Father John Misty “Fear Fun” / ファーザー・ジョン・ミスティ『フィアー・ファン』


Father John Misty “Fear Fun”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『フィアー・ファン』
発売: 2012年4月30日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン)

 メリーランド州ロックヴィル出身のミュージシャン、ジョシュ・ティルマン(Josh Tillman)。シアトル出身のフォーク・ロック・バンド、フリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)にドラマーとして在籍していたことでも知られ、近年はビヨンセやレディ・ガガへの楽曲提供など、多岐にわたる活動を展開しています。

 本作は、そんな彼が2012年1月のフリート・フォクシーズ脱退後、ファーザー・ジョン・ミスティ名義でリリースする1stアルバム。

 J.ティルマン名義で、本作までに8枚のソロ・アルバムをリリースしているティルマン。J.ティルマン時代は、アコースティックなサウンドを持ったフォーキーな作風でしたが、フリート・フォクシーズを経て、ファーザー・ジョン・ミスティ名義となった本作では、サウンドが格段に多彩になり、サイケデリックなフォークが展開。名義の変更と共に、音楽性の明らかな変化があります。

 「サイケデリック・フォーク」と書くと、一言で終わってしまいますが、具体的にはアコースティック・ギターを中心としたフォークやカントリーを下敷きに、電子楽器や、厚みのある凝ったコーラスワークで、オルタナティヴな要素も持ち合わせたアルバムだということ。

 1曲目の「Funtimes In Babylon」から、アコースティック・ギターと歌が中心にありながら、ストリングスや手拍子なども交えた立体的なアンサンブルが繰り広げられます。フォークが根底にありながら、カラフルで、ほのかにサイケデリックな音楽が展開。

 2曲目「Nancy From Now On」は、ピアノとシンセサイザーを中心に、いきいきと躍動するバンド・アンサンブルを持った1曲。生楽器のオーガニックな音色と、電子音のバランスが秀逸で、とにかく鍵盤楽器が活躍しています。

 5曲目「O I Long To Feel Your Arms Around Me」は、オルガンとコーラスワークが、荘厳で神秘的な空気を作り出しています。

 7曲目「Only Son Of The Ladiesman」は、フリート・フォクシーズを彷彿とさせる、シンフォニックなコーラスワークが響き渡る1曲。

 9曲目「Well, You Can Do It Without Me」は、派手さは無いけど、有機的でグルーヴ感のあるアンサンブルが展開。ムダな飾り気の無い、ギターの音色とフレーズが、ルーツ音楽の雰囲気を醸し出します。

 予定調和的に実験的なサウンドやアレンジを導入するのではなく、さりげなく、天然でサイケデリックな要素を持ったアルバムです。

 フリート・フォクシーズを、よりパーソナルに、宅録的に再構築したような、ルーツ音楽と現代性が同居した1作。