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Ryley Walker “All Kinds Of You” / ライリー・ウォーカー『オール・カインズ・オブ・ユー』


Ryley Walker “All Kinds Of You”

ライリー・ウォーカー 『オール・カインズ・オブ・ユー』
発売: 2014年4月15日
レーベル: Tompkins Square (トンプキンス・スクエア)
プロデュース: Cooper Crain (クーパー・クレイン)

 イリノイ州ロックフォード出身。シンガーソングライターでありギタリストのライリー・ウォーカーの1stアルバム。

 本作をリリースしたトンプキンス・スクエアは、「Imaginational Anthem」と名付けられたアメリカン・プリミティヴ・ギター(フィンガースタイル・ギターの音楽ジャンル)のアンソロジーの編纂からスタートしたレーベル。その後も、ルーツ・ミュージックを中心に扱う、個性的なインディペンデント・レーベルです。

 そんなトンプキンス・スクエアからリリースされた、ライリー・ウォーカーのデビュー・アルバムは、まさにレーベルの音楽性にぴったりの作品と言えるでしょう。9曲中ほぼ半分の4曲はインストで、ライリーのフィンガースタイルのギター・テクニックが、前面に出たアルバムとなっています。
 
 1曲目「The West Wind」では、みずみずしく粒だった音のアコースティック・ギターと、ふくよかで全体を包み込むようなヴィオラが、溶け合いながらオーガニックなサウンドを作り上げていきます。アコギとヴィオラは音色だけでなく、フレーズの面でも、細かく軽快なアコギに対して、伸びやかでロングトーンをいかしたヴィオラ、と対照的。

 感情を排したように淡々と、しかし絶妙にヴィブラートをかけながら言葉とメロディーを紡いでいくボーカルは、ブルージーな空気を演出。後半は各楽器とも音数を増やし、激しく、躍動感に溢れたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Blessings」でも、ストリングスのロングトーンと、アコースティック・ギター、ボーカルの細かな音符が溶け合います。1曲目の「The West Wind」と同じく、ヴェールのように全体を柔らかく包みこむヴィオラと、粒のはっきりしたギターの音は、思いのほか相性が良く、オーガニックで厚みのあるサウンドを作り上げています。

 3曲目「Twin Oaks Pt. I」では、ギターとリズム隊が絡み合うように、躍動感の溢れるアンサンブルを展開。インスト曲で、ライリーのギターテクニックが堪能できる1曲。

 4曲目「Great River Road」は、前曲に続いて、軽快なリズムを持った1曲。ここまでは長い音符が中心で、バランスを取る役割の多かったヴィオラが、この曲では細かい音符を多用し、他の楽器と絡み合うようにアンサンブルに参加しています。

 5曲目「Clear The Sky」は、イントロからしばらくはギター1本のみのプレイが続きます。その後、ベース、ドラム、ヴィオラ、ボーカルが入ってくると、立体的でグルーヴィーなアンサンブルへ発展。

 6曲目「 Twin Oaks Pt. II」は、タイトルのとおり3曲目「Twin Oaks Pt. I」の延長線上にあるインスト曲。アコースティック・ギターのみによる演奏で、ややテンポを抑え、音数も絞ったイントロから始まり、徐々に躍動感と疾走感を増していきます。

 7曲目「Fonda」も前曲に続き、ギターを中心に据えたインスト曲。フィンガースタイルのギタープレイが繰り広げられ、随所で効果的に導入されるピアノが、アクセントになっています。

 8曲目「On The Rise」は、回転するようなギター・フレーズと、渋いボーカルが対等に向き合い、ルーツ色の濃いサウンドを作り出していく1曲。用いられている音色は限られているのに、次々と風景が移り変わっていくような、進行感があります。

 アルバムのラストを飾る9曲目の「Tanglewood Spaces」は、ギター1本によるインスト曲。時折、差し込まれるハーモニクスが心地よく、ひとつの楽器で演奏しているとは思えない、生命力に溢れた音楽です。

 アルバムの最後を、ギターのインスト曲で締めているところも示唆的ですが、ギターを中心に据えたアルバムと言って、差し支えないかと思います。

 ボーカル入りの曲では、もちろん歌のメロディーも主要な要素となっています。しかし、ギターも単なる伴奏としてではなく、歌のメロディーと時にせめぎ合い、時に絡み合うように音を紡いでいく場面が多数。

