「1984年」タグアーカイブ

Meat Puppets “Meat Puppets II” / ミート・パペッツ『ミート・パペッツ・ツー』


Meat Puppets “Meat Puppets II”

ミート・パペッツ 『ミート・パペッツ・ツー』
発売: 1984年4月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1980年に、アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの2ndアルバム。レコーディング・エンジニアは前作に引き続き、当時SSTの多くのレコード制作に関わった、スポットことグレン・ロケット(Glen Lockett)が担当。

 ニルヴァーナのカート・コバーンがお気に入りのバンドに挙げるなど、後続のバンドに多大な影響を及ぼしたミート・パペッツ。ニルヴァーナをはじめ、影響を受けたバンドの多くは、いわゆるグランジやオルタナティヴ・ロックに分類されますが、結成当初のミート・パペッツは、スピード重視のハードコア・バンドとしてスタートしています。

 その後、徐々に音楽性を変え、後のオルタナティヴ・ロック勢に支持されるバンドとなっていきます。1stアルバムでもある前作『Meat Puppets』では、テンポの速い曲が収録され、シャウト気味の激しいボーカルがアジテートするように歌う、ハードコア・サウンドが展開。

 しかし、盲目のブルーグラス・ギタリスト、ドク・ワトソン(Doc Watson)のカバーを収録するなど、その後の音楽性の変化を示唆する要素も、いくつか見受けられました。2年ぶりのアルバムと本作は、前作のハードコア的な高速ビートは、ほとんど鳴りを潜め、フォークやカントリーの色を濃くした1作となっています。

 1曲目の「Split Myself In Two」は、前作を彷彿とさせるハイテンポな1曲。アルバムの幕開けにふさわしく、疾走感あふれる演奏が展開されます。この1曲目を聞いた時点では、前作からの違いはあまり感じないでしょう。

 しかし、2曲目の「Magic Toy Missing」では、テンポは速いものの、ハードコアというより、ブルーグラスに近い曲芸的な演奏が展開。タイトなリズム隊に乗って、流れるようなギターソロが披露される、インスト曲となっています。

 3曲目「Lost」は、馬がギャロップするような躍動感に溢れた、カントリー色の濃い1曲。ボーカルも、前作までの力強く、しゃがれたシャウトとは異なり、朗々としていて、どこか牧歌的。ここまでのアルバム冒頭3曲を聴けば、前作との方向性の違いに気づくはずです。

 4曲目「Plateau」は、ギターを中心としたサイケデリックなアンサンブルと、呪術的なボーカルが合わさる、スローテンポの1曲。ゆったりと余裕を持ったテンポと、ギターの不安定なフレーズが、1960年代のサイケデリック・ロックを思わせます。

 7曲目「Climbing」は、穏やかなギターが厚みのあるサウンドを作り上げる、カントリー色の濃い曲。

 8曲目「New Gods」は、ギターのジャンクな音作りが印象的な、疾走感のあるコンパクトなロック・チューン。クリーン・トーンの音作りが多い本作のギターの中で、エフェクターを多用しているであろう、この曲のギターのサウンドは、かなり異質。

 10曲目「Lake Of Fire」は、歪んだギターによる引きずるようなフレーズと、ハイトーンを織り交ぜたボーカルが重な理、ブルージーでありながら、アングラ感も漂う1曲。

 12曲目「The Whistling Song」は、タイトルのとおり間奏で口笛がフィーチャーされる、ミドル・テンポのロック。ほどよく歪んだギターを用いて、ゆるやかにグルーヴするアンサンブルが展開される、オルタナティヴ・ロック風味の1曲です。

 ハイテンポなハードコア・パンクで疾走した前作と比較すると、テンポは概ね抑えめ。スピード感よりも、アンサンブルを重視した演奏がくり広げられるアルバムです。

 ただテンポを落とすだけではなく、ルーツ・ミュージックを取り入れたアレンジや、グランジを感じさせるざらついたギターの音色など、非常に幅広く多彩な音楽性。前述したとおり、多くのグランジ・オルタナ勢に影響を与えたというのも、頷ける内容です。

 1984年にLPとカセットで発売された当初、および1987年にCD化された際は、12曲収録。1999年にワーナー傘下のライコディスク(Rykodisc)からリイシューされる際、ボーナス・トラックが7曲追加され、全19曲収録となっています。ちなみにライコディスクの「ライコ」は、日本語の「雷光」に由来するとのこと。





Minor Threat “First Two Seven Inches” / マイナー・スレット『ファースト・トゥー・セブン・インチズ』


Minor Threat “First Two Seven Inches”

マイナー・スレット 『ファースト・トゥー・セブン・インチズ』
発売: 1984年6月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Skip Groff (スキップ・グロフ)

 ワシントンD.C.で1980年に結成され、1983年に解散。短い活動期間のなかで、リリースした作品はアルバム1枚とEP3枚のみ。そんな限られた活動だったにも関わらず、その後のハードコア・パンクのシーンに、多大な影響を与えたバンドがマイナー・スレットです。

 また、メンバーのイアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、ジェフ・ネルソン(Jeff Nelson)がディスコード・レコードを立ち上げ、マイナー・スレットの作品をリリースしたことも、音楽面のみならずDIY精神の面で、多くのインディー・バンドに影響を与えた要因でしょう。

