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The White Stripes “Elephant” / ザ・ホワイト・ストライプス『エレファント』


The White Stripes “Elephant”

ザ・ホワイト・ストライプス 『エレファント』
発売: 2003年4月1日
レーベル: Third Man (サード・マン)
プロデュース: Liam Watson (リアム・ワトソン)

 ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトからなる、ミシガン州デトロイト出身のガレージロック・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの4thアルバム。

 前作までは、ガレージやブルースを得意とするインディーズ・レーベル、Sympathy For The Record Industryからのリリースでしたが、本作はユニバーサル傘下のレーベルV2、およびジャック・ホワイトが設立したレーベルであるサード・マンからリリースされています。

 レコーディング・エンジニアとミキシングを務めるのは、イギリス人のリアム・ワトソン。レコーディングも、ロンドンにあるBBCのマイダ・ヴェール・スタジオ(Maida Vale Studios)と、ワトソンが所有するトゥー・ラグ・スタジオ(Toe Rag Studios)にて実施されました。

 2004年の第41回グラミー賞において、最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞(Best Alternative Music Album)を受賞し、ホワイト・ストライプスを世代を代表するバンドへと押し上げる、出世作となった本作。

 ブルースやカントリーなどルーツ・ミュージックを参照しながら、ガレージ・ロックのざらついた音色とダイナミズムを、現代的にアップデートする手法は、ますます洗練され、完成度を高めています。

 「現代的にアップデート」と書くと抽象的ですが、具体的にはブルースやガレージロックをコピーするだけでなく、多様なジャンルを組み合わせ、自分たちオリジナルの音楽を作り上げているということ。このような方法論には、90年代にオルタナティヴ・ロックの時代をくぐり抜けてきたバンドであることが垣間見えます。

 シングルとしても発売され、グラミーの最優秀ロック・ソング賞(Grammy Award for Best Rock Song)を獲得し、世界的なヒットとなった「Seven Nation Army」を筆頭に、ジャック・ホワイトのギタープレイとソング・ライティングも冴え渡っています。

 「Seven Nation Army」はアルバムの幕を開ける1曲目に収録。ドタドタとシンプルに四つ打ちを続けるドラムに、激しくそして自由なギターが合わさり、シンプルなリズムの魅力と、楽譜からはみ出すフリーなフレーズの魅力が融合。ロックのシンプリシティと即興性を併せ持つ、キラー・チューンに仕上がっています。

 2曲目の「Black Math」は、リズムが前のめりに疾走するガレージ・ロック。しかし、ただ直線的に突っ走るだけでは終わらず、途中テンポで緩急をつけ、コントラストを演出。奥行きのあるアレンジとなっています。

 3曲目「I Just Don’t Know What To Do With Myself」は、イギリス出身のシンガー、ダスティ・スプリングフィールド(Dusty Springfield)が1964年にリリースした曲のカバー。オリジナル版は、ポップでスウィートな仕上がりですが、ホワイト・ストライプスはゴリっとしたガレージらしいギターに、ゴスペルを思わせる壮大なコーラスワークを重ねたアレンジに仕上げています。原曲のスウィートな魅力を残しつつ、凝ったコーラスワークと、激しく歪んだギターが溶け合い、サイケデリックな空気も漂う1曲。

 6曲目「I Want To Be The Boy To Warm Your Mother’s Heart」は、ピアノをフィーチャーしたメロウな1曲。しかし、ただのピアノ・バラードではなく、ぶっきらぼうなドラムと、ガレージ色の濃いざらついた歪みのギターを合わせています。間奏のスライド・ギターもブルースとカントリーの香りをプラスし、ピアノを用いた壮大なバラードではなく、ホワイト・ストライプスらしい多彩な1曲に。

 8曲目「Ball And Biscuit」は、音数を絞ったミニマルなアンサンブルから、ブルージーなフレーズが浮き上がり、前景化される1曲。ジャンルのコアな部分の魅力を浮き彫りにする、ホワイト・ストライプスらしいアレンジ。再生時間1:47あたりからのギターソロは、耳と脳を揺らすようにパワフルで、根源的な魅力に溢れています。

 9曲目「The Hardest Button To Button」では、シンプルな四つ打ちのドラムに、ギターのフレーズとボーカルが重なり、シンプルながら躍動感とグルーヴ感のある演奏が展開。

