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Meat Puppets “Meat Puppets” / ミート・パペッツ『ミート・パペッツ』


Meat Puppets “Meat Puppets”

ミート・パペッツ 『ミート・パペッツ』
発売: 1982年
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1980年1月に、アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの1stアルバム。

 近年では「カート・コバーンが好んで聴いていた」という文脈で、語られることの多いミート・パペッツ。初期SSTを代表するバンドであり、ニルヴァーナ(Nirvana)をはじめ、サウンドガーデン(Soundgarden)やダイナソーJr.(Dinosaur Jr)など、数多くの後続バンドに、影響を与えたと言われています。

 ここで挙げたのは、いわゆるグランジとオルタナティヴ・ロックに括られるバンドたち。1980年に結成、1982年に本作でアルバム・デビューを果たすミート・パペッツは、1980年後半から沸き起こるグランジ・オルタナ・ブームを、準備したバンドのひとつと言っていいでしょう。

 しかし、1stアルバムである本作で鳴らされるのは、グランジやオルタナと言うよりも、疾走感の溢れるハードコア・サウンド。ここから彼らは音楽性を少しずつ熟成し、オルタナティヴ・ロックのプロトタイプとなる音楽を作り上げていきます。

 パンク旋風が過ぎ去り、ポストパンクやハードコアなど、パンクの先をバンドが急増し、各地でインディーレーベルが立ち上がっていく1980年代前半。そんな時代にデビューした、ミート・パペッツの音楽の変遷を追うことは、パンクからグランジまでの流れを把握する上でも、非常に有意義です。

 1970年代のオリジナル・パンクの延長線上にあると言える、スピーディなハードコア・パンクが展開される本作。1982年のオリジナル盤は、14曲収録で、時間はおよそ22分弱。速い、短い、アツい、と三拍子そろった1作です。

 しかし、直線的に初期衝動に任せて突っ走るだけかと思いきや、随所にその後の音楽性の拡大を感じさせる要素はあります。例えば、4曲目の「Walking Boss」は、アメリカのフォークシンガーであり、ブルーグラス・ギターの名手、ドク・ワトソン(Doc Watson)のカバー。ルーツ・ミュージックからの影響を、隠すこと無くあらわしています。

 次作『Meat Puppets II』では、よりルーツ・ミュージックを取り込んだロックを志向するミート・パペッツ。疾走感を重視したパンキッシュな曲が並ぶ本作ですが、次作へ繋がるヒントが、いくつも散りばめられています。

 とはいえ、それは次作以降の話。本作は、1stアルバムらしい荒々しい疾走感を、まずは楽しむべきでしょう。

 ちなみに前述のとおり、オリジナルのLP盤は14曲収録ですが、1999年にCDがリイシューされる際に、ボーナス・トラックを18曲(!)も追加。合計32曲収録となっています。

 このボーナス・トラックには、1981年にリリースされたEP『In A Car』や、イギー&ザ・ストゥージズのカバー「I Got A Right」、グレイトフル・デッドのカバー「Franklin’s Tower」などを含み、彼らの音楽性を探る上でも、興味深い内容。

 現在、各種サブスクリプション・サービスで配信されているのも、こちらの32曲収録バージョンです。





Gorilla Biscuits “Start Today” / ゴリラ・ビスケッツ『スタート・トゥデイ』


Gorilla Biscuits “Start Today”

ゴリラ・ビスケッツ 『スタート・トゥデイ』
発売: 1989年3月1日
レーベル: Revelation (レヴェレーション)
プロデュース: Don Fury (ドン・フューリー)

 ニューヨークで結成されたハードコア・パンクバンド、ゴリラ・ビスケッツの1989年リリースのアルバム。

 前年の1988年にリリースされた『Gorilla Biscuits』が7曲入りの7インチで、アルバム扱いかEP扱いか微妙なため、本作を1stアルバムとする場合と、2ndアルバムとする場合があります。

 前作と同じく、ハードコア系のレーベル、レヴェレーションからのリリース。プロデュースも前作に引き続き、ドン・フューリーが担当していますが、クレジット上は「Donny F」と表記。

 CD版では、クレジット上は12曲収録で、シークレット・トラックとして2曲が収録され、実質14曲収録。現在デジタル配信されているバージョンは、シークレット・トラックもきちんとタイトルを付されてクレジットされた、14曲収録となっています。

 1989年にリリースされた本作は、ハードコア・パンクの名盤に数えられる1枚です。ハードコアが持つスピード感を損なうことなく、シングアロングがわき起こりそうな親しみやすい歌メロが共存し、独自の音楽を作り上げています。

 前作『Gorilla Biscuits』から、スピード感とメロディーの両立は実現されていたのですが、本作ではバンドのアンサンブルの面でも、立体的なアレンジが増加し、音楽性の幅がさらに広がっています。

 ハイテンポの疾走感あふれる曲も、もちろん多いのですが、途中でテンポを切り替えたり、各楽器が絡み合うように有機的にアンサンブルを構成する曲など、音楽的な引き出しが確実に増加しています。

