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Sloan “12” / スローン『12』


Sloan “12”

スローン 『12』
発売: 2018年4月6日
レーベル: Yep Roc (イェップ・ロック), Murderecords (マーダーレコーズ)

 カナダのノバスコシア州ハリファックス出身のバンド、スローンの12枚目のアルバム。書いていて、やっと気がつきましたけど、12枚目のアルバムだから『12』というタイトルなんですね。アメリカではYep Roc、カナダでは彼ら自身のレーベルMurderecordsからのリリース。

 1991年から活動を続けるスローン。前述したとおり、今作は12枚目のアルバムであり、キャリア的には中堅からベテランにさしかかるバンドです。今作も安定感抜群の、みずみずしい楽曲を響かせています。

 ジャンル的にはパワーポップに括られることの多い彼らですが、これまでのキャリアを通して、時期によって音楽性を微妙に変え、広げています。今作はメロディー志向で、親やしすい歌メロを中心に据えながら、バンドのサウンドにはシューゲイザーやギターポップの要素が感じられ、非常にカラフル。

 流れるようなメロディーと、フックとなる楽器のリズムが重なる関係性も、楽曲に奥行きとメリハリを与えていると思います。ひとつ具体的に例を出すと、流麗なメロディーに対して、跳ねるようなギターのリズムが重なり、躍動感を演出するような場面が随所に聞かれます。

 1曲目「Spin Our Wheels」は、8ビートのリズムに、爽やかなメロディーとコーラスワークが乗る1曲。サウンドとメロディーが、若々しく、みずみずしく、思わず「エヴァーグリーン」という言葉を使いたくなります。イントロからAメロまで、基本的にはシンプルな8ビートで進行しますが、Aメロ部分0:26あたりで1小節だけ4分の2拍子となり、疾走感といい意味での違和感を演出しています。

 3曲目「Right To Roam」は、ところどころにリズムにタメがあり、リスナーの耳をつかみながら、流れるように前進していく曲。各楽器とコーラスも含めたボーカルが、有機的に絡み合い、緩やかな躍動感があります。

 4曲目「Gone For Good」は、いきいきとしたアコースティック・ギターとピアノの音色が、耳に残る1曲。アコースティック・ギターが主導的なパートを担っているため、全体のサウンドもオーガニックな印象が強くなっています。

 5曲目「The Day Will Be Mine」は、4曲目とは打って変わって、ハードに歪んだギターがイントロから鳴り響く曲。イントロ部分厚みのあるサウンドは、シューゲイザーを彷彿とさせます。しかし、ボーカルのメロディーが入ってくるとギターは後景化し、ポップなメロディーが前面に出てきます。

 6曲目「Essential Services」は、イントロからピアノがアンサンブルの中心に据えられ、緩やかなグルーヴ感のある曲。アクセントの位置がところどころ移動し、シンプルながらいきいきと躍動していきます。

 9曲目「Have Faith」は、ハードロックを思わせる、唸るようなギターのフレーズからスタート。その後は、軽やかな縦ノリのリズムに、コンパクトにまとまったボーカルのメロディーが乗ります。

 10曲目「The Lion’s Share」は、各楽器が絡み合い、立体的なアンサンブルが構成させる1曲です。イントロのかっこよさが、このアルバムには共通していると思うのですが、この曲も歌が入ってくるまでのイントロ部分が、各楽器がサウンドとリズムに差異をつけつつ、一体の生き物のように有機的に音楽を作り上げています。

 12曲目「44 Teenagers」は、ゆったりとしたテンポで、全体のサウンドとコーラスワークから、サイケデリックな雰囲気が漂う1曲。特に、揺れるようなやや不安定なピアノの音色が、サイケデリックな香りを振りまいているんじゃないかと思います。コーラスワークもここまでの爽やかなアレンジと比較すると、リズムは同じで音程だけ分かれていく部分が多く、多層的でドラッギーな空気を醸し出しています。

 アルバム全体をとおして一聴したときは、爽やかで若々しいギターポップというイメージでしたが、何度か通しで聴いてみると、次々と新たな表情が見えてくるアルバムでした。勢いで突っ走るだけでも、ポップなメロディーのみが前面に出てくるわけでもなく、様々な音楽の要素が、地に足の着いたかたちで顔を出し、奥行きのある音楽を構築していると思います。

 





Born Ruffians “Ruff” / ボーン・ラフィアンズ『ラフ』


Born Ruffians “Ruff”

ボーン・ラフィアンズ 『ラフ』
発売: 2015年10月2日
レーベル: Yep Roc (イェップ・ロック), Paper Bag (ペーパー・バッグ)