 12曲目「The Air Near My Fingers」は、60年代のガレージ・ロックとサイケデリック・ロックが融合したような、激しさとねじれを持った1曲。

 もはや語ることが残ってないぐらいに、評価され、語られてきた名盤ですが、あらためて聴いてみてもやはり名盤! 「ブルースを下敷きにしたガレージロック」というのは、彼らの音楽性を説明するときの常套句ですが、ブルースはじめルーツ・ミュージックを巧みに取り込んでいるのは事実です。

 ブルースの粘り気のあるフレーズ、ガレージロックの荒々しさ、カントリーの軽快な疾走感など、各ジャンルのコアな魅力を、オルタナティヴ・ロックの折衷性を持ってまとめていくセンスと手法は、見事と言うほかありません。

 あとは、各ジャンルを横断しつつ、自らのオリジナリティをしっかりと出すジャック・ホワイトのギタープレイは、やはり秀逸だなと。僕が言うまでもないことですが、未来に残すべき名盤です。

 





The White Stripes “White Blood Cells” / ザ・ホワイト・ストライプス『ホワイト・ブラッド・セルズ』


The White Stripes “White Blood Cells”

ザ・ホワイト・ストライプス 『ホワイト・ブラッド・セルズ』
発売: 2001年7月3日
レーベル: Sympathy For The Record Industry (シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリー)
プロデュース: Stuart Sikes (スチュアート・サイクス)

 ミシガン州デトロイト出身のガレージロック・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの3rdアルバム。メンバーは、ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトの2人。

 ガレージロックを得意とするインディペンデント・レーベル、Sympathy For The Record Industryと、ユニバーサル傘下のメジャー・レーベル、V2レコードより発売。

 カントリー歌手ロレッタ・リン(Loretta Lynn)に捧げられており、本作からのシングル『Hotel Yorba』には、リンの楽曲「Rated X」のカバーが収録されています。

 また、レコーディング・エンジニアを務めるのは、スチュアート・サイクス。2005年のグラミー最優秀カントリー・アルバム賞を受賞する、ロレッタ・リン『Van Lear Rose』のミキシングを手がける人です。ちなみに同作は、ジャック・ホワイトがプロデュースを担当し、ギターやバッキング・ボーカルでレコーディングにも参加しています。

 デビュー当初は、ギターとドラムのみのパワフルな演奏で、ロックの初期衝動をそのまま音に変換したかのようなサウンドを、響かせていたホワイト・ストライプス。3作目となり、ざらついたガレージ的な音色はやや控えめ。音楽的には、確実に洗練されています。

 ブルースを下敷きにしたガレージロック、という基本的なアプローチはこれまで通り。また、本作収録曲の歌詞の多くは、1stアルバム『The White Stripes』の時期のもの、およびジャックが当時ホワイト・ストライプスと並行して在籍していたバンド、トゥー・スター・タバナクル(Two-Star Tabernacle)のために書いたものとのこと。

 しかし、音楽的には原点回帰というわけではなく、より多彩なルーツ・ミュージックを取り込みながら、90年代以降のオルタナティヴ・ロックに繋がるアレンジと音像を持っているのが本作です。

 過去2枚のアルバムは、いずれも地元デトロイトでレコーディングされていましたが、本作はテネシー州メンフィスにあるスタジオ、イーズリー・マケイン・レコーディング(Easley McCain Recording)で、レコーディングを実施。これまでのざらついた音色に比べ、サウンド・プロダクションが異なって聞こえるのは、レコーディング・スタジオの変更も一因でしょう。

 1曲目「Dead Leaves And The Dirty Ground」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、ざらついた音色のギターと、手数の少ないドラムによって、リラックスしたアンサンブルが展開される1曲。プリミティヴな音作りとアンサンブルという、これまでのホワイト・ストライプスの良さを残しながら、良い意味で力の抜けた演奏になっています。

 2曲目「Hotel Yorba」は、アコースティック・ギターによる軽快なコード・ストロークと、ドラムのドタドタ叩きつけるリズムが躍動感を生む、カントリー色の濃い1曲。

 4曲目「Fell In Love With A Girl」は、ギターもドラムも小節線を乗り越えるように、前のめりに疾走していく曲。ガレージロックと呼ぶにふさわしい、毛羽立ったサウンド・プロダクションの曲ですが、演奏は軽やかな疾走感があります。

