The Jesus Lizard “Goat” / ジーザス・リザード『ゴート』


The Jesus Lizard “Goat”

ジーザス・リザード 『ゴート』
発売: 1991年2月21日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州オースティン出身のバンド、ジーザス・リザードの2ndアルバムです。レコーディング・エンジニアは、前作から続いてスティーヴ・アルビニが務めています。

 1990年代のTouch And Goを代表するバンドであり、スティーヴ・アルビニが録音を担当したバンドのなかでも、人気の高いジーザス・リザード。本作も、ジャンクかつ実験的な雰囲気を持ちながら、同時に緻密なアンサンブルが展開される名盤です。

 もう少しフランクに言い換えると、アレンジも音も変態的だけど、めちゃくちゃかっこいい!ということです。アルビニ先生の手による、混じり気のない殺伐としたサウンドも、彼らの音楽を引き立てます。というより、彼らが出していた音と空気感を、アルビニが完璧に録音して閉じ込めたということでしょう。

 1曲目「Then Comes Dudley」。堅くハリのある音質のベースと、独特のツヤのあるギターの単音、少ない手数で時間を切り刻むようにタイトなリズムを生み出すドラム。3者が絡み合うような、絡み合わないような、絶妙のバランスでアンサンブルを構成していきます。

 耳に引っかかるサウンドやアレンジが随所にあるのですが、例えば再生時間0:41あたりからの異世界の音階のようなギターのフレーズなど、違和感がフックになっていて、非常にかっこいいです。

 2曲目「Mouth Breather」は、イントロからギターがハードロック的なリフを弾いています。しかし、そこはジーザス・リザード。ドラムが入ってくると、ギターとドラムがお互いにかみ合うような、独特のリズム感を形成します。両者にからまりつくようにベースとボーカルも入ってくると、歯車がカチッと合った機械のように、複雑かつ緻密なアンサンブルを作り上げます。

 3曲目「Nub」は、アームを使っているのか、エフェクターで操作しているのか分かりませんが、時空が歪むように音程が変化するギターが、心地よく響く1曲です。ドカドカと臨場感のあるドラムの音も、最高に良い。

 7曲目「South Mouth」は、跳ねまわるようなパワフルなドラムに、ギターとベースが絡まり、ねじれた疾走感のある1曲。再生時間0:26あたりからの、ジャンクな雰囲気の展開も、コントラストを生み出しています。

 8曲目「Lady Shoes」も、疾走感あふれる1曲です。冒頭から全ての楽器がひとつの塊になって、こちらに迫りくるようなアレンジ。その塊が、再生時間0:27あたりで、ほどけて暴発するような展開も、スリルと緊張感を演出しています。

 サウンド的にもアレンジ的にも、ジャンクな空気を色濃く出しながら、バンドとして相当な技量を持っていることを随所に感じる1枚です。

 ここまでは触れてきませんでしたが、メロディー感のない、かといってハードコア的なシャウトでもない、デイビット・ヨウ(David Yow)のボーカルも、このバンドの重要な構成要素のひとつです。

 下品な耳ざわりなのに、アンサンブルは機能的で知性すら感じる、そんなバランス感覚が本作およびジーザス・リザードの魅力。他に似ているバンドもいませんし、未聴の方にはぜひとも聴いていただきたい1枚です。(メジャー移籍後の作品より、本作を含めTouch And Go在籍時のアルバムを、圧倒的にオススメします!)