 とにかく速度重視のハードコアは、それはそれでかっこいいですし、むしろ極限まで速度や攻撃性を突き詰めることがハードコアの魅力でもあります。しかし、高速ビートの上を駆け抜けるように、メロディアスな歌メロを乗せるゴリラ・ビスケッツの音楽も、同じぐらい魅力的。

 速度とメロディーの両立という点で、後続のメロコアやパンク・バンドたちに与えた影響は、少なからずあるでしょう。

 





Gorilla Biscuits “Gorilla Biscuits” / ゴリラ・ビスケッツ『ゴリラ・ビスケッツ』


Gorilla Biscuits “Gorilla Biscuits”

ゴリラ・ビスケッツ 『ゴリラ・ビスケッツ』
発売: 1988年7月14日
レーベル: Revelation (レヴェレーション)
プロデュース: Don Fury (ドン・フューリー)

 1987年にニューヨークで結成されたハードコア・パンクバンド、ゴリラ・ビスケッツの7インチ作品。レコード時代は7曲収録、CD化された際に5曲追加されて、12曲収録となっています。現在、デジタル配信されているのも、CDと同様の12曲。

 前述のとおり、当初は7曲入りの7インチで発売されたため、アルバムと見なすべきなのか、EP扱いなのかは微妙なところ。サイトや書籍で言及される際にも、アルバム扱いとEP扱いの両方が存在します。参考までに、ウィキペディアではアルバム扱い。

 1980年代後半から、ハードコア・シーンを牽引したレーベル、レヴェレーションからのリリース。

 スピード感あふれる演奏と、メロディアスな歌メロが共存し、独自のハードコア・サウンドを作り上げたゴリラ・ビスケッツ。一体感と疾走感のあるバンドのアンサンブルに、ボーカルが速さにまかせてシャウトするだけではない、起伏のあるメロデイーを曲芸的に乗せていきます。

 ハードコアの持つスピード感という魅力を損なうことなく、メロディーだけ取り出しても十分に楽しめるポップさを併せ持っているところが、このバンドの最大に魅力。

 速度と攻撃性をとことん追求しハードコアを極めるか、あるいは速度を落とし、アンサンブルやメロディーや実験性を重視し、独自のポスト・ハードコアを作り上げるか、という2つの主要な選択肢があるところで、速度とメロディーを共存させることに成功しているのが本作です。

 大半の曲が2分以内に終わり、CD版では12曲で収録時間は19分28秒と、ハードコアらしく曲もコンパクトにまとまっていますが、多彩なメロディーが聴こえるアルバムになっています。

 8曲目に収録されている「Sittin’ Round At Home」は、イギリスのパンクロック・バンド、バズコックス(Buzzcocks)のカバー。

 その後のパワー・ポップやポップ・パンクに影響を与えたバズコックスの楽曲を取り上げていることも示唆的で、ゴリラ・ビスケッツがスピード感と同じぐらいメロディーも大切にしているバンドだと、物語っていると言えるでしょう。





Minor Threat “First Two Seven Inches” / マイナー・スレット『ファースト・トゥー・セブン・インチズ』


Minor Threat “First Two Seven Inches”

マイナー・スレット 『ファースト・トゥー・セブン・インチズ』
発売: 1984年6月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Skip Groff (スキップ・グロフ)

 ワシントンD.C.で1980年に結成され、1983年に解散。短い活動期間のなかで、リリースした作品はアルバム1枚とEP3枚のみ。そんな限られた活動だったにも関わらず、その後のハードコア・パンクのシーンに、多大な影響を与えたバンドがマイナー・スレットです。

 また、メンバーのイアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、ジェフ・ネルソン(Jeff Nelson)がディスコード・レコードを立ち上げ、マイナー・スレットの作品をリリースしたことも、音楽面のみならずDIY精神の面で、多くのインディー・バンドに影響を与えた要因でしょう。

 本作は、マイナー・スレット解散後の1984年にリリースされたコンピレーション・アルバムで、レコードで発売された当初は『Minor Threat』というアルバム・タイトルでした。現在、SpotifyやAppleなどのサブスクリプション・サービスで配信されているのは、『First Two Seven Inches』というタイトルになっています。

 アルバムのタイトルが示すとおり、マイナー・スレットが1981年にリリースした2枚のEP、『Minor Threat EP』(Filler)と『In My Eyes』を合わせたものです。さらに、配信ではディスコードが1982年にリリースしたコンピレーション『Flex Your Head』に収録されていた「Stand Up」と「12XU」の2曲が追加されています。ちなみに「12XU」は、イギリスのポストパンク・バンド、ワイヤー(Wire)のカバー。

 収録されている14曲のうち、1〜8曲目は『Minor Threat EP』、9曲目と10曲目は『Flex Your Head』、11〜14曲目は『In My Eyes』に収録されていた楽曲です。