 5曲目「Expecting」は、スローテンポのガレージロック。ゆったりとしたテンポに乗って、リズムにフックを作りながら、グルーヴ感を生んでいきます。

 9曲目「We’re Going To Be Friends」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた牧歌的な1曲。ジャック・ホワイトの歌唱も、語りかけるように穏やか。奇をてらうことなく、歌にフォーカスした、カントリー色の濃い演奏です。

 12曲目「Aluminum」は、ノイジーなギターと呪術的なコーラスが場を支配する、アヴァンギャルドな1曲。ガレージロックよりも、ソニック・ユースなどニューヨークのアングラ臭を感じる演奏。

 13曲目「I Can’t Wait」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、ざらついたサウンドの各楽器が絡み合い、アンサンブルを構成する、ホワイト・ストライプスらしいガレージロック。

 前述のとおり、カントリー歌手のロレッタ・リンに捧げられた本作。それだけが理由というわけでもないのでしょうが、これまでのアルバムと比較すると、ややカントリー要素が強めでしょうか。

 しかし、たんにカントリー色が濃くなっただけでなく、12曲目「Aluminum」のような、オルタナティヴ要素の強い実験的な曲もあり、音楽性の幅は確実に広がっています。

 1stアルバムから本作までの3枚のアルバムは、いずれもガレージ・ロックを得意とするレーベル、Sympathy For The Record Industryからのリリース。

 しかし、4作目となる次作『Elephant』から、ユニバーサル・ミュージック傘下のV2、およびジャック・ホワイトは自身で設立したレーベル、サード・マン(Third Man Records)よりリリースされます。

 





The White Stripes “De Stijl” / ザ・ホワイト・ストライプス『デ・ステイル』


The White Stripes “De Stijl”

ザ・ホワイト・ストライプス 『デ・ステイル』
発売: 2000年6月20日
レーベル: Sympathy For The Record Industry (シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリー)

 ミシガン州デトロイト出身のガレージロック・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの2ndアルバム。タイトルになっている『De Stijl』の読み方は「デ・ステイル (də ˈsteɪl)」。

 「De Stijl」とは、1917年から1931年の間にオランダで起こった、芸術運動に由来しています。ちなみに「De Stijl」を、英語に訳すと「the style」。

 2000年代に起こった、ガレージロック・リバイバルを代表するバンドのひとつに数えられるホワイト・ストライプス。

 メンバーは、ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトの2人。基本はギターとドラムのみという2ピース編成で、ブルースを下敷きにしたガレージ・ロックを、独特のドタバタしたアンサンブルで展開するのが、彼らの音楽性の特徴です。

 ベースレスの2ピースということで、当然ながら通常の3ピースや4ピースのバンドと比較すれば、音数は少なくなり、建造物のように凝ったアンサンブルも構成しにくくなります。しかし、2ピースというミニマルな編成を逆手にとり、ロックのプリミティヴな攻撃性やグルーヴ感を、生々しくパワフルに響かせるのが、彼らの魅力であり、特異なところ。

 デビュー・アルバムでもある前作『The White Stripes』で聞かれた、ガレージらしい攻撃的なサウンドと、ロックのかっこいい部分を凝縮したようなアンサンブルはそのままに、さらに音楽性の幅を広げたのが本作です。

 1曲目「You’re Pretty Good Looking (For a Girl)」では、ドスンドスンとぶっきらぼうにリズムを刻んでいくドラムに、ざらついたサウンドのギターと、高らかに自由に歌い上げるボーカルが重なり、楽器の数は限られているものの、立体感のあるアンサンブルが展開。

 2曲目「Hello Operator」は、ドラムとギターが覆いかぶさるようにシンプルなリズムを刻み、手数は少ないのに、ダイナミズムが大きく、グルーヴ感に溢れたホワイト・ストライプスらしい楽曲。

 4曲目「Apple Blossom」は、アコースティック・ギターとピアノが用いられた、ガレージロックの要素は薄い、ブルージーな1曲。再生時間1:04あたりからの間奏での、パーカッシヴにリズムを刻むピアノと、伸びやかにソロを弾くギターの掛け合いも秀逸。

 5曲目「I’m Bound To Pack It Up」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた、穏やかな1曲。間奏から入ってくるヴァイオリンもアクセントになっており、クラシック要素ではなく、カントリー要素を楽曲にプラス。

