William Tyler “Behold The Spirit” / ウィリアム・タイラー『ビホールド・ザ・スピリット』


William Tyler “Behold The Spirit”

ウィリアム・タイラー 『ビホールド・ザ・スピリット』
発売: 2010年12月7日
レーベル: Tompkins Square (トンプキンス・スクエア)
プロデュース: Adam Bednarik (アダム・ベッドナリク)

 テネシー州ナッシュヴィル出身、ラムチョップ(Lambchop)やシルバー・ジューズ(Silver Jews)のメンバーとしても知られるギタリスト、ウィリアム・タイラーが自身の名義でリリースした1stアルバム。

 ナッシュビルといえば「ミュージック・シティ」というニックネームを戴くほど、音楽の盛んな街。特に、カントリーが有名で、カントリー・ミュージック殿堂博物館(Country Music Hall of Fame and Museum)を筆頭に、多くのカントリー関連施設があります。また、世界的なギター・メーカー、ギブソンが本社を置くのも、ここナッシュヴィル。(2018年5月に、残念ながら経営破綻し、再建に向かっているところですが…)

 そんな音楽が溢れる街、ナッシュヴィルで生まれ育ったウィリアム・タイラー。父ダン・テイラー(Dan Tyler)もソングライターで、幼少期から音楽に囲まれて育ったようです。

 1998年、19歳の時に、ナッシュヴィル出身のオルタナ・カントリー・バンド、ラムチョップに参加。その後、ニューヨーク出身のインディー・ロック・バンド、シルバー・ジューズにも加わり、ザ・ペーパー・ハッツ(The Paper Hats)名義で、ソロ活動もスタートさせます。

 そして、2010年に本名のウィリアム・タイラー名義でリリースされた最初のアルバムが、本作『Behold The Spirit』。カントリーやフィンガースタイル・ギターの作品を扱うレーベル、トンプキンス・スクエアからのリリースです。

 歌は無く、全編ウィリアム・タイラーの流れるようなギター・プレイが展開される本作。ブルーグラスを彷彿とさせる、スピーディーで、時にアクリバティックな演奏が、アコースティック・ギターを中心とした、オーガニックなサウンドで繰り広げられます。

 1曲目「Terrace Of The Leper King」では、ギターを中心にしながら、ホーンやヴァイオリンなどの楽器が、随所で顔を出すアンサンブルが展開。生楽器の音が心地よい、穏やかなサウンド・プロダクションですが、演奏には疾走感が溢れます。

 2曲目「Missionary Ridge」は、フィールド・レコーディングと思われる野外の音と、アコースティック・ギターの暖かな響きが溶け合う1曲。

 5曲目「The Cult Of The Peacock Angel」は、みずみずしく、はじけるようなギターの音と、ストリングスや電子音が絡み合い、有機的なアンサンブルを作り上げていく1曲。シンセサイザーによるものと思われる電子的なサウンドが効果的に用いられ、単なるルーツ・ミュージックの焼き直しにはとどまらない、現代的なサウンドに仕上がっています。

 9曲目「Ponotoc」は、ギターが穏やかに音を紡いでいく、牧歌的な雰囲気の曲。この曲に限らずですが、ギター1本で、ここまで情報量を込められるかな、というぐらい躍動感のある演奏が展開されていきます。

 アルバム全編を通して、ウィリアム・タイラーのギターのテクニックを堪能できる1作。というより、曲によってはゲスト・ミュージシャンによるベースやドラムなど他の楽器も加わっていますが、ギターのみでも成立するぐらいに、ギターを中心に据えた作品です。

 ルーツ音楽への深いリスペクトを持ちながら、電子音やフィールド・レコーディングを用いることで、モダンな空気も併せ持ったアルバムになっています。緩やかな躍動感と疾走感にも溢れ、アメリカの懐の深さを感じられる1作と言えるんじゃないでしょうか。

 カントリー・ミュージックの都、ナッシュヴィルらしい音楽とも言えるアルバムだと思います。