The Evens “The Evens”
イーヴンス 『イーヴンス』
発売: 2005年3月7日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)
イアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、元ウォーマーズ(The Warmers)のエイミー・ファリーナ(Amy Farina)による2ピース・バンド、イーヴンスの1stアルバム。担当楽器はイアンがギター、エイミーがドラム。イアン・マッケイが設立した、ワシントンD.C.の名門レーベル、ディスコードからのリリース。
ギターとドラムのみのミニマル編成のバンドですが、揺らぎとグルーヴのある立体的なアンサンブルが構成されるアルバムです。楽器の数が絞られることで、2人の穏やかな歌唱が前景化し、ひとつひとつの音と言葉が非常にソリッドに感じられます。このように音楽が濃密に感じられるのが、2ピースの魅力的なところ。
ディスコードの創始者の1人であり、ワシントンD.C.のハードコア・シーンの中心的人物のイアン・マッケイですが、本作ではギターもボーカルも、サウンド的には穏やか。
1曲目「Shelter Two」は、ギターのみのシンプルなイントロから、ドラムと共に徐々に躍動感を増していく1曲。速度や音圧に頼らず、シンプルな音作りで、手数と演奏の強弱だけで、盛り上がりを演出しています。立体的なアンサンブルと、2人のコーラスワークも息がぴったりで、魅力的。
2曲目「Around The Corner」は、左右から交互にはずむように響くギターと、ゆったりとタメを作ったドラムが、奥行きのある立体的なサウンドを作り上げる1曲。音数が少ないのに、いや少ないからこそ、空間の広がりが感じられるサウンド・プロダクションです。
3曲目「All These Governors」は、シニカルの歌詞が印象的。「うまくいくはずの時にも、うまくいかない。それがこいつら(these governors)のやり方さ。」と、ワシントンD.C.の各種長官を皮肉るような歌詞です。演奏も、シンプルで飾りかのない音作りながら、疾走感があり、そのむき出しのサウンドが、より一層シニカルな態度を浮き彫りにしています。
4曲目「Crude Bomb」は、手数が多く、回転するような立体的なドラムに、やや歪んだ流れるようなギターが絡む1曲。歌が入ってきてからの、ドラムのキックも加速感を演出しており、躍動感がある曲です。
8曲目「If It’s Water」は、繰り返されるギターのフレーズと、手数を絞ったシンプルなドラムが重なる1曲。ぴったりと合わさるわけではなく、適度にラフな部分があり、グルーヴと躍動感を生み出しています。
11曲目「Minding Ones Business」は、ギターもドラムも低音域を用いた、重心の低いサウンド・プロダクション。2人のボーカルも、メロディーを歌うというよりも、呪術的な雰囲気で言葉を発しており、サイケデリックかつアンダーグラウンドな空気が漂います。
激しく歪んだギターや、音圧の高いドラムには頼らず、シンプルな音作りながら、立体的なアンサンブルが展開され、非常に情報量の多さを感じるアルバムです。個人的には、こういう作品は大好き!
ローファイというわけではありませんが、ギターもドラムも飾り気のないむき出しの音色で、アンサンブルの面でも音数を絞った、ミニマルでストイックな音楽が展開されます。
また、歌詞もシニカルなものが多く、フガジやマイナー・スレットとは音楽的には異質ですが、こちらもパンク精神を多分に持ったバンドだと思います。