Slint “Tweez” / スリント『トゥイーズ』


Slint “Tweez”

スリント 『トゥイーズ』
発売: 1989年
レーベル: Jennifer Hartman (ジェニファー・ハートマン), Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 1986年にケンタッキー州ルイヴィルで結成されたスリントの1stアルバム。1989年にジェニファー・ハートマンなるレーベルから発売され、その後1993年にシカゴの名門タッチ・アンド・ゴーから再発されています。ちなみにジェニファー・ハートマンというのは彼らの友人が運営するレーベルで、今作が唯一のリリース作品。

 コンプレッサーで極度に圧縮されたような、金属的なギター・サウンド。降り注ぐノイズと変拍子。のちのポストロックやマスロックと呼ばれるバンド群の、源流のひとつとなったのがスリントです。ダークな雰囲気を持った、生々しいサウンド・プロダクションと、複雑なバンド・アンサンブル。ときおり挟まれる初期衝動の叫びのようなボーカルと、地下っぽい空気感を存分に持った1枚でもあります。

 1曲目「Ron」では、金属的な独特のギター・サウンドが解き放たれたあと、様々なノイズや音が飛び交い、やがて複雑に絡み合っていく展開。2分弱しかないのに、展開が目まぐるしく、エキサイトメント溢れる1曲です。

 4曲目の「Kent」は、ドラムの音が硬質で鋭く、臨場感のある1曲。ギター・サウンドは比較的クリーンで、アンサンブルによって静と動を使いわけながら、風景が次々に変化していくような1曲。

 5曲目「Charlotte」は、冒頭から全体を覆い尽くすような、深く歪んだギターのサウンドが押し寄せます。その後もボーカルとギターが暴発したような、パンキッシュな曲。

 8曲目「Pat」は、ドラムのせわしないリズムと切り替えが、マスロックを思わせる1曲。ギターはクリーン・トーンが選択され、轟音で押し流すのではなく、アンサンブルによってスリルや緊張感を演出しています。あらためて、1989年という時代に、ニューヨークやシカゴではなくルイビル出身のバンドが、このような音楽を志向していたことに驚きます。

 ポストロックの源流として、ハードコアが取り上げられることがありますが、正直最初の頃はピンと来ませんでした。しかし、今作のようにポストロックの源流と見なされるような作品を聴き込んでいくうちに、なるほどハードコアとポストロックは地続きだと納得できました。

 今作も実験性と攻撃性を兼ね備えており、エモーションの表出が曲の速度や歌詞ではなく、音楽的なアイデアへと方向を変えていったのがポストロックのひとつなんだろうな、というのが実感できます。めちゃくちゃおすすめ!というわけでありませんが、ポストロックの伝説的名盤として、聴いて損はない作品だと思います。