Hella “There’s No 666 In Outer Space” / ヘラ『ゼアズ・ノー・666・イン・アウター・スペース』


Hella “There’s No 666 In Outer Space”

ヘラ 『ゼアズ・ノー・666・イン・アウター・スペース』
発売: 2007年1月30日
レーベル: Ipecac (イピキャック)

 カリフォルニア州サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラの4thアルバム。これまでは、ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による2ピースでしたが、本作では3名のメンバーを加え、5人編成となっています。また、これまではインストが基本でしたが、本作は全編でボーカル入り。

 加入したメンバーは、ギターにジョシュ・ヒル(Josh Hill)、ベースとキーボードにカーソン・マックフィルター(Carson McWhirter)、ボーカルにアーロン・ロス(Aaron Ross)。ジョシュはザック・ヒルの従兄弟、カーソンは別バンド、アドバンテージ(The Advantage)におけるスペンサーのバンドメイトです。

 これまでのヘラは、スペンサー・セイムとザック・ヒルによる、テクニックを駆使した曲芸的なアンサンブルが特徴でした。前述したとおり、本作ではボーカルも加えた5人編成となり、一聴したときの印象が、かなり異なっています。

 2人編成の頃には、ギターとドラムのテクニカルな演奏自体が、主要な聴きどころとなっていましたが、ボーカルも含む5人編成に拡大されたことにより、よりメロディーとアンサンブルが前景化。言い換えれば、演奏の質とストイックなアンサンブルが特徴だった2人編成に比べて、より一般的なロックバンドに近いバランスになった5人編成です。

 とはいえ、今までのヘラが持っていたテクニカルな魅力や、ノイジーなサウンドも多分に含まれており、より間口が広くなったアルバムと言えるでしょう。

 1曲目「World Series」は、グルーヴ感に溢れる部分と、ぎこちないぐらいにタイトなリズムが同居し、5人編成の新生ヘラの方向性を端的に示しているようです。手数の多いドラムと、金属的なキレのあるギターが中心となり、メリハリのついたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Let Your Heavies Out」は、各楽器がバラついた印象のイントロから、タイトに組み合った疾走感あふれる演奏へと展開していきます。リズムが次々と切り替わる、多彩な表情を持った1曲。

 5曲目「The Things That People Do When They Think No One’s Looking」は、ポリリズミックに細かくリズムを刻むドラムに、各楽器がノイジーに絡み合います。展開が多彩で、プログレ色の濃い1曲。

 ヘラのサウンドは、高速ドラムと鋭く歪んだギターが中心に据えられることが多いのですが、6曲目「Hands That Rock The Cradle」では、ドラムの上に電子音らしきサウンドが飛び交い、一風変わったサウンド・プロダクションになっています。テクノに近い音像を持った曲ですが、多様なサウンドが四方八方から飛んでくる、カラフルで賑やかな1曲。

 7曲目「2012 And Countless」は、空間を漂うようにノイズ音が回転していく、アンビエントな前半から、縦の揃った数学的なアンサンブルの後半へと展開する1曲。前半と後半でのコントラストが鮮烈で、今までのヘラにはあまり聞かれなかったアプローチです。

 11曲目「There’s No 666 In Outer Space」は、多様な音が乱れ飛ぶ、複雑怪奇なアンサンブルに、ソウルフルな歌唱のボーカルが合わさります。歌が無かったら、非常に尖ったマスロックですが、歌メロが入ることで、ポップな様相も併せ持っています。

 ボーカルが入ることで、曲の展開が掴みやすくなり、5人編成に拡大することで、アンサンブルもロックバンドらしくなっていますが、随所に超絶テクニックが散りばめられています。

 ザック・ヒルとスペンサー・セイムによる、バンドのコアな部分はそのままに、バンドを拡大することで、聴きやすさが向上。一般的なロックバンドに近い表層を持ちながら、圧倒的なテクニックに裏打ちされた、複雑なアンサンブルも共存するアルバムです。

 ちなみに、本作に続く5thアルバム『Tripper』では、再び2人編成へ。