Califone “Quicksand / Cradlesnakes”
キャリフォン 『クイックサンド / クレイドルスネークス』
発売: 2003年3月18日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
シカゴを拠点に活動していたオルタナティヴ・ロックバンド、レッド・レッド・ミート(Red Red Meat)が1997年に解散。メンバーだったティム・ルティリ(Tim Rutili)が、ソロ・プロジェクトとして立ち上げたキャリフォン。
その後、ルティリと同じく、レッド・レッド・ミートのメンバーだったベン・マサレラ(Ben Massarella)らを加え、バンド編成となります。本作は2003年リリースのアルバム作品。(自主リリースも含め、複数のレーベルにまたがりながら作品をリリースしているため、何作目と数えるべきか迷うところですが、おそらくアルバムとしては4作目)
トータスを擁する、シカゴの名門インディー・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。実験的な電子音と、オーガニックな響きを持った生楽器、歌心のあるボーカルが溶け合ったアルバムで、実にスリル・ジョッキーらしい自由でポストな作風と言ってよいでしょう。
1曲目の「One」は、電子ノイズが控えめに飛び交う、1分弱のイントロダクションの役割を担う曲。
2曲目「Horoscopic.Amputation.Honey」は、ゆったりとリズムを取った力強いピアノと、立体的なドラム、穏やかなボーカルに、アヴァンギャルドな電子音が溶け込んでいく1曲。波打つように流れるバンドのアンサンブルに、ノイズ的な電子音が重なり、楽曲に「ポスト」な空気を加えていきます。再生時間4:33あたりからドラムがはっきりとしたリズムを叩き始めると、生楽器と電子音が絡み合い、躍動感あふれるアンサンブルが展開。
3曲目「Michigan Girls」は、アコースティック・ギターを中心に据えたナチュラルなサウンド・プロダクションの1曲。しかし、わざと音をぶつけるようなアレンジが、アヴァンギャルドな空気を持ち込み、音楽のフックとなっています。
5曲目「Your Golden Ass」は、イントロから、ドラムがドタバタと立体的にリズムを刻む、躍動感とジャンクなサウンドを持った1曲。
9曲目「Mean Little Seed」は、複数のギターが立体的に絡み合い、その間を縫うようにボーカルがメロディーを紡いでいきます。ボーカルがバンドと同化して、やや奥まって聞こえてくる、一体感のある1曲。
10曲目「Vampiring Again」は、弾むようなリズムを持った、推進力を感じる1曲。ドラムとギターが波打つように楽器を主導していき、流れるような歌のメロディーが、その上に乗ります。再生時間2:15あたりから入ってくる、ファズ系のざらついた歪みのギターが、オルタナティヴな空気を演出。
アコースティック・ギターやストリングスが多用されていますが、ノイズ的な電子音や歪んだギターが随所で顔を出し、全体としてはアヴァンギャルドな空気も多分に含んだアルバムと言えます。
本作をリリースするスリル・ジョッキーは、地元シカゴのトータス周辺の作品と並んで、ドイツのマウス・オン・マーズやオヴァル、日本のボアダムスや竹村延和など、国籍やジャンルのこだわらず、新しくオリジナリティのある作品を積極的にリリースするレーベル。
キャリフォンが本作で奏でる、相反すると思われる二つの要素が、手際よくブレンドされた音楽も、実にスリル・ジョッキーらしい質を備えた音楽です。
また、2017年にはレーベルを変え、インディアナ州ブルーミントンのインディー・レーベル、デッド・オーシャンズ(Dead Oceans)より、ボーナス・トラックを8曲加えた「Deluxe Edition」が発売。現在では、各種サブスクリプション・サービスでも、こちらのバージョンが配信されています。