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Deerhunter “Cryptograms” / ディアハンター『クリプトグラムス』


Deerhunter “Cryptograms”

ディアハンター 『クリプトグラムス』
発売: 2007年1月29日
レーベル: Kranky (クランキー)
プロデュース: Chris Bishop (クリス・ビショップ)

 ジョージア州アトランタを拠点に活動するバンド、ディアハンターの2ndアルバム。2005年にリリースされた1stアルバム『Turn It Up Faggot』は、彼らの地元アトランタのスティックフィギュア(Stickfigure)というレーベルからのリリースでしたが、2作目となる本作は、シカゴのクランキーからリリースされています。

 エフェクターの深くかかったギターを中心に、音が何層にも重ねられ、シューゲイザー的なサウンドもある、サイケデリックなアルバム。しかし、多層的な音世界が構築されているのに、あくまで地に足が着いたかたちで、コンパクトにまとまっているのが、このアルバムの良いところです。

 60年代〜70年代のサイケデリック・ロックや、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス&メリーチェインなどの雰囲気も漂いつつ、しっかりとオリジナリティのある音楽が作り上げられています。

 1曲目「Intro」は、その名のとおりイントロダクション的な1曲。水が流れるフィールド・レコーディングの音から始まり、音がレイヤー状に折り重なっていきます。

 2曲目「Cryptograms」は、ビートははっきりしているものの、疾走感よりも浮遊感を強く感じる、不思議な音像の曲。再生時間1:15あたりからの空間を埋め尽くすように広がっていくサウンドからは、トリップ感が伝わります。

 3曲目「White Ink」は、音がディレイによって無限に増殖していくような、音響を前景化させた1曲。音の奥から、また別の音が聞こえ、壁のように立ちはだかります。

 4曲目「Lake Somerset」は、ボーカルにも楽器にもエフェクターがかけられ、ジャンクでアヴァンギャルドな空気が漂う1曲。

 6曲目「Octet」は、はっきりとした構造よりも音響が前面に出た、エレクトロニカ色の濃い1曲。ボーカルも入っていますが、歌メロを追う曲ではなく、声も楽器の一部としてまわりの音に溶け込んでいます。

 9曲目「Strange Lights」は、厚みのあるギター・サウンドと、リズム隊による分かりやすいビート、流麗なメロディーが溶け合った、サイケデリックなギターロック。

 10曲目「Hazel St.」は、ギターの音色とコーラスワークには幻想的な空気が漂う、ゆるやかな疾走感のある曲。この曲に限らず、ギターにかけられた空間系エフェクターのもたらす音の揺らぎや変化が、リズムに取り込まれていくところが、なんともサイケデリックで、心地よいです。

 12曲目「Heatherwood」は、ジャンクでファニーな音色を用いて、立体的なアンサンブルが構成される1曲。空間系エフェクターで揺らめくギターや、ドタバタ感のあるドラムが絡み合い、ささやき系のボーカルも相まって、ややチープなのに神秘的な、独特のサウンドを作り上げています。

 シカゴやニューヨーク、あるいはシアトルやルイヴィル、オマハといった大きなインディーロック・シーンを持つ都市ではなく、南部アトランタ出身のディアハンター。アトランタというと、90年代以降はヒップホップをはじめとしたブラック・ミュージックが盛んなイメージがありますが、そんなアトランタから出てきて、個性的なサイケデリック・サウンドを奏でているのが、このバンドです。

 シアトルにおけるグランジ、オマハにおけるサドル・クリークのように、その街を代表するジャンルやレーベルの流れの中からではなく、個性的なバンドが全国からぽっと出てくるところも、USインディーズの魅力だと思います。

 本作『Cryptograms』も、シーンの流れに迎合せず、かといって自分たちが好む過去の音楽の焼き直しでもなく、個性あふれるサイケデリックなロックを鳴らしています。実験性とポップさのバランスも秀逸な1枚。