Scud Mountain Boys “Massachusetts”
スカッド・マウンテン・ボーイズ 『マサチューセッツ』
発売: 1996年4月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Mike Deming (マイク・デミング), Thom Monahan (トム・モナハン)
マサチューセッツ州ノーサンプトンで結成されたオルタナティヴ・カントリー・バンド、スカッド・マウンテン・ボーイズの3rdアルバム。1st『Dance The Night Away』と2nd『Pine Box』は、共にチャンク・レコード(Chunk Records)というインディー・レーベルからのリリースでしたが、3枚目となる本作はシアトルの名門レーベル、サブ・ポップからリリース。
ちなみにチャンク・レコードは、スカッド・マウンテン・ボーイズの地元ノーサンプトンで活動するバンド、ザ・マラリアンズ(The Malarians)のフロントマン、JMドビーズ(JM Dobies)が運営していたレーベルで、1986年から2000年まで活動していたようです。
1991年結成のスカッド・マウンテン・ボーイズは、世代的にはオルタナ・カントリーの第一世代と言っていいバンドです。しかし、多くのバンドも拒絶するように、ジャンル名やムーヴメントで音楽性にレッテルを貼るのは、そのバンドの魅力を捉え損ねることに繋がりかねません。
では、実際に本作では、どのような音楽が鳴らされているのか。アコースティック・ギター、スティール・ギター、さらにマンドリンも使用され、オーガニックな楽器の響きを用いて構成されるアンサンブルは、まさにカントリー的。同時に、サウンド・プロダクションの面でも、アレンジの面でも、オルタナティヴな要素は薄いと言えます。
ボーカルのジョー・パーニスの穏やかな声とメロディー・センスも相まって、カントリーだけにとどまらない様々なジャンルの香りを感じる、より広い意味でアメリカーナな作品となっています。
一般的なオルタナ・カントリーというと、カントリー色の濃い音楽に、ノイジーなギターや実験的なアレンジを織り交ぜる、というのが主流ですが、本作はそのような方法論は取らず、多様なルーツ・ミュージックを、借り物では無い自分のセンスでまとめ上げています。その点では現代的であり、オルタナティヴであるとも言えるでしょう。
前述したように、生楽器のオーガニックなサウンドを活かしたアルバムであり、カントリーに近いサウンド・プロダクションを持っていのも事実ですが、随所で使用されるエレキ・ギターがカントリー色を薄め、現代的な空気を取り込んでいます。
1曲目「In A Ditch」から、きわめて穏やかなサウンドとメロディーを持った音楽が展開。複数のギターが心地よく絡み合うアンサンブルが繰り広げられます。
4曲目「Grudge ****」は、ゆったりとしたテンポの穏やかな曲ですが、随所に差し込まれるエレキ・ギターやピアノの音色が、オルタナティヴな空気を吹き込みます。例えば、再生時間2:19あたりからの伸びやかなソロは、楽曲を俄然カラフルにしていると言っていいでしょう。ちなみにタイトルの「****」には、Fワードが入ります。
7曲目「Lift Me Up」は、ほどよく歪んだエレキ・ギターのサウンドから、フォークやカントリーというよりも、古き良きアメリカン・ロックの空気が溢れる1曲。
スカッド・マウンテン・ボーイズは、本作がリリースされた翌年の1997年に解散。しかし、2012年に再結成し、2013年には本作から17年ぶりとなる4thアルバム『Do You Love The Sun』をリリースしています。ちなみのこちらのアルバムは、2000年にフロントマンのジョー・パーニス(Joe Pernice)が立ち上げたレーベル、アッシュモント・レコード(Ashmont Records)からのリリース。
ジョー・パーニスはスカッド・マウンテン・ボーイズ解散後に、パーニス・ブラザーズ(Pernice Brothers)を結成しますが、このバンドはスカッド・マウンテン・ボーイズよりもインディーロック色の強い音楽を志向しています。ジョー・パーニスは、当初からもう少しカントリー色を薄めた音楽をやりたかったのでは、と考えると、本作の絶妙なバランスの理由が、より強く感じられるのではないでしょうか。