「ハードコア・パンク」カテゴリーアーカイブ

Descendents “Milo Goes To College” / ディセンデンツ『マイロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ』


Descendents “Milo Goes To College”

ディセンデンツ 『マイロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ』(ミロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ)
発売: 1982年
レーベル: New Alliance (ニュー・アライアンス), SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1977年にカリフォルニア州マンハッタンビーチで結成されたバンド、ディセンデンツの1stアルバム。1982年にニュー・アライアンスからLPでリリースされ、1987年にニュー・アライアンスの親レーベルでもあるSSTから再発されています。

 アルバムのタイトルは、ボーカルのマイロ・オーカーマン(Milo Aukerman)が、カリフォルニア大学サンディエゴ校に進学するため、バンド活動を離れることに由来。アルバムのジャケットになっているのは彼のカリカチュアで、やがてバンドのマスコットになります。

 15曲収録で、合計時間は22分。大半が2分以内におさまった疾走感と、耳なじみの良いメロディーを併せ持つアルバムです。後のカリフォルニアのパンク・シーンの元を作ったバンドのひとつと言っていいでしょう。

 1982年の作品ということで、現代的な耳で聴くと、音圧は低めですが、疾走感あふれる演奏と、流れるようなメロディー、みずみずしく青春を感じさせるコーラスワーク、身近な日常を切りとる歌詞には、パンクの魅力が溢れています。と書くと「パンクってなに?」という話になってしまいますが、背伸びせずに日常を歌うのも、ある時期以降のパンクの役割のひとつではないでしょうか。

 日本でも青春パンクと呼ばれるジャンルがありますが、政治性や攻撃性を重視するだけでなく、日常をユーモアや音楽で描き出すことで、自分の日常や世界を変える。その態度にリアリティがあり、パンクなのだと思います。

 1曲目「Myage」から、速めのテンポに乗って、バンド全体が前のめりに突っ込んでくるようなアンサンブルが展開されます。シャウト気味ながら、メロディーもきちんと聴かせる、ボーカルの歌唱バランスも秀逸。

 2曲目「I Wanna Be A Bear」も、ギターとベースが絡み合うように疾走するイントロから、前のめりに進行していきます。わずか40秒ほどの1曲で、勢いと共にあっという間に終わります。

 4曲目「Parents」は、ベースラインにジャカジャカと歪んだギターが絡みつくようなアンサンブル。

 5曲目「Tonyage」は、前につっこみ気味のリズムで、徐々に加速していく1曲。この曲も1分以内の短い曲ですが、その中で何回かに分けてテンポを上げていき、疾走感に溢れています。

 8曲目「Catalina」は、上から叩きつけるような立体的なドラムと、淡々とリズムを刻むベースと、ざらついた音色のギターが、ただの勢い任せではない、機能的なアンサンブルを構成していきます。スポークン・ワードから始まり、徐々にテンションを上げていくボーカルも、バンドのテンションと一致していて、盛り上がりをさらに演出。

 10曲目「Statue Of Liberty」は、メタリックな歪みのギターと、タイトなリズム隊が、カチッとしたアンサンブルを展開していきます。流れるようなメロディーとコーラスワークも心地よく、アングラ感とポップさの溶け合ったロックンロール。

 13曲目「Hope」は、潰れたような歪みのギターを中心に、塊感のある演奏が展開されます。各楽器が分離し、絡み合うようなアンサンブルが、このバンドの魅力だと個人的には思うのですが、この曲はバンドがひとつの塊になって転がっていくような一体感があります。

 アルバム全体を通して、各楽器が絡み合うような一体感があり、その絡み合いが疾走感に繋がっています。全ての楽器が同じリズムで、縦をぴったり合わせるのではなくて、追い抜き合うような、もつれ合うような部分があるところが、フックになって、耳をつかみやすくなっているんじゃないかと思います。

 疾走感あふれる演奏やシャウト気味のボーカルなどハードコア的な要素と、親やすいメロディーとコーラスワークなどメロコアに通じる要素を併せ持ったアルバムで、その後のカリフォルニアのパンクシーンに与えた影響の大きさを感じさせます。

 また、直線的に突っ走るだけでなく、歌詞と演奏の両面において、知性を感じさせるところも、このバンドおよびアルバムの魅力であると思います。

 





Dead Kennedys “Fresh Fruit For Rotting Vegetables” / デッド・ケネディーズ『暗殺』


Dead Kennedys “Fresh Fruit For Rotting Vegetables”

デッド・ケネディーズ 『暗殺』
発売: 1980年9月2日
レーベル: Alternative Tentacles (オルタナティヴ・テンタクルズ), Cherry Red (チェリーレッド)

 カリフォルニア州サンフランシスコのパンク・バンド、デッド・ケネディーズのデビュー・アルバムです。最初はイギリスのCherry Redレーベルから発売され、その後メンバーのジェロ・ビアフラが設立したレーベル、Alternative Tentaclesからもリリースされています。

