Okkervil River “Black Sheep Boy” / オッカーヴィル・リヴァー『ブラック・シープ・ボーイ』


Okkervil River “Black Sheep Boy”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ブラック・シープ・ボーイ』
発売: 2005年4月5日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの3rdアルバム。アルバムのタイトル『Black Sheep Boy』は、60年代に活躍し、1980年に亡くなったフォーク・シンガー、ティム・ハーディン(Tim Hardin)の楽曲「Black Sheep Boy」にインスパイアされたとのこと。

 1stと2ndでは、フォークやカントリーを下敷きに、オルタナティヴな音色とアレンジを散りばめたインディーロックを展開していたオッカーヴィル・リヴァー。3作目となる本作は、前2作の音楽性を基本としながら、やや実験性と疾走感が増し、サウンドもソリッドになっています。特に、比率は多くはありませんが、効果的に挿入される歪んだエレキ・ギターの響きが、アルバム全体にハードな印象をもたらしています。

 ボーカリゼーションも、ここまでの3作の中で比較すると、最も感情豊かで、アグレッシヴな面も際立っています。フロントマンのウィル・シェフ(Will Sheff)が書く歌詞も、このバンドの大きな魅力のひとつですが、サウンド面だけでなく歌詞の面でも、今まで最もダーティーで激しい要素のあるアルバムと言えます。

 1曲目「Black Sheep Boy」は、アコースティック・ギターとボーカルのみの穏やかでミニマルな雰囲気で始まり、徐々に楽器が増え、緩やかなアンサンブルが展開される1曲。1分20秒ほどのイントロダクション的な役割の曲で、再生時間1分過ぎからは、電子的な持続音が鳴るエレクトロニカのような音像へ。カントリー色の濃い前半から、エレクトロニカ色の濃い後半へと自然に繋がり、このアルバムとバンドの音楽性を端的に示した1曲と言えます。

 2曲目「For Real」は、感情を抑えたボーカルとアコースティック・ギターを中心にした静かなイントロから始まりますが、歪んがエレキ・ギターが鋭く切り込んでくる、オルタナティヴな雰囲気の1曲。ハードなギターの音色と比例して、ボーカルも静かなささやき系の歌唱と、エモーショナルな歌唱を使い分けています。再生時間1:37あたりからの間奏の空間系エフェクターを用いたサウンドや、再生時間3:25あたりからのギターソロも、オリタナティヴな空気をさらに演出。

 3曲目「In A Radio Song」は、フィールド・レコーディングらしき音と、穏やかなボーカルとアコースティック・ギターのアレンジが溶け合う、カントリーと音響系ポストロックが融合した1曲。

 4曲目「Black」は、ビートがはっきりしていて、タイトで疾走感のある1曲。ヴァースからコーラスへの盛り上がりも鮮やかで、メリハリの効いたアンサンブルが展開されます。

 6曲目「A King And A Queen」は、アコースティック・ギターと中心にした牧歌的な1曲ながら、ストリングスとトランペットが壮大さ、キーボードの音色が多彩さを加え、カントリーの単なる焼き直しではない、モダンな雰囲気を併せ持った曲。

 10曲目「So Come Back, I Am Waiting」は、8分を超える大曲。アルバムのタイトルにもなっている「black sheep boy」が歌詞に登場し、スロー・テンポに乗せて、コントラストの鮮やかな、壮大なアンサンブルが展開される1曲です。

 11曲目「A Glow」は、静かなボーカル、空間系エフェクターの深くかかったギター、ストリングスがゆったりしたテンポの中で溶け合う、穏やかな音響系の1曲。

 過去2作と比較して、最もオルタナティヴ性が強く出たアルバムであると言えます。これまでどおり、フォークやカントリーの香りも漂うのですが、それ以上に激しく歪んだエレキ・ギターに代表される、オルタナティヴな要素が色濃く出ています。

 また、柔らかな電子音やフィールド・レコーディングを用いて、エレクトロニカのような音響的アプローチを見せる部分もあり、音楽性のさらなる拡大を感じるアルバムでもあります。