 6曲目「Death Letter」は、ミシシッピー・デルタ・ブルースの伝説的シンガー、サン・ハウス(Son House)のカバー。ガレージロックらしい、ざらついた歪みのギターで、ブルースの名曲をパワフルな音像で、カバーしています。ギターのフレーズはブルージーな空気を失わず、ドラムとギターの絡み合いはロック的なグルーヴを持っていて、すばらしいアレンジ。ジャック・ホワイトの、ギタリストとしての技量の高さを思い知らされます。

 11曲目「Jumble, Jumble」は、下品に歪んだギターとドラムが前のめりにリズムを刻んでいく、ガレージ色の濃い1曲。テクニカルに難しいことをしているわけではないのに、バンドがひとつの塊になって迫ってくるような、臨場感と迫力に溢れた演奏。

 13曲目の「Your Southern Can Is Mine」は、ピードモント・ブルース・シンガーであり、ラグタイム・ギタリストでもあった、ブラインド・ウィリー・マクテル(Blind Willie McTell)のカバー。ピードモント・ブルース(Piedmont blues)とは、1920年代にピードモント台地周辺で起こった、フィンガースタイル・ギターを用いたブルースの一形態。アコースティック・ギターとドラムにより、音数を絞ったプリミティヴな演奏でカバーしています。

 前作同様、ブルースやカントリーなどのルーツ・ミュージックを、ガレージロックの飾り気のない音像で包んだのが、本作の基本的なサウンド。しかし、ルーツがより色濃く出たアレンジを採用するなど、前作にも増して、多彩な音楽を取り込んだアルバムとなっています。

 基本的にはギターとドラムだけ、というミニマルな編成だからこその、無駄を省いたパワフルなアンサンブルも、唯一無比。音楽が脳に直接叩き込まれるような、ダイレクトな魅力を持ったバンドです。

 





The White Stripes “The White Stripes” / ザ・ホワイト・ストライプス『ザ・ホワイト・ストライプス』


The White Stripes “The White Stripes”

ザ・ホワイト・ストライプス 『ザ・ホワイト・ストライプス』
発売: 1999年6月15日
レーベル: Sympathy For The Record Industry (シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリー)
プロデュース: Jim Diamond (ジム・ダイアモンド)

 ミシガン州デトロイト出身の2ピース・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの1stアルバム。

 ニューヨーク出身のザ・ストロークス(The Strokes)と並び、2000年代におけるガレージロック・リバイバルの中心バンドに数えられるホワイト・ストライプス。

 ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトによる、姉弟を自称する2ピース・バンド。バンドのイメージカラーは赤、白、黒の3色で、衣装もこれらの色のみ使用するなど、コンセプチュアルな点も話題になりました。

 ガレージ・ロックのリバイバルであるというのは、その通りなのですが、彼らが数多のガレージロック・リバイバル・バンドの中で突出した存在となったのは、過去の焼き直しではなく、オリジナルな部分を持っていたからこそ。このレビューでは、彼らの特異性を指摘しながら、本作の魅力をお伝えできればと思っています。

 彼らが結成されたデトロイトは、フォード、クライスラー、ゼネラルモーターズ(GM)のいわゆる「ビッグ3」が工場を置き、一般的には自動車の街として有名。そして、自動車産業と並んで、いくつもの重要な音楽を生み出してきた、音楽の街としても知られています。

 デトロイトにゆかりのある音楽をいくつか挙げると、まずはなんと言ってもモータウン(Motown Records)。デトロイト・テクノが誕生し、エミネム主演の映画『8 Mile』の舞台にもなりました。ガレージ・ロック第一世代を代表するバンドであるMC5も、デトロイトにほど近いミシガン州リンカーンパークで、1964年に結成され、デトロイトを拠点に活動しています。

 また、イギー・ポップが率いたザ・ストゥージズ(The Stooges)も、デトロイトから60kmほど離れたミシガン州アナーバーの出身。デトロイトで、何度も重要なライヴをおこなっています。

 以上のように、多くの良質な音楽を生んできたデトロイト。その一因となったのは、アフリカ系アメリカ人の人口の多さ。2010年の国勢調査では、アフリカ系アメリカ人または黒人の比率は、82.7%となっています。

 1910年には、白人が人口の98.7%を占めていたデトロイト市。それが、前述の自動車産業の発展により、南部に住む多数のアフリカ系アメリカ人が、デトロイトへ移住します。彼らがブルースやゴスペル、ロック、そして前述のモータウンやデトロイト・テクノなど、豊かな音楽文化を育む一因となったのは間違いありません。

