Hella “Tripper” / ヘラ『トリッパー』


Hella “Tripper”

ヘラ 『トリッパー』
発売: 2011年4月30日
レーベル: Sargent House (サージェント・ハウス)
プロデュース: Andy Morin (アンディー・モーリン)

 カリフォルニア州サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラの5thアルバム。ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による2ピースで活動を開始し、4作目となる前作『There’s No 666 In Outer Space』では、ボーカルも含む5人編成へ。5作目と本作では、再びザックとスペンサーの2人編成になっています。

 ヘラの魅力というと、卓越したテクニックを持つ2人による、変態的とも言える複雑かつ緻密なアンサンブル。それが前作ではボーカルも加えた5人編成となり、だいぶ普通のロックバンドのフォーマットに近づいたなぁ、と感じておりました。

 その理由を簡単に説明するなら、歌のメロディーがあることで、楽曲の構造が掴みやすくなり、5人編成となることで各楽器の超絶プレイよりも、アンサンブルが前景化されるため。しかし、前述したとおり、本作では再び2ピースというミニマルな編成に戻っています。

 個人的には2人編成のヘラが大好きだったため、聴く前から本作の期待値は高まっていました。本作はその期待通りに、尖ったサウンド・プロダクションで、アグレッシヴなアンサンブルをたっぷりと聴かせてくれます。僕が聴きたかったのは、これです!

 5人編成の前作の内容が悪かったということは全くないのですが、やはりバカテク2人による、ワルノリのような変態的なアンサンブルがヘラの魅力であり、唯一無二。また、5人編成でアルバムを作り上げたことで、アプローチの幅が広がったと感じる部分が多々あり、前作はムダではなかったとも思います。

 全編ボーカルレスに戻ってはいるのですが、以前にも増して1曲の中でのコントラストが鮮やかで、楽曲の構造がわかりやすくなっています。このような変化を予定調和と捉えて、ネガティヴな評価を下すことも可能かもしれませんが、個人的には楽曲と演奏のバランスが向上していると思います。

 各人のプレイだけを取り出しても、圧倒的なテクニックでリスナーに高揚感を与え、さらに楽曲の展開によって、その高揚感をより高めています。語弊を恐れずに言えば、これまでのヘラの魅力を損なうことなく、聴きやすくポップになったアルバムと言えるでしょう。

 1曲目の「Headless」から、細かい高速リズムと、ゆったりとタメを作る部分が繰り返され、リズムが伸縮するように心地よく疾走。直線的に走るよりも、メリハリがあり、疾走感が際立っています。ギターとドラムの関係性も、ひとつの塊のように転がるところと、絡み合うようにグルーヴしていくところがり、非常に機能的です。

 2曲目「Self Checkout」は、高速で叩きまくるドラムに、厚みのあるディストーション・サウンドのギターが乗ります。手数の多いドラムと比較すると、ギターは余裕を持ってフレーズを弾く部分が多く、複雑な高速リズムと、ロック・ギターのかっこよさが、絶妙に共存しています。

 3曲目「Long Hair」は、上から叩きつけるようなドラムと、マシンガンのようなギターが組み合わさる、疾走感と一体感のある1曲。

 4曲目「Yubacore」は、ややテンポを落とし、ギターとドラムが絡み合う、アンサンブル重視の曲。ギターのフレーズには歌心があり、楽曲も循環する構造を持っており、展開も多彩。楽曲構造もアンサンブルも機能的で、完成度の高い1曲です。

 5曲目「Netgear」は、イントロから、メリハリをつけて音が押し寄せるパートと、リズムをためるパートが繰り返されます。

 6曲目「Kid Life Crisis」は、電子的なジャンクなサウンドから始まり、その後はリズムにフックを作りながら、タイトなアンサンブルが展開。

 7曲目「On The Record」は、ギターの奏でるメロディーが爽やかで、ドラムはタイト。疾走感の溢れる1曲。

 日本人なら触れないわけにはいかないのですが、10曲目には「Osaka」という曲が収録されています。大阪にインスパイアされて作った曲なのか、詳細は確認できませんでしたが、ザック・ヒルの千手観音ドラミングが存分に堪能できる1曲です。

 アルバム全体を通して、収録される楽曲の質が、とても多彩。ボーカルは入っていませんが、歌モノのポップソングのような雰囲気も持ちつつ、ヘラらしいサウンドとアンサンブルの根源的なかっこよさも、損なわれていません。ここまでの5枚のアルバムの中では、本作が最もバランスが良く、万人におすすめできる作品だと思います。

 ちなみに本作はサージェント・ハウスからのリリースですが、5枚のスタジオ・アルバムで、4つ目のレーベルです。最初の2枚は、5ルウ・クリスティーン。その後、スーサイド・スクイーズ、イピキャック、そして今回のサージェント・ハウスへと移籍しています。