Built To Spill “Ultimate Alternative Wavers”
ビルト・トゥ・スピル 『アルティメット・オルタナティヴ・ウェーヴァーズ』
発売: 1993年5月1日
レーベル: C/Z (シー・ズィー)
プロデュース: Todd Dunnigan (トッド・ダニンガン)
アイダホ州の州都ボイシ出身のロックバンド、トゥリーピープル(Treepeople)のメンバーだったダグ・マーシュ(Doug Martsch)が中心となり、1992年に結成されたビルト・トゥ・スピルの1stアルバム。グランジを代表するレーベルのひとつ、 C/Zからのリリース。
ダグ・マーシュ在籍時のトゥリーピープルは、ダグとスコット・シュマルジョン(Scott Schmaljohn)がボーカルを分けあっていましたが、ビルト・トゥ・スピルでは、全曲でダグがボーカルを担当。しぼり出すような、泣きのボーカルが堪能できます。
ダグ以外のメンバーは、トゥリーピープルとはかぶっていません。しかし、ギターとボーカルを担うダグが中心となっている以上、やはり共通点も認められます。エモを先取りしたとも言える、感情的なボーカルや、ボーカルに負けず劣らず、歌心を持ったギターは、その最たる例。
では、逆にどこが異なるのかと言えば、ややローファイ感がありつつ、ハードな音像を持っていたトゥリーピープルと比較して、ビルト・トゥ・スピルはハードさは抑えつつ、よりソリッドでアンサンブルの際立つ音像となっています。音楽的にも、構造がより前景化して、巧みになったと言えるでしょう。
インディーロックのバンドの多くに言えることですが、音楽が意外性のあるバランスで成り立っていることが、メジャー・レーベルのバンドにはあまり無い魅力です。ビルト・トゥ・スピルに関して言えば、ニール・ヤングなどのシンガーソングライターを彷彿とさせる、メロディーと声を持ちながら、オルタナティヴ・ロックやサイケデリック・ロックの香りが漂う演奏が共存。様式美にとらわれず、実に非メジャー的なバランスを持ったバンドと言えます。
1曲目の「The First Song」は、音が増殖していくようなサイケデリックなイントロから始まり、再生時間1:10あたりから、歌と共にメローな演奏が展開。ギターのフレーズと音作りには、サイケデリックな空気が漂いつつ、ボーカルは流れるようにメロディーを紡いでいきます。
2曲目「Three Years Ago Today」は、揺れるような躍動的なグルーヴを持った1曲。ところどころで激しく歪んだギターが顔を出しながら、ギターポップを彷彿とさせる爽やかな演奏が展開。
3曲目「Revolution」では、アコースティック・ギターと、うなりをあげるエレキ・ギターが共存しています。アコギのストロークとボーカルによる繊細な面と、エレキ・ギターの泣き叫ぶようなフレーズが溶け合い、あらためてこのバンドの懐の深さを感じる1曲。
4曲目「Shameful Dread」は、穏やかなパートから、混沌としたパートまで、様々な表情を見せる、振り幅の大きい1曲。8分を超える曲ながら、展開が多彩で、コントラストも鮮やか。加速と減速を繰り返す、ジェットコースターのような曲です。
10曲目「Built Too Long」は、クレジット上は「Part 1」から「Part 3」までの3部に分かれた、9分を超える大曲。スライド・ギターを駆使した、サイケデリックなイントロ部分から、ファットに歪んだギターが主導するサウンドへの移行し、本作の多様性を凝縮したようなインスト曲です。
前述したとおり、魅力的なメロディーと、意外性のあるアレンジが共存した1作です。広い意味での「オルタナティヴ」な作品と言っても良いでしょう。アメリカの古き良き家族写真を思わせる、ジャケットのデザインも秀逸。
ちなみにビルト・トゥ・スピルは、3rdアルバム『Perfect From Now On』から、メジャーのワーナーへ移籍。メジャーへ移籍して音楽的、あるいは経済的にも失速していくバンドも多いなか、彼らは良い意味でのインディーらしさを失わず、息の長い活動を続けます。