 さて、そんなデトロイトで1997年に結成されたホワイト・ストライプス。1999年にリリースされた、デビュー・アルバムとなる本作では、ブルースやカントリーなどのルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、ざらついたサウンドによるガレージ・ロックを展開しています。

 ガレージ・ロックとは、その名のとおり、ガレージ(=車庫)で練習をおこなうことに由来する言葉です。音楽性に加えて、DIY精神やアマチュアリズムも包括した、ジャンル名だと言えるでしょう。

 ブルースやガレージ・ロックなど、デトロイトに所縁のある音楽を引き継ぎ、現代的にアップデート。さらに自動車の街として栄えたデトロイトで、1990年代にガレージ・ロックを高らかに鳴らす姿勢は、それだけで十分なコンセプトになり得ます。

 本作の音楽性は、前述のとおりブルースを基調にしながら、ガレージロックらしいダイナミズムの大きなアンサンブルと音像を持ったもの。しかし、懐古主義に陥っているわけではなく、先述のコンセプトを含め、現代的な面を持ち合わせているところが、このバンドの特異なところです。

 ギターとドラムからなる2ピースという編成も、十分に特殊ですが、そこから鳴らされるサウンドは、さらに個性的。立体的でドタバタ感のあるドラムに、ガレージらしく毛羽立った歪みのギターが絡みつきます。

 ベースレスの2ピースで、サポートメンバーも入れないため、当然ながら通常のバンドよりも隙間の多いアンサンブル。しかし、その隙間が一音の重みを際立たせ、躍動感に溢れた演奏を演出します。

 シンプルで手数の少ないメグ・ホワイトのドラミングは、時にテクニックに乏しいと捉えられることもありますが、そのシンプルなスタイルから生まれるダイナミズムは、間違いなくこのバンドの特徴となっています。

 そして、テクニックや様式美にとらわれず、感情をそのまま変換したかのような、自由でパワフルなジャック・ホワイトのギター。ベースレスの編成を逆手にとり、ロックの持つ根源的なグルーヴ感や、サウンドの持つ攻撃性を際立たせ、頭にガツンと響く音楽を繰り広げていきます。

 1曲目の「Jimmy The Exploder」から、ドタドタとパワフルにリズムを刻むドラムに、エモーショナルに唸りを上げるギターが絡み合い、音数と楽器数は少ないはずなのに、ロックの魅力を凝縮したような音楽が展開。

 2曲目「Stop Breaking Down」と、7曲目「Cannon」は、それぞれ伝説的なブルース・シンガー、ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)とサン・ハウス(Son House)の楽曲のカバー。ルーツ・ミュージックへのリスペクトを示しつつ、ホワイト・ストライプスらしいドタバタ感のあるアンサンブルに仕立て上げています。

 4曲目「Suzy Lee」と17曲目「I Fought Piranhas」には、オハイオ州マウミー出身のガレージロック・バンド、ソールダッド・ブラザーズ(Soledad Brothers)のジョニー・ウォーカー(Johnny Walker)が、スライドギターで参加。以上2曲は、伸縮するようなリズムを持った、ブルージーな空気が充満するサウンドとなっています。

 9曲目「Broken Bricks」は、ところどころつっかえながら、前のめりに疾走していくガレージ・ロック。

 13曲目「One More Cup Of Coffee」は、ボブ・ディラン(Bob Dylan)のカバー。アコースティック・ギターを用いて、ボブ・ディランのフォークに、ブルージーな香りを足したアレンジとなっています。途中から挿入されるオルガンによるロングトーンが、楽曲に奥行きをプラス。

 本作の音楽性を単純化して説明するなら、「ブルースを下敷きにしたガレージ・ロック」ということになるのでしょうが、そんな折衷的な音楽にはとどまらない、オリジナリティを持ったアルバムです。

 前述したように、その理由のひとつは2ピース編成で、今までには無いグルーヴやアンサンブルを構築していること。もうひとつには、ジャック・ホワイトのギター・テクニックと、音楽的教養の深さが挙げられます。

 一聴すると、かっこいいツボを刺激する、現代版のガレージ・ロックに聴こえるのですが、聴き込むほどに、様々なジャンルの断片が見えてくるアルバムです。

 むき出しのパワフルなサウンドとアンサンブルに、まずは耳を奪われますが、その深層にはルーツ・ミュージックからオルタナティヴ・ロックまで、幅広い音楽が垣間見えます。単なるガレージ・ロックの焼き直しではなく、時代を代表する名盤と言ってよいでしょう。