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Aloha “Some Echoes” / アロハ『サム・エコーズ』


Aloha “Some Echoes”

アロハ 『サム・エコーズ』
発売: 2006年4月11日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 オハイオ州出身のバンド、アロハの4thアルバムです。アルバムによって若干のアプローチの差異はあるものの、彼らの音楽に共通するのは、エモ的な疾走感とメロディー、ポストロック的な凝ったアンサンブルと音響、というふたつの相反する(と一般的に考えられる)要素を、見事に共存させていることです。ヴィブラフォンの使用は、その象徴と言えます。

 本作『Some Echoes』は、彼らのアルバムの中では、エモ的なスピード感や激しさは控えめに、音響的な要素が色濃い、メローな1作。鍵盤とヴィブラフォンが随所でフィーチャーされ、インストのポストロックとしても通用するアンサンブルが展開されます。

 同時に、彼らの長所のひとつである、泣きのメロディーも健在。若々しくエモーションを爆発させて疾走するエモというより、若さ故の感傷や憂鬱を紡いでいく、といった感じのエモさが溢れるアルバムです。また、アコースティック・ギターが多用されているため、フォーキーな雰囲気も漂います。

 アロハは、サウンド・プロダクションも毎回すばらしいんですが、今作も楽器の音が生々しく、非常に良い音でレコーディングされています。

 1曲目「Brace Your Face」のイントロから、早速ヴィブラフォンが活躍。音数を絞ったアンサンブルの中で、中心的な役割を担っています。ギターとドラムが、徐々に緊張感と加速感を演出するようなアレンジも秀逸。再生時間1:56あたりからの、ギターとヴィブラフォンが絡む間奏も、このバンドの特異性を端的にあらわしていると思います。

 3曲目の「Your Eyes」は、ヴィブラフォンが入っていなければ、ミドルテンポのエモ・ソングといった感じの雰囲気。しかし、ヴィブラフォンが味付け程度ではなく、大々的に使用されることで、音楽性とサウンドの幅が格段に広がっていることが実感できる1曲。

 6曲目「Come Home」は、イントロからストリングスが使用され、バンドが入ってきてからの立体的なアンサンブルが心地よい1曲。ドラムとパーカッションの音が特に良い。

 10曲目「Mountain」。ぎこちないぐらい前のめりに、バンドをアジテートするようなイントロのドラム。その後に入ってくるギターとキーボードが、曲を鮮やかに彩っていく、アロハ得意の展開。

 前述したように、アロハの他のアルバムと比較すると、エモ的なサウンドとスピードよりも、アコースティック・ギターやヴィブラフォンが活躍する、フォーキーな音像の1枚です。しかし、ディストーション・ギターや、わかりやすいアップテンポに頼らずとも、アンサンブルによってドラマチックな展開を演出していて、完成度の高いアルバムであると思います。オルタナ・カントリーが好きな方にもオススメ!

 





Aloha “Home Acres” / アロハ『ホーム・エイカーズ』


Aloha “Home Acres”

アロハ 『ホーム・エイカーズ』
発売: 2010年3月9日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 オハイオ州出身のバンド、アロハの通算5枚目のアルバム。アロハの音楽は、エモを下敷きにしながら、ポストロック的な実験性やヴィブラフォンの導入など、サウンドの面でも音楽性の面でも、レンジが広いところが魅力です。

 今作『Home Acres』は、テンポをただ上げるのではなく、アンサンブルによって疾走感やスリルを演出する手法で、緻密に組み上げられた演奏が展開されます。また、硬質なサウンド・プロダクションも非常にかっこいいです。音質はハードなのに、アンサンブルは知性を感じるほどに緻密。そして、ボーカリゼーションとメロディーはエモい。『Home Acres』はそんな作品です。

 1曲目「Building A Fire」は、淡々とリズムを刻むギターと、その上に被さるように入ってくるキーボードが、溶け合わずに解離したまま、ポリリズムのように進行します。異なるふたつのリズムとサウンドが、溶け合うのではなく、せめぎ合うようにひとつのリズムを形成していく(ように聞こえる)のが、本当にスリリング。

 3曲目の「Microviolence」は、アコースティック・ギターに、立体的なドラムが絡む、グルーヴ感あふれる1曲。ヴィブラフォンも大活躍。ドラムの硬い音質と、アコギやヴィブラフォンの柔らかい音質の楽器とのバランスも、とても良いです。

