Lard “The Last Temptation Of Reid” / ラード『ザ・ラスト・テンプテーション・オブ・リード』


Lard “The Last Temptation Of Reid”

ラード 『ザ・ラスト・テンプテーション・オブ・リード』
発売: 1990年9月26日
レーベル: Alternative Tentacles (オルタナティヴ・テンタクルズ)

 打ち込みによる電子的なサウンドと、激しく歪んだギター・サウンドを共存させるインダストリアル。そのインダストリアルというジャンルの開祖と言えるミニストリー(Ministry)。そして、サンフランシスコにおけるハードコア・パンクの開祖デッド・ケネディーズ(Dead Kennedys)。

 それぞれのジャンルの第一世代と言える2つのバンドのフロントマン、ミニストリーのアル・ジュールゲンセン(Al Jourgensen)と、デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラ(Jello Biafra)が結成したバンド、ラードの1stアルバム。ジェロ・ビアフラが設立したオルタナティヴ・テンタクルズからのリリース。

 元祖インダストリアルと、伝説的ハードコア・バンドのフロントマン。そんな2人が組んだバンドであることからも予想できますが、硬質なディストーション・ギターの音色を中心にし、疾走感のある楽曲が並ぶアルバム。しかしその一方で、ギターの音作りは歪み一辺倒というわけではなく、倍音豊かで現代的な広がりのある歪みになっています。

 基本的には、パワフルなギターが前面に出たサウンド・プロダクションですが、楽曲とアンサンブルは思いのほか鮮やか。

 1曲目「Forkboy」は、各楽器ともタイトに引き締まった音質で、タイトに引き締まったアンサンブルが展開される1曲。アルバム1曲目にふさわしく、疾走感と躍動感に溢れ、聴き手をアジテートするようなボーカリゼーションも秀逸。

 2曲目「Pineapple Face」は、回転するようなフレーズを軸に、パワフルかつ立体的なアンサンブルが展開される1曲。リズムとリフのロック的な攻撃性の強い曲ですが、再生時間1:06あたりでテンポとテンションを抑えるアレンジなど、ただ直線的に走るだけではない奥行きがあります。また、クレジットを確認すると、多数のバッキング・ボーカルが参加。「Oh! Abs」や「Sexo Sexo-Sexo」など、名前っぽくないものが多く、ジョークということでしょうか。

 5曲目「Can God Fill Teeth?」の前半は、空間系のエフェクターのかかったギターと、歌のメロディーではないセリフが、アジテートするようにリスナーに迫ります。ギターには、バネが跳ねるようにコーラスがかけられており、音作りの多彩さを感じさせます。この曲の雰囲気ならば、ギャンギャンに歪んだギターでも成立しそうなのに。後半はリズム隊も加わり、疾走感あふれるジャンクな演奏が展開。

 8曲目「They’re Coming To Take Me Away」は、ハープのようなみずみずしく美しい音と、多種多様なジャンクなサウンドが混じり合う1曲。ボーカルもアジテーション全開のここまでの歌い方とは異なり、コミカルにおどけたように歌います。

 前述のとおり、インダストリアルとハードコア・パンクの大御所が組んだバンド。ある種のスーパーバンドと言ってもよいバンドですが、音楽性はコンパクトにまとまり、ハードコアとインダストリアルが自然なかたちでブレンドされた、良質な1作です。