 音楽以外のことを、ここまで書いてきてしまいましたが、ではこのアルバムでどんな音が鳴っているのかというと、非常にタイトで、疾走感に溢れたパンク・ロックです。

 コンピレーション・アルバムであるので、曲順で流れがどうこうといった作品ではありませんが、スピード感に溢れつつ、直線的なだけではなく、アンサンブルは有機的で、躍動感に溢れています。あとは、なんと言ってもイアン・マッケイの声。シャウト気味で扇動的であるのに、雑に歌い捨てるようなところはなく、メロディアスに感情を込めて歌い上げていきます。

 ハードコア・パンクというと、とにかく速い!というパブリック・イメージがあるかと思いますが、マイナー・スレットはただ速いだけではなく、アンサンブルには緩急があり、歌のメロディーには起伏がありポップなところが、このバンドを特異な存在にしているのでしょう。

 1981年の録音であるので、2000年代以降の音圧の高いハイファイ・サウンドと比較すれば、音圧不足は否めないのですが、そんなことはどうでもよくなるほど、魅力とパワーに溢れた作品です。1981年のワシントンD.C.の空気が閉じ込められたかのような、生々しい空気感も持っています。

 前述したとおり、活動期間が短く、リリース作品も限られた数しか残していないマイナー・スレット。のちの影響力を考慮しての発掘なのか、2003年には『First Demo Tape』という、その名のとおり当時は正式リリースされることのなかった、1981年録音のデモ音源が日の目を見ています。

 かつては『Complete Discography』というCDに、『First Demo Tape』を除く、マイナー・スレットが残した音源のほぼ全てが収録されていました。現在では、本作『First Two Seven Inches』(14曲収録)と、本作に収録されていないEP『Salad Days』(3曲収録)、1stアルバム『Out Of Step』(9曲収録)の3作が配信されているので、この3作で『Complete Discography』収録の26曲が揃います。(なぜだか、Spotifyでは『Salad Days』が、1曲欠けて2曲収録のようですが…)

 





Minor Threat “Out Of Step” / マイナー・スレット『アウト・オブ・ステップ』


Minor Threat “Out Of Step”

マイナー・スレット 『アウト・オブ・ステップ』
発売: 1983年4月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 1980年にワシントンD.C.で結成され、1983年に解散。その短い活動期間にも関わらず、その後のハードコア・パンクに多大な影響を与えたバンド、マイナー・スレットが残した唯一のアルバムです。メンバーのイアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、ジェフ・ネルソン(Jeff Nelson)が立ち上げたレーベル、ディスコードからのリリース。

 80年代前半のレコーディングであるため、現代的な音圧の高いサウンドと比較すると、全体のサウンドがしょぼく感じられるかもしれませんが、音質など気にならなくなるほど、疾走感とエモーションに溢れた作品です。

 高速ビートと、激しく歪んだざらついたギター、疾走感あふれるバンド・アンサンブルも、もちろんこの作品およびバンドの魅力ですが、何よりもこのバンドを特別にしているのはイアン・マッケイの声。個人的には、そう思います。

 シャウト気味の歌唱ではあるものの、雑にならず、言葉に感情がしっかりと込められ、ダイレクトに聴き手に届きます。メロディーに思いのほか起伏があり、メロディアスなのも、歌の魅力を増幅していると言えるでしょう。

 1曲目「Betray」は、細かく正確にリズムを刻むドラムをはじめ、無駄を削ぎ落としたタイトなアンサンブルに、イアンのボーカルが乗り、パンク的な疾走感と、シングアロングしたくなるポップさが共存した1曲。再生時間2:04あたりで、テンポを落とし、リズムを切り替えるところも、マイナー・スレットがただ直線的に走るバンドではないことを象徴しています。

 2曲目「It Follows」は、硬質なサウンドのベースのイントロに導かれ、タイトに絞り込まれたアンサンブルが展開されます。相変わらず、ドラムがプレイ、音色ともに非常にタイト。

 4曲目「Look Back & Laugh」は、ダークでアングラ臭の漂うギターリフから始まり、徐々に躍動感と疾走感、ボーカルのテンションが上がっていきます。

 8曲目「Out Of Step」は、各楽器がほどけた、ややドタバタしたアンサンブルながら、各楽器ともキレ味が鋭く、疾走感あふれる1曲。

 9曲目「Cashing In」は、各楽器とボーカルが絡み合うように、アンサンブルを編み上げる1曲。おどけた歌い方のボーカルがチャーミング。

 「ハードコア・パンク」と言うと、スピード重視のイメージが少なからずあります。本作も、このジャンルを代表する名盤と言っていい1枚であり、スピード感にも溢れているのですが、アンサンブルやボーカルのメロディーにも、スピード感と同じぐらい重きを置いて、タイトにまとまっているところが、この作品が名盤であり、後続のバンドに多大な影響を及ぼした理由であると思います。

 僕はイアン・マッケイ先生信者で、フガジもディスコードも大好きですが、マイナー・スレットも大好き! 未聴の方は、ハードコア・パンクの世界へ、さらに足を踏み入れるために、是非とも聴いてみてください。