 4曲目「Searchlight」は、イントロのギターが、サーチライトがなにかを追うように、広がっていくように感じました。もちろん、曲名の「Searchlight」からの連想なのですが。でも、実際にこの曲のギターの独特の音像とハーモニーは、暗闇を揺れながら動く光のようなイメージがあります。

 7曲目の「Cold Storage」。リズムも音質も鋭いイントロのドラムに対して、ギターとキーボードは開放的なサウンドとフレーズ。1曲の中でのコントラストの演出も、このアルバムの肝です。

 アルバムを通して聴いて、あらためて感じるのは、サウンド・プロダクションの巧妙さですね。エレキ・ギターやドラムは、かなり硬質なエッジの立った音でレコーディングされているのに、アコースティック・ギターやヴィブラフォンなど暖かみのある音質の楽器と、違和感なく融合しています。違和感なくというより、むしろお互いが引き立てあうぐらいに、絶妙なバランスです。

 あとは、最初にも書きましたが、とにかくバンドのアンサンブルが素晴らしくて、本当にうまいバンドだな、と思います。個人的に、歌しか聴くところがない、演奏にクリエイティヴィティが感じられないバンドは苦手なんですけど、アロハはとにかく音楽に仕掛けが多くて、聴いていて飽きないです。

 高速のテンポに頼らず、バンド全体で疾走感や緊張感を演出し、表情豊かなサウンドを聞かせる本作『Home Acres』。歌メロも良く、間口の広い作品ですので、ぜひチェックしてみてください!

 





Aloha “Here Comes Everyone” / アロハ『ヒア・カムズ・エブリワン』


Aloha “Here Comes Everyone”

アロハ 『ヒア・カムズ・エブリワン』
発売: 2004年10月26日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 オハイオ州出身のバンド、アロハの2004年発売の3rdアルバムです。アロハの音楽は、みずみずしく疾走感あふれるエモい要素と、ただ直線的に突っ走るだけではない実験性が、バランスよく融合しているところが魅力。

 今作『Here Comes Everyone』も、エモコアらしい若々しい疾走感と、ポストロックと呼べる実験的なアプローチが、絶妙なバランスで共存しています。

 アルバムの始まりを告げる1曲目「All The Wars」は、1曲目らしく、前のめりになった硬質なサウンドのドラムと、そのドラムに絡まるように入ってくるギターが推進力となった、ロックな曲。ボーカルの声とギターのサウンドがみずみずしく、サウンド的にはエモコア色が濃いのですが、前述したようにドラムのリズムがやや複雑で、非常に聴きごたえがあります。

 2曲目の「You’ve Escaped」は、エモさ全開の1曲目「All The Wars」とは打って変わって、アコースティック・ギターとベースのみのイントロ。さらにピアノが入ってきて、1曲目とのサウンドの違いが、ますます際立ちます。再生時間1:18あたりからはヴィブラフォンらしき音が入ってきて、グルーヴ感が増していく展開。最初の2曲だけ聴いても、アロハの音楽性の懐の深さが分かると思います。

 3曲目「Summer Away」でも、大体的にヴィブラフォンを使用。しかも、隠し味程度に使う、というレベルではなくアンサンブルの中核を担っています。ヴィブラフォンが入っていなかったら、もっとシンプルなパンク色の濃い曲になっていたはず。ヴィブラフォンの柔らかで、独特の倍音を持つサウンドのおかげで、音楽の奥行きが格段に広がっています。

 9曲目の「Thermostat」は、多くの楽器が有機的に絡み合う、壮大なアンサンブルの1曲。しかし、地に足がついた感覚で、無理にスケールを広げた印象は全くありません。

 12曲目の「Goodbye To The Factory」は、巨大な動物が行進するような、地響きまで聞こえてきそうな塊感のあるアレンジ。本当にイントロが、あり得ないほどかっこいいです。

 独特の若さとツヤのあるボーカルの声と、エモーショナルなメロディーが、純粋なエモ・バンドとしても十分な魅力を持っています。しかし、それだけではなく、独特のグルーヴを生むドラムのリズム、柔らかなサウンドのヴィブラフォンの活躍、丁寧に組み上げたアンサンブルなど、直線的にエモーションを表出するだけではない、奥深さを持ったアルバムです。

 トータスなど、インスト主体のバンドがヴィブラフォンを導入することは多いですが、アロハのように歌を中心にしたバンドがヴィブラフォンを導入し、しかも曲によっては主導的なパートを担うというのは、珍しいと思います。珍しいだけじゃなく、それがちゃんと音楽の魅力を高めているところも凄い!