Sunny Day Real Estate “Sunny Day Real Estate (LP2)” / サニー・デイ・リアル・エステイト『サニー・デイ・リアル・エステイト』


Sunny Day Real Estate “Sunny Day Real Estate (LP2)”

サニー・デイ・リアル・エステイト 『サニー・デイ・リアル・エステイト』
発売: 1995年11月7日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 1992年にワシントン州シアトルで結成されたエモ・バンド、サニー・デイ・リアル・エステイトの2ndアルバム。前作に引き続き、地元シアトルのサブ・ポップからのリリース。プロデューサーも、替わらずブラッド・ウッドが担当。

 バンド名と同じく『Sunny Day Real Estate』という、いわゆるセルフ・タイトルのアルバムですが、バンド名と区別するため、リリース元のサブ・ポップは「LP2」として流通。また「ピンク・アルバム(The Pink Album)」と呼ばれることもあります。前者は2枚目のアルバムであるため、後者はジャケットがピンク色であるため、というのが理由。

 エモの代表的バンドとされるサニー・デイ・リアル・エステイト。本作もエモい作品であることは確かです。しかし、エモというジャンルを、疾走感あふれるビートに乗せて、ボーカルが親しみやすいメロディーを歌い上げる音楽だと考えていると、肩透かしを食らうことになるかもしれません。

 このバンドに疾走感がなく、メロディーが親しみにくい、というわけではありません。ただ、直線的なビートと、それに準じた流麗なメロディーよりも、アンサンブルを優先し、バンド全体で静と動を使い分けながら、感情を表現しているということ。

 本作にはミドル・テンポの曲も多く、ノリのいい曲を好む方には物足りなく感じられるかもしれませんが、その代わりに有機的なアンサンブルによって、多様な感情の起伏をあらわした、エモい作品であると言えます。

 1曲目「Friday」では、ゆったりとしたテンポに乗って、波を打つようなアンサンブルが展開。穏やかな海に流されていくような、穏やかで心地いい演奏が続きますが、ところどころでギターとボーカルから、アグレッシヴな一面も垣間見えます。

 2曲目「Theo B」は、1曲目よりもビートが直線的で、各楽器が絡み合いながら躍動する1曲。ゆるやかなスウィング感を伴い進行していきますが、随所にハードに歪んだギターが顔を出し、再生時間1:49あたりからラストまでは、ギターがアンサンブルの中心となり、疾走感と躍動感を増していきます。

 3曲目「Red Elephant」は、ドラムの立体的なサウンドとリズムが印象的な1曲。ドラムと組み合うように、ベースとギターもフレーズを繰り出し、まるでバンドがひとつの生命体であるかのような、一体感のあるアンサンブルが構成されます。

 5曲目「Waffle」は、各楽器とも手数は少ないながらも、立体的で有機的なアンサンブルが展開される、ミドル・テンポの1曲。ボーカルは、感情をむき出しにシャウトするのではなく、溢れる感情を流れるように歌いあげていきます。

 9曲目の「Rodeo Jones」は、前作のセッション時にレコーディングされていたという1曲。とはいえ、本作の中で浮いている、違和感があるということはありません。強いて言えば、ややサウンドが激しく、ダイナミズムの大きくなっています。各楽器とも「歌っている」と言いたくなるほど、メロディアスでフックの多い演奏です。シャウト気味のボーカルも、リスナーをアジテートするように、歌いあげていきます。

 1995年に発売されたオリジナル版は9曲収録ですが、2009年にリマスターが施され、再発されたリイシュー版では、ボーナス・トラックが2曲追加され、全11曲収録となっています。

 1stアルバムであった前作『Diary』と比較すると、やや落ち着いた印象の本作。静寂と轟音を効果的に対比し、ダイナミズムを引き立たせていた前作と比べると、本作はよりアンサンブル志向の強まった1作と言えます。

 1995年初頭に、サニー・デイ・リアル・エステイトする旨を発表。本作が1995年11月にリリースされる数ヶ月前、バンドは1度目の解散。その後、1997年に再結成し、3rdアルバム『How It Feels To Be Something On』リリースへと繋がっていきます。