 本作は、マイナー・スレット解散後の1984年にリリースされたコンピレーション・アルバムで、レコードで発売された当初は『Minor Threat』というアルバム・タイトルでした。現在、SpotifyやAppleなどのサブスクリプション・サービスで配信されているのは、『First Two Seven Inches』というタイトルになっています。

 アルバムのタイトルが示すとおり、マイナー・スレットが1981年にリリースした2枚のEP、『Minor Threat EP』(Filler)と『In My Eyes』を合わせたものです。さらに、配信ではディスコードが1982年にリリースしたコンピレーション『Flex Your Head』に収録されていた「Stand Up」と「12XU」の2曲が追加されています。ちなみに「12XU」は、イギリスのポストパンク・バンド、ワイヤー(Wire)のカバー。

 収録されている14曲のうち、1〜8曲目は『Minor Threat EP』、9曲目と10曲目は『Flex Your Head』、11〜14曲目は『In My Eyes』に収録されていた楽曲です。

 音楽以外のことを、ここまで書いてきてしまいましたが、ではこのアルバムでどんな音が鳴っているのかというと、非常にタイトで、疾走感に溢れたパンク・ロックです。

 コンピレーション・アルバムであるので、曲順で流れがどうこうといった作品ではありませんが、スピード感に溢れつつ、直線的なだけではなく、アンサンブルは有機的で、躍動感に溢れています。あとは、なんと言ってもイアン・マッケイの声。シャウト気味で扇動的であるのに、雑に歌い捨てるようなところはなく、メロディアスに感情を込めて歌い上げていきます。

 ハードコア・パンクというと、とにかく速い!というパブリック・イメージがあるかと思いますが、マイナー・スレットはただ速いだけではなく、アンサンブルには緩急があり、歌のメロディーには起伏がありポップなところが、このバンドを特異な存在にしているのでしょう。

 1981年の録音であるので、2000年代以降の音圧の高いハイファイ・サウンドと比較すれば、音圧不足は否めないのですが、そんなことはどうでもよくなるほど、魅力とパワーに溢れた作品です。1981年のワシントンD.C.の空気が閉じ込められたかのような、生々しい空気感も持っています。

 前述したとおり、活動期間が短く、リリース作品も限られた数しか残していないマイナー・スレット。のちの影響力を考慮しての発掘なのか、2003年には『First Demo Tape』という、その名のとおり当時は正式リリースされることのなかった、1981年録音のデモ音源が日の目を見ています。

 かつては『Complete Discography』というCDに、『First Demo Tape』を除く、マイナー・スレットが残した音源のほぼ全てが収録されていました。現在では、本作『First Two Seven Inches』(14曲収録)と、本作に収録されていないEP『Salad Days』(3曲収録)、1stアルバム『Out Of Step』(9曲収録)の3作が配信されているので、この3作で『Complete Discography』収録の26曲が揃います。(なぜだか、Spotifyでは『Salad Days』が、1曲欠けて2曲収録のようですが…)

 





Lyres “On Fyre” / ライアーズ『オン・ファイア』


Lyres “On Fyre”

ライアーズ 『オン・ファイア』
発売: 1984年
レーベル: Ace Of Hearts (エース・オブ・ハーツ)
プロデュース: Richard W. Harte (リチャード・W・ハート)

 1976年にマサチューセッツ州ボストンで結成されたガレージ・ロック・バンド、DMZ。そのDMZが1978年に解散し、メンバーだったジェフ・コノリー(Jeff Conolly)を中心に結成されたのが、ライアーズです。本作は1984年にリリースされた1stアルバム。

 当時は彼らの地元ボストンのインディペンデント・レーベル、エース・オブ・ハーツから発売され、1998年にニューヨークの名門インディー・レーベル、マタドール(Matador)から再発されています。プロデューサーは、エース・オブ・ハーツの設立者でもあるリチャード・ハートが担当。

 1984年にLPで発売時は11曲収録ですが、現在ストリーミングでは5曲を追加し、16曲収録で配信されています。

 60年代ガレージ・ロックからの影響は明らかで、適度に荒れたドタバタ感のあるガレージ・ロックを鳴らしています。現代的なハイファイ・サウンドと比較すると、やや音圧不足でローファイに感じられる部分もありますが、その音質さえも魅力に感じられる、生々しく、良い意味で飾り気のないロックンロールが展開されます。

 ライアーズの音楽の特徴として、もうひとつ挙げられるのはオルガンの使用です。フロントマンのジェフ・コノリーは、ボーカルとオルガンを担当しており、本作でも全編でオルガンが使用されています。オルガンの音色も60年代のロックを感じさせるもので、ガレージに加えて、サイケデリックな空気感をプラス。アルバムを、より多彩にしています。

 また、発売当初の11曲の収録曲のうち、5曲目「Love Me Till The Sun Shines」と7曲目「Tired Of Waiting」は、1964年結成のイギリスのロックバンド、キンクス(The Kinks)のカバー。ガレージだけにとどまらない音楽性の幅が、ここからも窺えます。

 2012年には、フロントマンのジェフ・コノリーが単独来日。日本のTHE FADEAWAYSがバックバンドを務めるかたちで、DMZとライアーズの楽曲を披露する日本公演を実現。息の長いバンドです。