が異なっています。

 もちろん共通している部分もありますし、むしろ時間を重ねているのに変化が無い方がおかしいのですが、どちらの音楽性を好むかは、リスナーの好みの分かれるところです。

 解散前に90年代を前期、再結成後を後期とすると、ローファイ要素と東洋音楽からの影響を含み、アヴァンギャルドなポップを展開していた前期、より音圧の高いソリッドなサウンド・プロダクションをも持ち、タイトで複雑なアンサンブルを繰り広げる後期、と大雑把に言うことができます。

 実験的な要素を持ちながら、絶妙なバランス感覚でコンパクトな楽曲に仕上げるところは共通しているのですが、サウンド面でも音楽面でも、一聴したときの印象はかなり違います。

 1曲目「Total Immersion」では、絡みつくような、ねじれたギターリフに導かれ、各楽器が複雑に絡み合うようなアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Blues Is Loss」は、クリーン・トーンのギターが漂うように音を紡ぐイントロから、開放的で爽やかアンサンブルへと展開。ところどころに不安定で不協和な響きがあり、アヴァンギャルドな空気とポップな空気を、持ち合わせています。

 3曲目「Light, Raking」は、ざらついた歪みのギターと、鼓動を打つように粒の揃ったベースライン、ダンスパンクを思わせるシンセサイザーなどが重なり、コンパクトにまとまったグルーヴを生み出す1曲。再生時間1:20あたりからの不安定なギターの音も、チープで親しみやすい空気を演出し、楽曲に深みを与えています。このように、一般的には使われないサウンドやフレーズを、魅力に転化するセンスが本当に秀逸。

 4曲目「Changed」は、手数を絞ったドラムを中心に、隙間の多いアンサンブルが繰り広げられる、リラックスした雰囲気の1曲。再生時間1:45あたりで入ってくる、粘り気のあるディストーション・ギターも、静から動へという予定調和的な挿入ではなく、自然なかたちで楽曲を盛り上げています。

 5曲目「The Water Wheel」は、複数のギターが絡まって、ほどけなくなるような、有機的で一体感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Old Maps」は、イントロからみずみずしい音色のアコースティック・ギターが使われ、アルバムの中で異質なサウンドを持つ1曲。しかし、浮いているわけではなく、空間系のエフェクターの効いたギターが立体的に重なり、現代性を持ったサウンドを響かせています。

 8曲目「Anchoress」は、打ち込みのような画一的なドラムのビートと、音色の異なる複数のギターが重なり、ゆるやかに躍動していくミドルテンポの1曲。再生時間1:10あたりからの展開など、リズムに足が引っかかるような部分があり、そこが音楽のフックにもなっています。

 前述したとおり、解散前の90年代とは、かなり耳ざわりの異なる音楽が展開される本作。このバンドの前期と後期を、僕なりの言葉であらわすと、ローファイなオルタナ民族音楽である前期に対して、よりマスロック色とプログレ色の強まった後期、といった感じでしょうか。

 復活1作目となる前作『In Prism』を聴いたときは、個人的には解散前の方が遥かに好きだったと感じました。しかし、それから4年を経てリリースされた本作は、アヴァンギャルドな要素が増して、前作ではあまり感じることができなかった東洋音楽のエッセンスも感じられ、今までのポルヴォの作品の中で一番好きかも、と思っています。

 ソリッドな音質を持ったアルバムなのですが、一部のマスロックのように、音楽的に尖った部分が強調するのではなく、実験的でありながら、どこかゆるいアレンジを随所に散りばめ、アヴァンギャルドでねじれたポップが展開。

 実験性と親しみやすさが、絶妙な割合でブレンドされており、こういうポップセンスを持ったバンドは、本当に好きです。