Minor Threat “First Two Seven Inches” / マイナー・スレット『ファースト・トゥー・セブン・インチズ』


Minor Threat “First Two Seven Inches”

マイナー・スレット 『ファースト・トゥー・セブン・インチズ』
発売: 1984年6月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Skip Groff (スキップ・グロフ)

 ワシントンD.C.で1980年に結成され、1983年に解散。短い活動期間のなかで、リリースした作品はアルバム1枚とEP3枚のみ。そんな限られた活動だったにも関わらず、その後のハードコア・パンクのシーンに、多大な影響を与えたバンドがマイナー・スレットです。

 また、メンバーのイアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、ジェフ・ネルソン(Jeff Nelson)がディスコード・レコードを立ち上げ、マイナー・スレットの作品をリリースしたことも、音楽面のみならずDIY精神の面で、多くのインディー・バンドに影響を与えた要因でしょう。

 本作は、マイナー・スレット解散後の1984年にリリースされたコンピレーション・アルバムで、レコードで発売された当初は『Minor Threat』というアルバム・タイトルでした。現在、SpotifyやAppleなどのサブスクリプション・サービスで配信されているのは、『First Two Seven Inches』というタイトルになっています。

 アルバムのタイトルが示すとおり、マイナー・スレットが1981年にリリースした2枚のEP、『Minor Threat EP』(Filler)と『In My Eyes』を合わせたものです。さらに、配信ではディスコードが1982年にリリースしたコンピレーション『Flex Your Head』に収録されていた「Stand Up」と「12XU」の2曲が追加されています。ちなみに「12XU」は、イギリスのポストパンク・バンド、ワイヤー(Wire)のカバー。

 収録されている14曲のうち、1〜8曲目は『Minor Threat EP』、9曲目と10曲目は『Flex Your Head』、11〜14曲目は『In My Eyes』に収録されていた楽曲です。

 音楽以外のことを、ここまで書いてきてしまいましたが、ではこのアルバムでどんな音が鳴っているのかというと、非常にタイトで、疾走感に溢れたパンク・ロックです。

 コンピレーション・アルバムであるので、曲順で流れがどうこうといった作品ではありませんが、スピード感に溢れつつ、直線的なだけではなく、アンサンブルは有機的で、躍動感に溢れています。あとは、なんと言ってもイアン・マッケイの声。シャウト気味で扇動的であるのに、雑に歌い捨てるようなところはなく、メロディアスに感情を込めて歌い上げていきます。

 ハードコア・パンクというと、とにかく速い!というパブリック・イメージがあるかと思いますが、マイナー・スレットはただ速いだけではなく、アンサンブルには緩急があり、歌のメロディーには起伏がありポップなところが、このバンドを特異な存在にしているのでしょう。

 1981年の録音であるので、2000年代以降の音圧の高いハイファイ・サウンドと比較すれば、音圧不足は否めないのですが、そんなことはどうでもよくなるほど、魅力とパワーに溢れた作品です。1981年のワシントンD.C.の空気が閉じ込められたかのような、生々しい空気感も持っています。

 前述したとおり、活動期間が短く、リリース作品も限られた数しか残していないマイナー・スレット。のちの影響力を考慮しての発掘なのか、2003年には『First Demo Tape』という、その名のとおり当時は正式リリースされることのなかった、1981年録音のデモ音源が日の目を見ています。

 かつては『Complete Discography』というCDに、『First Demo Tape』を除く、マイナー・スレットが残した音源のほぼ全てが収録されていました。現在では、本作『First Two Seven Inches』(14曲収録)と、本作に収録されていないEP『Salad Days』(3曲収録)、1stアルバム『Out Of Step』(9曲収録)の3作が配信されているので、この3作で『Complete Discography』収録の26曲が揃います。(なぜだか、Spotifyでは『Salad Days』が、1曲欠けて2曲収録のようですが…)