 ライリー・ウォーカーのシンガーソングライターとしての魅力と同等かそれ以上に、彼のギタリストのしての魅力があらわれたアルバムと言えるでしょう。

 





William Tyler “Behold The Spirit” / ウィリアム・タイラー『ビホールド・ザ・スピリット』


William Tyler “Behold The Spirit”

ウィリアム・タイラー 『ビホールド・ザ・スピリット』
発売: 2010年12月7日
レーベル: Tompkins Square (トンプキンス・スクエア)
プロデュース: Adam Bednarik (アダム・ベッドナリク)

 テネシー州ナッシュヴィル出身、ラムチョップ(Lambchop)やシルバー・ジューズ(Silver Jews)のメンバーとしても知られるギタリスト、ウィリアム・タイラーが自身の名義でリリースした1stアルバム。

 ナッシュビルといえば「ミュージック・シティ」というニックネームを戴くほど、音楽の盛んな街。特に、カントリーが有名で、カントリー・ミュージック殿堂博物館(Country Music Hall of Fame and Museum)を筆頭に、多くのカントリー関連施設があります。また、世界的なギター・メーカー、ギブソンが本社を置くのも、ここナッシュヴィル。(2018年5月に、残念ながら経営破綻し、再建に向かっているところですが…)

 そんな音楽が溢れる街、ナッシュヴィルで生まれ育ったウィリアム・タイラー。父ダン・テイラー(Dan Tyler)もソングライターで、幼少期から音楽に囲まれて育ったようです。

 1998年、19歳の時に、ナッシュヴィル出身のオルタナ・カントリー・バンド、ラムチョップに参加。その後、ニューヨーク出身のインディー・ロック・バンド、シルバー・ジューズにも加わり、ザ・ペーパー・ハッツ(The Paper Hats)名義で、ソロ活動もスタートさせます。

 そして、2010年に本名のウィリアム・タイラー名義でリリースされた最初のアルバムが、本作『Behold The Spirit』。カントリーやフィンガースタイル・ギターの作品を扱うレーベル、トンプキンス・スクエアからのリリースです。

 歌は無く、全編ウィリアム・タイラーの流れるようなギター・プレイが展開される本作。ブルーグラスを彷彿とさせる、スピーディーで、時にアクリバティックな演奏が、アコースティック・ギターを中心とした、オーガニックなサウンドで繰り広げられます。

 1曲目「Terrace Of The Leper King」では、ギターを中心にしながら、ホーンやヴァイオリンなどの楽器が、随所で顔を出すアンサンブルが展開。生楽器の音が心地よい、穏やかなサウンド・プロダクションですが、演奏には疾走感が溢れます。

 2曲目「Missionary Ridge」は、フィールド・レコーディングと思われる野外の音と、アコースティック・ギターの暖かな響きが溶け合う1曲。

 5曲目「The Cult Of The Peacock Angel」は、みずみずしく、はじけるようなギターの音と、ストリングスや電子音が絡み合い、有機的なアンサンブルを作り上げていく1曲。シンセサイザーによるものと思われる電子的なサウンドが効果的に用いられ、単なるルーツ・ミュージックの焼き直しにはとどまらない、現代的なサウンドに仕上がっています。

 9曲目「Ponotoc」は、ギターが穏やかに音を紡いでいく、牧歌的な雰囲気の曲。この曲に限らずですが、ギター1本で、ここまで情報量を込められるかな、というぐらい躍動感のある演奏が展開されていきます。

 アルバム全編を通して、ウィリアム・タイラーのギターのテクニックを堪能できる1作。というより、曲によってはゲスト・ミュージシャンによるベースやドラムなど他の楽器も加わっていますが、ギターのみでも成立するぐらいに、ギターを中心に据えた作品です。

 ルーツ音楽への深いリスペクトを持ちながら、電子音やフィールド・レコーディングを用いることで、モダンな空気も併せ持ったアルバムになっています。緩やかな躍動感と疾走感にも溢れ、アメリカの懐の深さを感じられる1作と言えるんじゃないでしょうか。

 カントリー・ミュージックの都、ナッシュヴィルらしい音楽とも言えるアルバムだと思います。