Nation Of Ulysses “13-Point Program To Destroy America” / ネイション・オブ・ユリシーズ 『13ポイント・プログラム・トゥ・デストロイ・アメリカ』


Nation Of Ulysses “13-Point Program To Destroy America”

ネイション・オブ・ユリシーズ 『13ポイント・プログラム・トゥ・デストロイ・アメリカ』
発売: 1991年7月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ)

 1988年にワシントンD.C.で結成されたポスト・ハードコア・バンド、ネイション・オブ・ユリシーズの1stアルバム。バンド名の表記には、定冠詞の「The」が付いていたり、いなかったりしますが、この1stアルバムのジェケットでは、付いていません。

 結成当初はユリシーズ(Ulysses)というバンド名でしたが、1989年にギタリストのティム・グリーン(Tim Green)が加入した際、ネイション・オブ・ユリシーズへ改名しています。

 本作『13-Point Program To Destroy America』された翌年の1992年に、わずか4年の活動期間で解散してしまうバンドですが、ディスコードらしいスピード感と個性に溢れ、多大なインパクトを与えたバンドです。本作は、ディスコードの創始者、イアン・マッケイがプロデュースを担当し、疾走感と独特のねじれのあるポストハードコア・サウンドが鳴らされます。

 現代的なハイファイ・サウンドと比較してしますと、やや音圧不足に感じる方もいらっしゃると思いますが、それを上回るテンションが閉じ込められたアルバムです。特にボーカルとトランペットを担当するイアン・スベノーニアス(Ian Svenonius)の歌唱は、エモーショナルで鬼気迫るものがあります。また、アレンジメントは直線的なだけでなく、ノー・ウェーブ(No Wave)を彷彿とさせる実験性も多分に含んでいます。

 1曲目の「Spectra Sonic Sound」から、細かいリズムで、疾走感あふれる演奏が展開されます。絶叫するボーカルが、緊迫感をさらに演出。

 3曲目「Today I Met The Girl I’m Going To Marry」は、疾走感のある曲ですが、ビートが直線的ではなく、ところどころ足がもつれるように、複雑に駆け抜けていきます。自由で、投げやりな雰囲気のボーカルとのバランスも秀逸。

 4曲目「Ulythium」は、イントロからトランペットがフリーなフレーズを吹き、楽曲にアヴァンギャルドな空気を漂わせます。トランペットと、2本の歪んだギターが絡み合い、フリージャズとハードコアが融合したように疾走する1曲。

 12曲目「Target: USA」は、バンド全体が前のめりに疾走していく1曲。ボーカルも含め、波のようにバンドが躍動しながら迫ってきます。

 13曲目「Love Is A Bull Market」のタイトルは、フランク・シナトラのアルバム『Love is a Kick』にインスパイアされているとのこと。楽曲は、各楽器が回転するような、うねりのあるフレーズが絡み合う、一体感のある曲。

 あえてジャンル分けするならば、ハードコアあるいはポスト・ハードコアに入れられる音楽性を持ったバンドですが、前述したとおり本作にはアヴァンギャルドな空気も多分に漂い、フリージャズからの影響も聞こえます。

 トランペットの音もアクセントとなり、スピード感やギターの激しさのみを重視したバンドとは一線を画した音楽を鳴らすバンドです。ディスコード所属のバンドは、ハードコアを下敷きにしながら、オリジナリティ溢れる豊かな音楽性を持ったバンドが多く、非常にディグしがいがあります。