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William Tyler “Modern Country” / ウィリアム・タイラー『モダン・カントリー』


William Tyler “Modern Country”

ウィリアム・タイラー 『モダン・カントリー』
発売: 2016年6月3日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Brad Cook (ブラッド・クック)

 テネシー州ナッシュヴィル出身のギタリスト、ウィリアム・タイラーが自身の名義でリリースする、3作目のスタジオ・アルバム。前作『Impossible Truth』に引き続き、ノースカロライナ州ダーラムのインディーズ・レーベル、マージからのリリース。

 同郷であるナッシュヴィル出身のオルタナ・カントリー・バンド、ラムチョップ(Lambchop)にも参加し、これまでのソロ・アルバムでもカントリーやフォークなど、アメリカのルーツ音楽への深いリスペクトを見せてきたウィリアム・タイラー。

 アコースティック・ギターを中心に据えたナチュラルなサウンドを用いて、カントリーやフォークを下敷きにした、テクニカルなフィンガースタイル・ギターを披露してきたタイラーですが、本作では電気楽器の比率が格段に増え、ポストロック的な音像を持ったアルバムとなっています。

 前作『Impossible Truth』でも、エレキ・ギターの使用により、アメリカン・プリミティヴ・ギター(American primitive guitar)的なサウンドを越えて、現代的な空気を漂わせてはいましたが、今作はそれ以上。エレキ・ギターやエレキ・ベース、さらにはシンセサイザーの電子音然としたサウンドも使用されます。

 前作までのタイラーの作風は、フォークやカントリーなどアメリカのルーツ音楽を、現代的に解釈し直す、アメリカン・プリミティヴ・ギター(American primitive guitar)の系譜に位置するもの。今作でもルーツ・ミュージック的なテクニックやフレーズが使われていますが、全体のアレンジとサウンド・プロダクションは、極めて現代的にアップデートされています。

 1曲目「Highway Anxiety」は、エレキ・ギターと柔らかな電子音が溶け合い、各楽器が緩やかに絡み合いアンサンブルが構成される、ポストロック色の濃い1曲。ドラムの小気味いいリズムも、ギター・プレイが前面に出された前作では聞かれなかったアプローチ。

 2曲目「I’m Gonna Live Forever (If it Kills Me)」は、倍音のたっぷり含まれた電子音と、オーガニックなアコースティック・ギターの響き、緩やかにグルーヴするリズム隊が、躍動する生き物のような有機的なアンサンブルを作り出していきます。

 3曲目「Kingdom Of Jones」は、はじけるようにみずみずしいアコースティック・ギターが、流れるように音楽を紡ぎ出していく1曲。ヴェールで包み込むように、奥の方で鳴る電子的な持続音が、音楽に奥行きを与えています。

 4曲目「Albion Moonlight」は、カントリーの香りを漂わせるスライド・ギターと、エレクトロニックな柔らかい持続音が溶け合い、ルーツ音楽の焼き直しにとどまらない、モダンな音像を持った1曲。

 5曲目「Gone Clear」は、流れるようなギターの粒だった音と、低音のロングトーンが、厚みのある音の壁を作り出していきます。ギターの音色とフレーズはカントリー的ですが、全体のサウンド・プロダクションは、音響が前景化したポストロックのように心地よい1曲。

 6曲目「Sunken Garden」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、暖かなサウンドと牧歌的な雰囲気を持った1曲。

 7曲目「The Great Unwind」では、各楽器が緩やかに絡み合う、立体的なアンサンブルから始まり、激しく歪んだギターが加わってくる、意外性のある展開の1曲。しかし、耳にうるさい種類の歪みではなく、穏やかな楽曲の雰囲気にマッチした、絶妙なバランスのサウンド。

 カントリーやフォークからの影響は間違いなくあるのですが、一聴するとカントリーよりも、ポストロックのように聴こえる、現代的な雰囲気を持ったアルバム。良い意味で、アメリカン・プリミティヴ・ギターの流れからはみ出た、オリジナリティ溢れる作品と言えます。

 『Modern Country』という、アルバムのタイトルも示唆的。「古いのに新しい」という絶妙なバランスで成り立っていて、アメリカという国の音楽文化の、懐の深さも感じます。