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Dinosaur Jr. “Bug” / ダイナソーJr.『バグ』


Dinosaur Jr. “Bug”

ダイナソーJr. 『バグ』
発売: 1988年10月31日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)

 マサチューセッツ州アマーストで結成されたバンド、ダイナソーJr.の3rdアルバムです。2ndアルバム『You’re Living All Over Me』に続き、SSTからのリリース。

 1990年代のグランジ・オルタナブームを代表するバンドと目されるダイナソーJr.。現代的なハイファイ・サウンドから比較すれば、音圧が圧倒的に高いというわけではないけど、彼らの轟音ギターにはキレと奥行きがあり、時空を切り裂くように、なおかつ耳に心地よく響きます。

 「グランジ」や「オルタナ」といったジャンル名、また彼らの音楽性を形容するときにしばしば用いられる「轟音」というワードが帯びる先入観を抜きにして聴くと、音作りの巧みさ、特に歪んだギター・サウンドの多様性には驚かされます。

 1曲目「Freak Scene」は、イントロからクランチ気味のギターとリズム隊が、コンパクトなロックを響かせます。再生時間0:31あたりから、堰を切ったようになだれ込んでくる轟音ギター。クリーン・トーンから、激しく歪んだディストーションまで、様々なサウンドのギターを効果的に使い分けるのが、このバンドの魅力。

 2曲目「No Bones」は、イントロから、やや潰れたように歪んだギターが響きわたります。テンポは抑え目に、物憂げなボーカルと、激しく歪んだギターが溶け合い、スピードではなくサウンドでエモーションを描き出す1曲。再生時間1:35あたりから加わるアコースティック・ギター、再生時間1:57あたりから唸りをあげる歪んだギターなど、段階的に異なるサウンドのギターが用いられ、楽曲に奥行きと多彩さをもたらしています。

 3曲目「They Always Come」は、イントロから、倍音たっぷりの厚みのあるディストーション・ギターが曲を先導し、バンド全体もタメを使って加速感を演出する、疾走感のある1曲。

 5曲目「Let It Ride」は、金属的なサウンドのギターが、耳をつんざくように鋭く響き、ややルーズなボーカルも、ジャンクな雰囲気をプラスする1曲。

 7曲目「Budge」は、ギターのサウンドもコーラスワークも、多層的で厚みのある1曲。音が洪水のように押し寄せ、塊感のあるサウンドを持っています。

 「轟音」という意味では、もっと音圧が高く、一聴すると迫力のあるサウンドを鳴らすバンドはいますが、ダイナソーの魅力はサウンド・プロダクションにこだわりが感じられ、非常に耳ざわりが良いところです。

 歪みにも種類を持たせ、クリーントーンも効果的に導入し、楽曲をカラフルに彩っています。轟音一辺倒に頼るのではなく、コントラストによって轟音の効果を最大限に引き出すところもさすがだなと思いますね。

 





Butthole Surfers “Locust Abortion Technician” / バットホール・サーファーズ『ローカスト・アボーション・テクニシャン』


Butthole Surfers “Locust Abortion Technician”

バットホール・サーファーズ 『ローカスト・アボーション・テクニシャン』
発売: 1987年3月
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 テキサス州サンアントニオ出身のバンド、バットホール・サーファーズの3rdアルバムです。

 とにかく変な音を出しまくるバンド、バットホール・サーファーズ。本作『Locust Abortion Technician』も、オルタナティヴやアヴァンギャルドというより、「ワルノリが過ぎる」と言った方が適切なアルバムです。音楽の下地には、シンプルなロックが見え隠れしますが、表層的にはファニーな音やアレンジが耳につきます。

 ジャンクで実験的でサイケデリック。とっ散らかった音楽が展開されますが、各曲とも不思議なまとまりがあります。とはいえ、一般的にはかなりエキセントリックな作品なので、知り合いや家族が近くにいる場所で聴くときは、注意しましょう。

 1曲目は「Sweat Loaf」。タイトルから想像できる方もいらっしゃると思いますが、ブラック・サバスの「Sweet Leaf」のオマージュで、ギター・リフをそのまま拝借しています。しかし、ギターの音質はブラック・サバス的なハード・ロックを感じさせるものではなく、もっと下品でジャンクな響きを持ったもの。

 ボーカルもメロディアスでは決してなく、笑い声や叫び声が飛び交う曲です。アルバム冒頭から、先行きが楽しみになってきます(笑)

 2曲目「Graveyard」も、イントロからノイジーかつヘロヘロな高音ギターが響き渡ります。慣れてくると、何も感じなくなってきてしまいますが、この曲もかなり変な曲です。下品に歪んだギターが、突拍子もないフレーズを随所の差し込み、エフェクトがかかり過ぎたボーカルが、うめき声のように響きます。

 3曲目「Pittsburg To Lebanon」のイントロには、さわやかな鳥のさえずりがサンプリングされています。しかし曲自体はさわやかとは程遠く、重たく引きずるようなスローテンポに、つぶれるほど歪んだリズム・ギターと、耳障りなリード・ギターが乗り、ボーカルは嘔吐でもするかのような、下品な歌い方。実にバットホール・サーファーズらしい1曲だと思います。

 6曲目の「Human Cannonball」は、ドタバタしたドラムのリズムに、フリーキーなボーカルと、自由でノイジーなギターが乗っかる1曲。全体のサウンド・プロダクションは、かなり奇妙なのは事実ですが、ノリが良く、普通のロックのように聴くことも可能です。

 7曲目「U.S.S.A.」は、ボーカルも含め全ての楽器が下品に歪んでいて、一体感…というより塊感のある1曲。アンサンブルがどうこうという楽曲ではなく、ボーカルにも加工がなされているため、聴く人によっては、プレイヤーが故障したと勘違いするかもしれません。

 アルバムを通して、とにかく下品でジャンクな空気が充満した1作です。ただ、実験性が高すぎて聴きにくいかというと、ドラムのリズムやギター・リフなど、音楽として楽しめる要素を残した曲が多く、意外と普通に聴けます。まったくポップ・ソングの体をなしてないトラックも、中にはありますが(笑)

 これは価値観によるんでしょうが、バットホール・サーファーズを聴いたときに人の反応は、不快に顔をしかめるか、ワルノリに笑ってしまうか、のいずれかが多いのではないでしょうか。僕は後者です。

 意味わかんない音楽やってるんだけど、アレンジやエフェクトにポストロック的な要素を感じたり、エキセントリックなロックとして聴けたり、個人的には面白いアルバムだなと思います。