The Zincs “Black Pompadour”
ザ・ジンクス 『ブラック・ポンパドール』
発売: 2007年3月20日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)
シカゴを拠点に活動するバンド、ザ・ジンクスの3rdアルバム。元々は英国ロンドン出身のシンガーソングライター、ジェームス・エルキントン(James Elkington)のソロ・プロジェクトとして始動しましたが、その後はシカゴ界隈のメンバーが集った4人編成のバンドとなります。
前作『Dimmer』に引き続き本作も、シカゴを代表するレーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。また、ミックスとレコーディング・エンジニアをトータス(Tortoise)のジョン・マッケンタイアが務め、エルキントン以外のメンバーを含め、シカゴ人脈で固められたアルバムです。
先入観を持って音楽に向かうべきではありませんが、スリル・ジョッキーらしいセンスに溢れたアルバムです。すなわち、ポップで穏やかなギターロックでありながら、随所にアヴァンギャルドな空気を含んでいて、実験性と大衆性のバランスが秀逸。スリル・ジョッキーと言うと、トータスをはじめとしたポストロックのイメージが強いですが、ザ・ジンクスもポストな要素が多分に感じられるバンドです。
音数を絞りつつ、多様なアンサンブルを展開した前作と比較すると、今作の方がテンポを上げ、疾走感のある曲が増えています。
1曲目「Head East Kaspar」は、歯切れの良いギターと、立体的なドラム、電子音が重なる多層的な1曲。ゆるやかに心地よくグルーヴしていく曲ですが、奥の方で全体を包みこむように鳴るエレクトロニックな持続音が、単なるギターロックにとどまらないポストロック的な雰囲気をプラスしています。
2曲目「Coward’s Corral」は、イントロから前のめりの疾走していく曲。ギターとベースが、それぞれリズムのフックとなり、加速感を演出しています。
3曲目「Hamstrung And Juvenile」は、キーボードと思しき倍音豊かなサウンドが、曲に厚みを与えています。バンド全体が縦を合わせた時の、厚みのあるサウンドも心地よい。
4曲目「Rice Scars」は、柔らかな電子音がヴェールのように全体を包み、美しいコーラスワークも相まって、幻想的な雰囲気の1曲。女性ボーカルは、イーディス・フロスト(Edith Frost)がサポートで参加しているようです。
5曲目「The Mogul’s Wives」は、歯切れよく、縦の揃ったアンサンブルが展開されます。タイトに引き締めた部分と、グルーヴしていく部分のコントラストも鮮やか。
6曲目「Finished In This Business」は、各楽器とも手数が多く、厚みのあるアンサンブルを機能的に編み上げていきます。正確に、リズムが伸縮するような、メリハリあるリズムを刻むドラム。流れるように音を紡いでいくギターなど、各楽器ともきっちりと自分の役割を果たしていて、情報量の多い1曲。
7曲目「Burdensome Son」は、ややリズムが複雑な曲。各楽器が折り重なるようにアンサンブルを構成し、その上をすり抜けるようにボーカルがメロディーを紡いでいきます。
あくまでポップ・ソングとして聴けるギターロックの範疇にありながら、リズムやフレーズには随所にアヴァンギャルドな雰囲気を持ったアルバムです。前作以上に、躍動感やグルーヴ感が強く、カラフルな印象の作品になっています。
ギタリストのナサニエル・ブラドック(Nathaniel Braddock)が、元々はジャズ畑出身であるというのも関係しているのかもしれませんが、ポップでありながら、随所に非ロック的な雰囲気が違和感として感じられます。ザ・ジンクスが奏でるのは、同じくスリル・ジョッキー所属のザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)とも共通する、ポストロック性を持ったギターポップ、ギターロックです。