 英語のアルバム・タイトルは『Fresh Fruit For Rotting Vegetables』ですが、日本盤には『暗殺』という邦題がつけられていました。

 現代的なハイファイ・サウンドと比較すれば、やや奥まった印象のあるサウンドですが、そんなことは気にならなくなるほど、初期衝動で突っ走るアルバムです。あまりアンサンブルがどうこうとか、サウンド・プロダクションがどうこうとか言うアルバムではなく、エモーションと疾走感が溢れた1作。

 テンポが速いことに加えて、バンド全体が塊になって迫ってくるような一体感があります。また、直線的に突っ走るだけではなく、演奏には確かな技術力も感じられるバンドです。

 1曲目は「Kill The Poor」。「ボーカルの声が唯一無二」と言われることが多いこのバンド、確かにやや演説っぽいというべきなのか、絶妙にビブラートがかかり、聴き手をアジテートするような魅力のある声です。ハイテンポではないものの、各楽器のプレイには随所に推進力となるようなフックがあり、アンサンブルも機能的にまとまった1曲だと思います。

 2曲目「Forward To Death」は、1分20秒ほどの長さの、疾走感あふれる1曲。と言っても、このアルバムに収録の14曲中6曲は2分未満です。イントロからドラムがリズムを刻み、ギターとベースが追いかけっこをするように走り抜け、聴き手をハイテンポな曲に引きずり込んでいきます。

 7曲目「Chemical Warfare」は、再生時間1:56あたりで3拍子に切り替わる部分にも意外性があります。当該部分のユーモアたっぷりのボーカルの歌い方もアクセント。曲のラストはカオスになってから、カウントを取り直してきっちり終わるなど、展開が多彩。

 8曲目の「California Über Alles」は、イントロから、立体的なドラムが響きわたり、ギターとベースも鋭くリズムを刻んでいきます。声の奥からビブラートをかけたようなボーカルも印象的。

 勢いを重視した、疾走感あふれるアンサンブルが展開される1作です。しかし、前述したとおり、全て8ビートの直線的な曲が続くわけではなく、演奏力の高さをうかがわせます。

 また、ロカビリーやカントリー、ロックンロールなど、彼らのルーツと思われる音楽の要素も隠すことなく感じられ、パンク一辺倒ではない多彩さもある作品です。ボーカルの声も魅力的。リスナーの背中を押すような、アジテートするような空気を持った声です。

 現代的な音圧高め、レンジ広め、輪郭くっきりのサウンドから比較すると、音圧不足でモヤっとしたサウンドと感じる方もいるかもしれません。しかし、そんな意識を吹き飛ばすぐらいの気合いと勢いの充満したアルバムです。

 





Bad Brains “I Against I” / バッド・ブレインズ『アイ・アゲインスト・アイ』


Bad Brains “I Against I”

バッド・ブレインズ 『アイ・アゲインスト・アイ』
発売: 1986年11月16日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Ron Saint Germain (ロン・セイント・ジャーメイン)

 ワシントンD.C.出身のバンド、バッド・ブレインズの3枚目のアルバムです。

 レゲエやファンクやハードコアを融合し、ミクスチャー・ロックの先駆とも言われるバッド・ブレインズ。本作も、雑多なジャンルが融合し、彼らのグルーヴ感とオリジナリティ溢れるアルバムになっています。ちなみにメンバーは4人とも、アフリカン・アメリカンです。

 本作『I Against I』以前の2作では、ハイテンポのハードコア的な曲や、レゲエ色の強い曲など、ジャンルのカラーがわかりやすい楽曲が多かったのですが、3作目となる本作では、各ジャンルがより有機的に混じり合い、音楽性の成熟を感じさせるところもあります。

 2曲目「I Against I」は、イントロからやや金属的なサウンドのギターを先頭に、疾走感あふれる1曲。イントロの速弾きにはメタルを感じさせ、バンドが塊となって加速するところからはハードコアの香りがします。

 さらに歌メロは、ラップのように早口で音程が希薄な部分と、ライブではシングアロングが起こりそうなメロディアスな部分が共生。再生時間0:37あたりで、バンド全体のリズムが切り替わる部分もあり、目まぐるしく多彩な展開のある1曲です。

 5曲目の「Secret 77」は、立体的なアンサンブルが響き渡る1曲。80年代の録音なので、音に若干の古さというか、時代感がありますが、今聴いても十分に刺激的。当時のディスコやファンクに近い耳ざわりもありながら、ハードコアのストイシズムも滲み出ています。

 6曲目「Let Me Help」は、切れ味鋭いギターと、ファットなベースの音、シンプルでタイトなドラムが、グルーヴしながら疾走するハードコア色の濃い1曲。ボーカルがシャウト一辺倒ではなく、ハードコアくさくなりすぎないバランス感覚も秀逸。

 1986年リリースの本作、今聴いてもオリジナリティに溢れ、単純にかっこいい1枚です。前述したとおり、多種多様なジャンルのパーツが見え隠れするアルバムなんですけど、散漫な印象や、無理やり感が全く出てこないのが、彼らの凄いところだと思います。

 僕も世代的に全くの後追いですし、最近はバッド・ブレインズを知らない、聴いたことがない、という方も多いと思います。でも、レゲエやハードコアやファンクやメタルが融合したクールなバンドとして、いま聴いても十分にかっこいいですよ。