The Jesus Lizard “Head” / ジーザス・リザード『ヘッド』


The Jesus Lizard “Head”

ジーザス・リザード 『ヘッド』
発売: 1990年5月
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州オースティン出身のバンド、ジーザス・リザードの1stアルバムです。1990年代のTouch And Goレーベルを代表するバンドであり、スティーヴ・アルビニがエンジニアを務めたことでも有名。

 本作は1990年にLP盤レコードで発売された後、1992年にCD化されています。CD版には、1989年発売のEP『Pure』も同時収録。また、2009年には本作を含めて、ジーザス・リザードがTouch And Goに残した4枚のアルバムが、リマスターされ再発されています。

 ジャンルとしては「ノイズ・ロック」や「ポスト・ハードコア」に括られることの多いジーザス・リザード。では、実際にはどんな音楽が鳴っているのかと言うと、硬質なギターとベースのサウンドに、臨場感あふれるドラムがタイトにリズムを刻み、ややローファイな空気を持つボーカルがエモーションをまき散らす、アングラな雰囲気と立体的なアンサンブルが融合したロックです。

 スピード重視のハードコア的なアプローチではなく、テンポは抑え目に、各楽器が絡み合うようにアンサンブルを構築するという意味では、「ポスト・ハードコア」と言っていいでしょう。サウンドと楽曲が持つダークな空気感には、ハードコアの要素が色濃く感じられます。

 音質については、レコーディング・エンジニアを務めたスティーヴ・アルビニの功績も大きいのでしょうが、非常に生々しく、臨場感のあるサウンドでレコーディングされています。

 1曲目「One Evening」から、全ての楽器の音が、無駄をそぎ落とされたように非常にタイトに響きます。特にベースの音は硬質で、バンド全体を引き締めています。金属的な歪みのギター、音にも手数にもムダが無いドラム、そして感情を吐き出すようなボーカル。アルバム冒頭から、耳を掴まれる1曲です。

 5曲目の「7 vs. 8」(Seven vs. Eight)では、イントロのドラムが残響音とスタジオの空気を感じられるぐらい、リアリティをともなって響きます。このあたりのサウンドは、さすがアルビニ先生! その後に入ってくる他の楽器も、音圧が高いだけではない、リアルな響きを持っています。

 7曲目「Waxeater」は、立体的なドラムと、硬い音質のベースに、ジャンクに歪んだギターが覆いかぶさり、各楽器が絡み合うアンサンブルが、かっこいい1曲。

 「ノイズ・ロック」と称されることもあるとおり、確かにボーカリゼーションと全体のサウンド・プロダクションには、ジャンクでアングラな空気も持っているのですが、バンドのアンサンブルは思いのほか機能的に構成され、クオリティが高いです。

 これもよく話題にあがることですが、ギタリストのデュエイン・デニソン(Duane Denison)が、クラシック・ギターから音楽を始め、ジーザス・リザード結成前にはジャズを演奏していた、というのも彼らの独特の音楽性に関係しているのでしょう。

 奇をてらって、変な音を出しているバンドではなく、優れたアンサンブルとサウンドを持ち合わせたバンドです。Touch And Goの入門盤としても、オススメいたします。