Archers Of Loaf “Icky Mettle”
アーチャーズ・オブ・ローフ 『イッキー・メトル』
発売: 1993年11月23日
レーベル: Alias (エイリアス), Merge (マージ)
プロデュース: Caleb Southern (カレブ・サザン)
1991年にノースカロライナ州チャペルヒルで結成された、4人組インディー・ロック・バンド、アーチャーズ・オブ・ローフの1stアルバム。1993年にエイリアスからリリースされ、その後2011年に地元ノースカロライナ州のレーベル、マージより2枚組のデラックス・エディションとして再発されています。
カレブ・サザンをプロデューサー兼エンジニアに迎え、チャペルヒルのクラップトーン・スタジオ(Kraptone Studios)で、ミックスも含め、わずか7日間でレコーディングされたという本作。
シンプルな音作りに、ほどよく攻撃性を持った歌唱と演奏。躍動的なアンサンブルと、意外性のある実験的なアレンジ、耳なじみのいいメロディーも持ち合わせ、全ての面でオーバー・プロデュースにはならず、地に足が着いていて、インディー・ロックかくあるべし!というアルバムです。
同じノースカロライナ州出身で、マージの創設者でもあるスーパーチャンク(Superchunk)に繋がる音楽性と言ってもいいでしょう。
1993年にリリースされた当時は、CDとLPの両方で発売されており、LP版では1曲目から6曲目までのA面が「Icky Side」、7曲目から13曲目までのB面が「Mettle Side」となっていました。
1曲目「Web In Front」は、残響音の少ない、タイトで飾り気のないスネア・ドラムからスタート。その後、やや感情的に歌い上げるボーカルをはじめ、ギターもベースも狙い過ぎないシンプルな音を持ち寄り、各楽器がゆるやかに組み合い、アンサンブルを構成していきます。
2曲目「Last Word」は、ざらついた歪みのギターと、宇宙空間を漂うようなギターの音色が重なる、1曲目よりも凝ったサウンド・プロダクションの1曲。ギターのサウンドが前面に出てくる曲ですが、パワフルに歌い上がるボーカルの歌唱も負けていません。シンプルな音作りとプレイで、アンサンブルを支えるリズム隊も合わさり、躍動感のある演奏が展開。
4曲目「You And Me」は、ベースとボーカルのみの静かなイントロから始まり、やがてノイジーなギターがなだれ込んでくる、静と動のコントラストが鮮烈な1曲。静寂から轟音への移行は、ロックではよく用いられるアレンジですが、この曲は音圧よりも音域でコントラストを作り出しているところが、インディーらしくて良いなと思います。単純に当時の機材的、技術的な制約のために、圧倒的な轟音や爆音を作り出せなったのかもしれませんが、だらっとしたベースとつぶやき系のボーカルから、高音域を駆使した耳障りなギターが突如として入ってくる部分には、ロックのダイナミズムが集約されています。
5曲目「Might」は、ビートのくっきりとしたノリの良い1曲。ドラムがところどころスネアを叩かずに、足がつっかえるようになるところがフックになっています。ギターの厚みのあるサウンドも、楽曲に奥行きをプラス。
6曲目「Hate Paste」は、イントロからアコースティック・ギターが用いられ、フォーキーな雰囲気を持ちながら、他の楽器が加わると、四方八方から音が飛んでくるような、多彩で立体的なアンサンブルへと展開する1曲。
7曲目「Fat」は、複数の歪んだギターと、シャウト気味のボーカルの歌唱が、エモーショナルな空気を振りまく1曲。LPだと、ここからB面の「Mettle Side」がスタート。
8曲目「Plumb Line」は、ざらついた歪みのギターのフレーズと、感情を抑えたクールなボーカルを中心にアンサンブルが構成される、ミドル・テンポの1曲。
9曲目「Learo, You’re A Hole」は、高音を駆使したノイジーなギターと、タイトなリズム隊がコントラストをなす前半から、より開放的で躍動感を増すサビ部分へと展開する1曲。ボーカルは激しくエモーショナルな歌唱と、感情を押さえつけたような歌唱を使い分け、演奏もタイトな部分とラフな部分が共存した、バランスが秀逸。
13曲目「Slow Worm」では、複数のギターによって、厚みのある音の壁が構築。ギターはそれぞれ音作りが異なり、それらが重なり合うことで、倍音たっぷりの分厚いサウンドが目の前に立ち現れます。
音圧が高いハイファイなサウンドではないのですが、楽器の音がダイレクトに感じられる、原音の良さを活かしたサウンド・プロダクションを持った1作です。アレンジも、特別にテクニカルであったり、複雑であるわけではないのですが、音色とフレーズの組み合わせと、楽器の出し入れによって、非常に立体的でカラフルな音を、作り出しています。
全体をとおして、実にインディーロックらしい佇まいを持ったアルバム。音色やテクニックなど、音楽を形作るパーツは限られているのに、アイデアで多彩な音世界を作りあげていくところが、インディーロック然とした印象を与える、要因ではないでしょうか。