Archers Of Loaf “Vee Vee”
アーチャーズ・オブ・ローフ 『ヴィー・ヴィー』
発売: 1995年3月6日
レーベル: Alias (エイリアス), Merge (マージ)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)
ノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたインディーロック・バンド、アーチャーズ・オブ・ローフの2ndアルバム。1995年にエイリアスからリリースされ、2012年にUSインディーを代表する名門レーベル、マージ(Merge)から2枚組仕様のデラックス・エディションとして再発されています。
デビュー・アルバムとなる前作『Icky Mettle』は、地元チャペルヒルのクラップトーン・スタジオ(Kraptone Studios)で、7日間でレコーディングされましたが、本作はシカゴでレコーディングを敢行。プロデューサーも前作のカレブ・サザン(Caleb Southern)から、スティーヴ・アルビニ率いるシェラック(Shellac)のベーシストとしても知られる、ボブ・ウェストンに交代しています。
オーバー・プロデュースにはならない、地に足の着いた音作りで、インディー・ロックらしい実験性と攻撃性を併せ持ったアンサンブルを展開していた前作。アルビニ直系のボブ・ウェストンをプロデューサー兼エンジニアに迎え、サウンド・プロダクションは前作から比較すると、より生々しい音像へと変わっています。
しかし、出ている音をそのまま閉じ込めたような、前作のサウンド面の魅力も健在。むしろ、より原音に近く、生々しさが増したサウンド・プロダクションと言えます。このあたりの要因は、スタジオの空気まで録音するとまで評されるスティーヴ・アルビニの弟子筋にあたる、ボブ・ウェストンによるところが大きいのでしょう。
1曲目の「Step Into The Light」から、過度に音圧を上げない、臨場感あふれるむき出しのサウンドが響きます。1曲目ということで、ミドル・テンポに乗せて、ゆるやかなグルーヴ感を持った、イントロダクション的な役割の1曲。
2曲目「Harnessed In Slums」は、各楽器のサウンドが立体的に重なる、厚みのあるサウンドのロック・チューン。シャウト気味ながら、メロディーを引き立たせて歌いあげるボーカルとコーラスワークも秀逸。
3曲目「Nevermind The Enemy」は、複数のギターのフレーズが絡み合う、ジャンクな空気と躍動感のある1曲。イントロ部分で聞こえる、ブザー音のような高音もギターでしょうか。放送禁止用語を隠すピー音のようにも響く高音サウンドが、アヴァンギャルドな空気を演出しています。
5曲目「Underdogs Of Nipomo」は、タイトにリズムを刻みながら、疾走感を生んでいくベースとドラムとは対照的に、右と左の両チャンネルから、別々のギターがノイジーに暴れまわる1曲。イヤホンやヘッドホンで聴くと、よりわかりやすいのですが、アグレッシヴに暴れる部分と、タイトにリズムを合わせる部分のバランスが抜群で、散漫にはならずに、ラフさが躍動感や疾走感を増幅させる原動力となっています。
8曲目「Fabricoh」は、ざらついた電子的なノイズ音から始まり、マグマが噴出するようにエネルギッシュなアンサンブルが展開される1曲。この曲は立体的にグルーヴするのではなく、リズムの縦を合わせて、分厚いサウンドで迫ってきます。
9曲目「Nostalgia」は、1分20秒ほどの短い曲ですが、各楽器の音が非常に生々しくレコーディングされており、耳を掴みます。特にドラムの音は、残響音まで含めて、生々しく響きます。
13曲目「Underachievers March And Fight Song」は、イントロからバンジョーらしき音と、トランペットらしき音が鳴り響き、これまでのアルバムの流れの中では、サウンドもアレンジも毛色が異なります。ギターやベースなど通常の編成の楽器も入ってきますが、それ以外にも多種多様なサウンドが飛び交う、立体的でカラフルな1曲。
前作の飾らないサウンドとアレンジという良さを引き継ぎつつ、サウンドはより生々しく、アレンジはより多彩に、純粋進化を遂げた2作目だと思います。
前述したとおり、ボブ・ウェストンがレコーディング・エンジニアを務めたサウンドは、スタジオで鳴っている楽器の音をそのままパッケージしたかのような、臨場感があります。アレンジ面においても、効果的にノイズ的なサウンドを用いて、前作以上にアグレッシヴで多彩なサウンドを作り上げています。