Sebadoh “Bubble & Scrape”
セバドー 『バブル・アンド・スクレイプ』
発売: 1993年4月23日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン), Brian Fellows (ブライアン・フェローズ), Paul McNamara (ポール・マクナマラ)
1988年にマサチューセッツ州ノーサンプトンで結成されたインディー・ロック・バンド、セバドーの4thアルバム。前作まではニューヨークにオフィスを構えるレーベル、ホームステッドからのリリースでしたが、今作からはUSインディーを代表するレーベル、シアトルのサブ・ポップへと移籍しています。
「ローファイ」というジャンルの代表格のバンドと目されるセバドー。4作目となる本作でも、ローファイ感の溢れる、魅力的な音楽が鳴らされています。
ローファイという言葉も、音楽ジャンル名としては、曖昧な部分を残すところがありますので、ここで簡単にまとめておきます。一般的に「ローファイ」というと、録音状態が悪く、チープな音質でレコーディングされた音源、またそのような音を出すバンドを指します。
安価なカセット・デッキしか持っていない、という機材的、経済的な理由でローファイにならざるを得ないケースもあれば、意図的にしょぼい音質を狙って、レコーディングをするケースもあります。どちらかというと後者のように、豪華なメジャー的サウンドに対するアンチテーゼとして、しょぼい音質を狙うのが、ジャンルとしてのローファイの特徴であると言って良いでしょう。
言い換えれば、良くも悪くも時代に寄り添った、似たり寄ったりのメジャー的サウンドに反対し、全く違った音質で魅力を追い求める、ということ。なので、ただやみくもに劣悪で薄っぺらい音質を追い求める、というのも本末転倒です。
大切なのは、音圧の高いハイファイ・サウンドが無条件に良い音とも限らず、ノイズまみれのペラッペラのローファイ・サウンドが悪い音とも限らない、ということです。
また、安っぽい音質でレコーディングすることで、アングラ臭やインディーロック感を演出し、一部の音楽にとっては魅力となる。音質をあえてしょぼくすることで、メロディーやアンサンブルが前景化される、といった効果もあるでしょう。
前書きが長くなりましたが、セバドー4作目のアルバムとなる本作は、飾らない音質と、ラフさを残したアンサンブルの中で、物憂げながら流麗なメロディーが引き立つ、ローファイの魅力が浮き彫りになった1作です。
1曲目の「Soul And Fire」は、テープのスロー再生を思わせる、引き伸ばされたようなリズムとメロディーが、心地よく流れていく1曲。感情を排したように淡々としたボーカルの歌唱、歪んではいるのに攻撃性よりもジャンク感を感じさせるギター、パスンパスンと軽く響くドラムなど、ローファイの魅力がたっぷり。
2曲目「2 Years 2 Days」は、1曲目よりはリズムもサウンドの輪郭もクッキリとした1曲。とはいえ、ざらついた歪みのギターと、ヘロヘロかつ伸びやかにソロを弾くギターのサウンドなど、型をはみ出た魅力は多分に持っています。
3曲目「Telecosmic Alchemy」は、おもちゃのようなサウンドを持った、ジャンク感の強い1曲。ボーカルも含め、全ての楽器がチープでガチャガチャした音質。ローファイ成分が凝縮されています。
4曲目「Fantastic Disaster」は、硬質でタイトなリズム隊に、ヘロヘロのギターとハーモニカが絡む1曲。このヘロヘロ具合が、楽曲に奥行きと揺らぎを与え、飽きのこない魅力となっています。
5曲目「Happily Divided」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた、牧歌的な1曲。コーラスワークも整理され、ローファイ感は薄め。ですが、途中から奥の方で鳴っているエレキ・ギターらしき音が、わずかにジャンクな雰囲気をプラス。
6曲目「Sister」は、歪んだエレキ・ギターが唸りをあげるロックな1曲。ですが、もちろんハードロックのように音圧の高いサウンドではなく、線の細さの目立つサウンド。オモチャの車がガタゴト、バラバラになりそうに走っていくような、キュートで味わい深い疾走感があります。
9曲目「Elixir Is Zog」は、ドラムのビートはくっきりとしていますが、ギターは音程が不安定でヘロヘロ。サビではボーカルの歌唱がシャウト気味になり、コントラストの鮮やかな1曲。
10曲目「Emma Get Wild」は、ギターの音程には怪しいところがありますが、アンサンブルは立体的で、ロック的なグルーヴも感じられる1曲。しかし、もちろんゴリゴリにグルーヴしていくわけではなく、ところどころリズムにも音程にも甘いところがあり、そこが楽曲に独特の浮遊感を与え、魅力となっています。
14曲目「No Way Out」は、テンポが速く、前のめりに疾走していく1曲。各楽器の音質はチープですが、その分リズムが前景化し、疾走感を演出しています。
16曲目「Think (Let Tomorrow Bee)」は、アコースティック・ギターとボーカルのみの、物憂げな1曲。コーラスワークからは、サイケデリックな空気も漂います。
アルバムを締めくくる17曲目の「Flood」は、バネで弾むようなギターのサウンドと、ブチギレ気味のボーカルが印象的な、ジャンクかつ疾走感あふれる1曲。
ローファイなサウンドによる一貫性もありながら、多彩な楽曲が収められた、楽しいアルバムです。サウンドはどれも一般的な価値観からすればチープで、各楽器にフレーズにも不安定なところが多々ありますが、それらが微妙にリズムをずらすことで生まれるグルーヴ感やポリリズム感のように、楽曲に奥行きを与えています。
「ローファイ」というと、どうしてもネタ的に音のしょぼさのみが注目されますが、音圧の高いハイファイ・サウンドによる、楽譜通りの演奏には無い、立体感を持っているところが、このジャンルの大きな魅力のひとつ。
1993年にリリースされた当時は17曲収録ですが、2008年のリイシュー版にはボーナス・トラックが15曲も追加され、計32曲収録。しかも、1曲ごとが短いため、2枚組ではなく1枚のディスクに収められています。