 カナダ、オンタリオ州ミッドランド出身のバンド、ボーン・ラフィアンズの4枚目のアルバム。

 1stアルバムと2ndアルバムは、電子音楽を得意とするイギリスのワープ・レコーズ(Warp Records)からのリリースでしたが、3rdアルバムからは、アメリカ・ノースカロライナ州のインディーレーベル、イェップ・ロック(Yep Roc)と、カナダ・オンタリオ州のインディーレーベル、ペーパー・バッグ(Paper Bag)からリリース。

 スコットランドを代表するポストパンク・リバイバル・バンド、フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)とのツアー経験もあり、あまり偏見を持って音楽に接するべきではありませんが、ボーン・ラフィアンズの音楽も、ギターをフィーチャーしたポストパンク的なサウンドを持っています。

 ヴィブラートをかける高音ボーカルは、ほどよい軽さを持っており、ポストパンク的なサウンドとも相まって、パーティー感のある耳ざわり。しかし、それ以上にバンドに躍動感があり、アンサンブルもしっかりと楽しめるアルバムです。

 収録される楽曲群とアレンジも多種多様。アンサンブルは、アヴァンギャルドだけどポップ。そして、親しみやすいメロディーが、アレンジの実験性を中和して、カラフルでポップな印象を強めているなと思います。実験性と大衆性のバランスが絶妙です。

 1曲目「Don’t Live Up」は、音が弾んでいくような、軽やかでいきいきとした1曲。裏声を用いたボーカルも耳に残ります。再生時間0:27あたりのギターの速弾きがアクセント。

 2曲目「 Stupid Dream」は、イントロ部で左チャンネルから聞こえる、打ちつけるようなドラム(エフェクトのかかったタム?)が立体的に響きます。ギターの小気味よいリズムと、軽い感じの裏声を使ったボーカルが、楽曲をよりカラフルに。

 3曲目「Yawn Tears」は、ギター、ベース、ドラムが立体的に絡まる有機的なアンサンブル。ゆったりと、しかし随所にフックを置いた演奏が展開していきますが、再生時間1:04あたりからはシフトが切り替わり、流れるようなアンサンブルに。

 5曲目「When Things Get Pointless I Roll Away」は、厚みのあるアコースティック・ギターの響きに、開放的なコーラスワークが合わさる1曲。全体としてはカラフルでかろやな印象の曲ですが、低音の効いたリズム隊が奥行きをプラスしています。

 6曲目の「& On & On & On」は、伸びやかなボーカルと、緩やかに前進していくアンサンブルが心地よい1曲。タイトルのとおり「On」を繰り返す歌詞も耳に残ります。この曲が、個人的にはこのアルバムのベスト・トラック。ギターとボーカル、リズム隊が追いかけっこのように、多層的に折り重なって、なおかつグルーヴ感にも溢れ、音楽のフックがいくつもあり、聴いていて本当に楽しい曲です。

 8曲目「 (Eat Shit) We Did It」は、ファルセットを多用するボーカルが、この曲では低音域を効果的に用いています。緩やかかなグルーヴ感を持ち、コンパクトにまとまったギターロック的なアンサンブルも心地よい。再生時間0:48あたりの右チャンネルから聞こえるハンド・クラップのような音であるとか、この曲に限らず、アルバムを通して立体的なサウンドを構築しています。

 10曲目「Let Me Get It Out」は、エフェクトがかけられファニーな音色のギターとベースをバックに、やや軽くポップなボーカルがメロディーを歌い上げていきます。再生時間1:18あたりからの部分など、演奏の盛り上がりと比例して、ボーカルも感情的に声を絞り出し、メリハリと躍動感のある1曲。

 11曲目「Shade To Shade」は、ゆったりしたテンポに乗せて、エフェクトをかけられ震えるようなギターの上に、高音ボーカルがエモーショナルにメロディーを紡いでいく1曲。空間系エフェクターを使用したギターのサウンドから、サイケデリックな雰囲気も漂います。

 ボーカルとギターの音をはじめとして、全体のサウンド・プロダクションとしては、いわゆるポストパンク・リバイバルやダンス・パンクの範疇に入ると言っていいでしょう。しかし、ダンス要素もありつつ、直線的なビートだけでなく、アンサンブルにも聞きどころが非常に多い1枚です。

 ちなみに当初は11曲収録でしたが、配信で販売されている「Deluxe Version」にはボーナス・トラックが4曲追加され、15曲収録となっています。

 一般的には、1stアルバムの評価が高く、その後のアルバムはあまり評価されない傾向にあるようですが、個人的にはとても優れたアルバムを作り続けているバンドだと思ってます。あえて悪いところを挙げるなら、1stからあまり音楽性の変化や上積みがないです。しかし、常に一定以上のクオリティを保っているのは確かですよ!