My Morning Jacket “The Tennessee Fire”
マイ・モーニング・ジャケット 『ザ・テネシー・ファイアー』
発売: 1999年5月25日
レーベル: Darla (ダーラ)
ケンタッキー州ルイヴィルで結成されたバンド、マイ・モーニング・ジャケットの1stアルバム。サンディエゴに居を構えるインディー・レーベル、ダーラからのリリース。
マイ・モーニング・ジャケットの音楽の特徴として、頻繁に言及されることではありますが、リヴァーブのかかったサウンド・プロダクションが本作の特徴です。一言であらわすなら、カントリーを下敷きにしながら、音響的なアプローチを用いたアルバム。カントリー的な楽器使いとメロディーが、リヴァーブ等の使用により現代的にアップデートされたサウンドは、オルタナティヴなカントリーと呼べるものでしょう。
1曲目「Heartbreakin Man」は、ゆるやかに躍動するリズム隊と、空間系エフェクターのかかった爽やかなギター、リヴァーブのかかったボーカルにより、浮遊感のあるサウンドで、カントリーが奏でられます。
2曲目「They Ran」は、スローテンポに乗せて、音数を絞ったストイックなアンサンブルが展開される1曲。ややダークな音像を持った曲ですが、ボーカルには深くリヴァーブがかけられ、厚みのあるコーラスワークからは、幻想的な雰囲気が漂います。
3曲目「The Bear」は、ドラムの音が生々しく響きわたる立体的なアンサンブルに、高らかに歌い上げるボーカルが重なる1曲。こちらの曲でもボーカルにリヴァーブがかけられ、伸びやかな声の魅力を増幅させています。
4曲目「Nashville To Kentucky」には、タイトルにカントリー・ミュージックの本拠地と言えるナッシュビルが入っています。そのため、ナッシュビルおよびカントリー・ミュージックへの愛情が歌われる曲なのだと想像していましたが、歌詞の内容は「この悪夢の袋小路から連れ出してくれ」という一節もあり、単純にカントリーへの愛情を歌っているわけではありませんでした。サウンド的には朝靄のようにリヴァーブがかかり、ゆったりとしたテンポでメロディーが綴られる1曲です。
5曲目「Old September Blues」は、アコースティック・ギターとボーカルのみの穏やかで牧歌的の雰囲気の1曲。この曲ではリヴァーブは控えめに、アコギのオーガニックなサウンドが響きます。
8曲目「Evelyn Is Not Real」は、スネアが強めに響き、各楽器が絡み合う、立体的なアンサンブルが展開される1曲。はっきりとしたビートとアヴァンギャルドな空気を振りまくギター・ソロ、カントリー的なサウンドとメロディーが融合した、オルタナ・カントリーらしい曲。
9曲目「War Begun」は、ナチュラルなアコースティック・ギターの音色と、パワフルで臨場感あふれるドラムが絡み合う1曲。アコースティック・ギターと歌のみのアレンジなら、カントリー色の濃い曲ですが、立体的なドラムがオルタナティヴな空気をプラスしています。
15曲目「I Think I’m Going To Hell」は、ゆったりとしたテンポで、タメをたっぷり作ったアンサンブルが展開される1曲。ギターには空間系エフェクター、ボーカルには深めのリヴァーブがかけられ、幻想的かつサイケデリックな香りが漂います。
基本にはカントリー・ミュージックがありながら、リヴァーブを筆頭に空間系エフェクターを用いた、音響的なアプローチが目立つアルバム。曲によっては、アコースティック・ギターやボーカルにも強めのエフェクトが施され、オーガニックなサウンドと音響的なサウンドのバランスが秀逸です。
あえて言葉にするなら、音響系ポストロックのサウンドを持ったカントリー。オルタナ・カントリーの文脈で語られることの多いマイ・モーニング・ジャケットですが、まさにオルタナティヴなアレンジと、カントリー・ミュージックが、機能的に融合した1作だと思います。