Highspire “Your Everything”
ハイスパイア 『ユア・エヴリシング』
発売: 2004年
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)
2000年にペンシルベニア州フィラデルフィアで、アレックス・ホワイト(Alex White)とEJ・ハーゲン(EJ Hagen)によって結成されたバンド、ハイスパイアの1stアルバム。
2003年にドイツのアリソン・レコーズ(Alison Records)というレーベルから、ヨーロッパ限定でリリースされたあと、翌2004年にシューゲイザーを得意とするレーベル、クレアコーズからリリースされています。
シューゲイザー専門レーベルと言い切っても過言ではない、クレアコーズからリリースされていることも示唆的ですが、ジャンルとしてはシューゲイザーあるいはドリームポップに属する音楽性を持ったバンドです。
シューゲイザーと一口に言ってしまうと、あまりにもこぼれ落ちてしまう情報が多いので補足させていただきますが、圧倒的な量感の轟音ギターで押し流すようなバンドではなく、電子音やアコースティック・ギターも織り交ぜながら、サウンドの中に漂うように歌メロを溶け込ませるのが、彼らの特徴。
轟音ギターだけに頼ってはいないため、曲によってはシューゲイザーというより、エレクトロニカやギターポップに近い音像を持っています。それを、音楽性が広いと取るか、音楽性がブレていると取るかは、個人に判断によりますが、僕個人としては、なかなかクオリティの高い楽曲とサウンドを、安定して持っているなと、思います。
1曲目「Until The Lights Go Down」は、電子ノイズのような高音と、打ち込みのドラムのビートに続いて、空間にゆったりと浸透していくように、ギターのサウンドが多層的に広がります。ギター以外にも、柔らかな電子音も聴こえ、厚みのある音の壁が構築。その上に、流れるように歌のメロディーが乗ります。アルバム冒頭は、正しくシューゲイザー色の濃い1曲。
2曲目「Skies You Climb」は、意外性のあるアコースティック・ギターのコード・ストロークからスタート。シンセサイザーらしき電子音と、穏やかボーカルが加わり、陰のあるギターポップのような耳ざわり。その後、奥の方で厚みのある歪みのギターが鳴り始め、シューゲイザー色を強めていきます。アコギと電子音の柔らかなサウンドにより、歪んだギターが中和され、暖かみのあるサウンド・プロダクションになっています。
3曲目「Fade In A Day」では、コーラスやトレモロなど空間系エフェクターをかけたギターがフィーチャーされ、前の2曲とはまた耳ざわりの異なるサウンド。浮遊感のあるボーカルと、音色の異なる複数のギターが編み上げるアンサンブルは、ほのかにサイケデリックで、ドリーミーな空気を持っています。
4曲目「Portsmouth」は、打ち込みと思われる電子音で構成された1曲。ベースラインとドラムのビートも、タイトで無機質な音質。ボーカルも感情を排したような冷めた歌い方で、全体としてひんやりとした耳ざわりです。
5曲目「Shattered」は、倍音豊かなギターに、流れるようにメロディアスなボーカルが溶け合う、これぞシューゲイザー!という趣の1曲。はっきりと言ってしまうと、マイブラ色、ラヴレス色が非常に濃いです。
6曲目「See The Lines」は、ややざらついた音色のギターと、やや硬質でタイトなベース、シンプルで手数を絞ったドラム、楽器の間を漂うようなボーカルが重なる、アンサンブル重視のシューゲイザーとでも言うべき1曲。バンドが塊となって押し寄せるのではなく、各楽器が何をやっているのか、はっきりと聞き取れるバランス。
7曲目「Sub Par Life, A Brilliant Death」は、アンビエントな雰囲気のイントロから、ベースとドラムが加わり、立体感をプラス。エレクトロニカのような音響を前景化したサウンドを持ちながら、アンサンブルも認識できる、不思議なバランスの1曲。
10曲目「Vesperbell」は、複数のディストーション・ギターが前面に出て、曲を先導していきます。音量を抑えられたリズム隊と、流れるようなメロディーがギターと溶け合い、ややギターポップ風味のあるシューゲイザー・ナンバー。
12曲目「Love Me Or Leave Me」は、柔らかな電子音と、打ち込みのビート、淡々とメロディーを紡ぐボーカル、深くエフェクトのかかったギターが絡み合い、アンサンブルを構成。電子音とギターが溶け合い、歌メロも聞かせる、非常に間口の広い1曲で、このアルバムの方向性を全て包括した1曲とも言えるでしょう。
輪郭のぼやけた柔らかい電子音や、エフェクターを駆使したギター・サウンドが多用されるアルバムではあるのですが、音響が過度に前景化されるわけではなく、アンサンブルにも重きを置いているのがわかる作品です。
突出した個性があるわけではありませんが、サウンド・プロダクションとアンサンブルの両面で、安定した質を備えたアルバムだと思います。