Califone “Heron King Blues”
キャリフォン 『ヘロン・キング・ブルース』
発売: 2004年1月20日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: Michael Krassner (マイケル・クラスナー)
シカゴを拠点に活動するポストロック・バンド、キャリフォンの2004年作のアルバム。
「ポストロック」にカテゴライズされるバンドは、他のジャンルと同じく、当然のことながらバンドによって、音楽的なアプローチ方法は様々。キャリフォンの特徴を一言であらわすなら、生楽器と電子音、伝統と実験の融合、と言っても差し支えはないでしょう。
アコースティック・ギターをはじめとした生楽器のオーガニックなサウンドと、ノイズ的な電子音、アヴァンギャルドなアレンジを融合させるキャリフォン。本作では、過激なサウンドはやや控えめになり、静かに違和感を感じるサウンドやアレンジが、アコースティックな音色に溶け込んでいます。
1曲目の「Wingbone」は、アコースティック・ギターとバンジョー、ボーカルを中心に据えた、穏やかで牧歌的な1曲。アルバムの導入部となる1曲目ということだからか、実験性は控えめ。とは言え、時折アクセントのように挟まれるパーカッションと、どこか濁りのあるギターのハーモニーが、オルタナティヴな空気を演出し、単なるフォークやカントリーの焼き直しではない音像を持っています。
2曲目「Trick Bird」は、電子音を中心に構成された、エレクトロニカ色の濃いサウンドを持った1曲。輪郭のぼやけた電子音がリズムを刻み、深海にいるような気分にさせます。
4曲目「Apple」は、打ち込みによるビートと、メロディー感の薄い歌メロ、エフェクト処理された様々な楽器の音が飛び交う、ジャンクな音像の1曲。一般的なバンドのアンサンブルとは全く異質の躍動感と一体感が生み出されていきます。
5曲目「Lion & Bee」は、アコースティック・ギターと電子音が重層的に重なり、空間を穏やかに埋めていく1曲。
7曲目「Heron King Blues」は、イントロから生楽器を用いたアンサンブルが展開されますが、各楽器の奏でるフレーズは時に断片的で、アヴァンギャルドな空気が充満しています。しかし、アンサンブルにはグルーヴと躍動感があり、次々と展開があり、飽きずに聴けます。アルバム表題曲だけあって、実験的でありながら、どこでも聴いたことのないグルーヴ感に溢れ、本作のベスト・トラックと言っていい素晴らしい完成度の1曲。
随所に実験的なアレンジが施されているのですが、全体のサウンド・プロダクションは、アコギなどの生楽器を主軸にしたオーガニックなもの。そのため、どこか懐かしく、耳なじみが良いのに、同時に若干の違和感を感じる、という絶妙なバランスで成り立った作品です。
「実験のための実験」に陥らず、実験性を音楽のフックになるよう、隠し味のように巧みに忍ばせているところが、このバンドのポップ・センスの優秀さと言えるでしょう。
2004年に、シカゴを代表するインディー・レーベル、スリル・ジョッキーからリリースされたオリジナル盤では全8曲の収録でしたが、2017年にインディアナ州ブルーミントンのインディー・レーベル、デッド・オーシャンズ(Dead Oceans)より、ボーナス・トラックを追加した「Deluxe Edition」として再発。こちらは全14曲収録となっており、現在はAppleなど各種サイトでデジタル配信もされています。