The White Stripes “The White Stripes” / ザ・ホワイト・ストライプス『ザ・ホワイト・ストライプス』


The White Stripes “The White Stripes”

ザ・ホワイト・ストライプス 『ザ・ホワイト・ストライプス』
発売: 1999年6月15日
レーベル: Sympathy For The Record Industry (シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリー)
プロデュース: Jim Diamond (ジム・ダイアモンド)

 ミシガン州デトロイト出身の2ピース・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの1stアルバム。

 ニューヨーク出身のザ・ストロークス(The Strokes)と並び、2000年代におけるガレージロック・リバイバルの中心バンドに数えられるホワイト・ストライプス。

 ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトによる、姉弟を自称する2ピース・バンド。バンドのイメージカラーは赤、白、黒の3色で、衣装もこれらの色のみ使用するなど、コンセプチュアルな点も話題になりました。

 ガレージ・ロックのリバイバルであるというのは、その通りなのですが、彼らが数多のガレージロック・リバイバル・バンドの中で突出した存在となったのは、過去の焼き直しではなく、オリジナルな部分を持っていたからこそ。このレビューでは、彼らの特異性を指摘しながら、本作の魅力をお伝えできればと思っています。

 彼らが結成されたデトロイトは、フォード、クライスラー、ゼネラルモーターズ(GM)のいわゆる「ビッグ3」が工場を置き、一般的には自動車の街として有名。そして、自動車産業と並んで、いくつもの重要な音楽を生み出してきた、音楽の街としても知られています。

 デトロイトにゆかりのある音楽をいくつか挙げると、まずはなんと言ってもモータウン(Motown Records)。デトロイト・テクノが誕生し、エミネム主演の映画『8 Mile』の舞台にもなりました。ガレージ・ロック第一世代を代表するバンドであるMC5も、デトロイトにほど近いミシガン州リンカーンパークで、1964年に結成され、デトロイトを拠点に活動しています。

 また、イギー・ポップが率いたザ・ストゥージズ(The Stooges)も、デトロイトから60kmほど離れたミシガン州アナーバーの出身。デトロイトで、何度も重要なライヴをおこなっています。

 以上のように、多くの良質な音楽を生んできたデトロイト。その一因となったのは、アフリカ系アメリカ人の人口の多さ。2010年の国勢調査では、アフリカ系アメリカ人または黒人の比率は、82.7%となっています。

 1910年には、白人が人口の98.7%を占めていたデトロイト市。それが、前述の自動車産業の発展により、南部に住む多数のアフリカ系アメリカ人が、デトロイトへ移住します。彼らがブルースやゴスペル、ロック、そして前述のモータウンやデトロイト・テクノなど、豊かな音楽文化を育む一因となったのは間違いありません。

 さて、そんなデトロイトで1997年に結成されたホワイト・ストライプス。1999年にリリースされた、デビュー・アルバムとなる本作では、ブルースやカントリーなどのルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、ざらついたサウンドによるガレージ・ロックを展開しています。

 ガレージ・ロックとは、その名のとおり、ガレージ(=車庫)で練習をおこなうことに由来する言葉です。音楽性に加えて、DIY精神やアマチュアリズムも包括した、ジャンル名だと言えるでしょう。

 ブルースやガレージ・ロックなど、デトロイトに所縁のある音楽を引き継ぎ、現代的にアップデート。さらに自動車の街として栄えたデトロイトで、1990年代にガレージ・ロックを高らかに鳴らす姿勢は、それだけで十分なコンセプトになり得ます。

 本作の音楽性は、前述のとおりブルースを基調にしながら、ガレージロックらしいダイナミズムの大きなアンサンブルと音像を持ったもの。しかし、懐古主義に陥っているわけではなく、先述のコンセプトを含め、現代的な面を持ち合わせているところが、このバンドの特異なところです。

 ギターとドラムからなる2ピースという編成も、十分に特殊ですが、そこから鳴らされるサウンドは、さらに個性的。立体的でドタバタ感のあるドラムに、ガレージらしく毛羽立った歪みのギターが絡みつきます。

 ベースレスの2ピースで、サポートメンバーも入れないため、当然ながら通常のバンドよりも隙間の多いアンサンブル。しかし、その隙間が一音の重みを際立たせ、躍動感に溢れた演奏を演出します。

 シンプルで手数の少ないメグ・ホワイトのドラミングは、時にテクニックに乏しいと捉えられることもありますが、そのシンプルなスタイルから生まれるダイナミズムは、間違いなくこのバンドの特徴となっています。

 そして、テクニックや様式美にとらわれず、感情をそのまま変換したかのような、自由でパワフルなジャック・ホワイトのギター。ベースレスの編成を逆手にとり、ロックの持つ根源的なグルーヴ感や、サウンドの持つ攻撃性を際立たせ、頭にガツンと響く音楽を繰り広げていきます。

 1曲目の「Jimmy The Exploder」から、ドタドタとパワフルにリズムを刻むドラムに、エモーショナルに唸りを上げるギターが絡み合い、音数と楽器数は少ないはずなのに、ロックの魅力を凝縮したような音楽が展開。

 2曲目「Stop Breaking Down」と、7曲目「Cannon」は、それぞれ伝説的なブルース・シンガー、ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)とサン・ハウス(Son House)の楽曲のカバー。ルーツ・ミュージックへのリスペクトを示しつつ、ホワイト・ストライプスらしいドタバタ感のあるアンサンブルに仕立て上げています。

 4曲目「Suzy Lee」と17曲目「I Fought Piranhas」には、オハイオ州マウミー出身のガレージロック・バンド、ソールダッド・ブラザーズ(Soledad Brothers)のジョニー・ウォーカー(Johnny Walker)が、スライドギターで参加。以上2曲は、伸縮するようなリズムを持った、ブルージーな空気が充満するサウンドとなっています。

 9曲目「Broken Bricks」は、ところどころつっかえながら、前のめりに疾走していくガレージ・ロック。

 13曲目「One More Cup Of Coffee」は、ボブ・ディラン(Bob Dylan)のカバー。アコースティック・ギターを用いて、ボブ・ディランのフォークに、ブルージーな香りを足したアレンジとなっています。途中から挿入されるオルガンによるロングトーンが、楽曲に奥行きをプラス。

 本作の音楽性を単純化して説明するなら、「ブルースを下敷きにしたガレージ・ロック」ということになるのでしょうが、そんな折衷的な音楽にはとどまらない、オリジナリティを持ったアルバムです。

 前述したように、その理由のひとつは2ピース編成で、今までには無いグルーヴやアンサンブルを構築していること。もうひとつには、ジャック・ホワイトのギター・テクニックと、音楽的教養の深さが挙げられます。

 一聴すると、かっこいいツボを刺激する、現代版のガレージ・ロックに聴こえるのですが、聴き込むほどに、様々なジャンルの断片が見えてくるアルバムです。

 むき出しのパワフルなサウンドとアンサンブルに、まずは耳を奪われますが、その深層にはルーツ・ミュージックからオルタナティヴ・ロックまで、幅広い音楽が垣間見えます。単なるガレージ・ロックの焼き直しではなく、時代を代表する名盤と言ってよいでしょう。