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Fugazi “In On The Kill Taker” / フガジ『イン・オン・ザ・キル・テイカー』


Fugazi “In On The Kill Taker”

フガジ 『イン・オン・ザ・キル・テイカー』
発売: 1993年6月30日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ted Niceley (テッド・ニスリー)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの3枚目のスタジオ・アルバムです。

 世代的にこのアルバムを聴いたのはリアルタイムではありません。これは僕の個人的な嗜好の話ですが、アメリカのインディーズを意識的に聴き始めたころ、ソニック・ユースやアニマル・コレクティブなど分かりやすくアート性を持ったバンドが好きで、ある時期までハードコアというジャンルに偏見があり、自分には必要ない音楽なんだろうと思い込んでいました。

 そんな意識を一変させ、「ディスコード」というレーベルのマークを、光り輝くメダルに見えるぐらいの変化をもたらしてくれたのが、フガジであり、このバンドを率いるイアン・マッケイ先生です。

 前口上が長くなりましたが、フガジのアルバムはどれも好きです。今作が特に好き、というわけではないですが、自分が初めて聴いたアルバムということで、思い入れはあります。

 ハードコアというとパワーコードを多用した速さを競うようなジャンルだという先入観があったのですが、まず今作は速さを追求したアルバムではありません。代わりに、音数を絞ったタイトで機能的なアンサンブルが、残響音まで聞こえるぐらい生々しく臨場感のあるサウンドで、展開されています。

 1曲目は「Facet Squared」。一聴すると、各楽器のサウンドもフレーズもシンプルで、すぐに耳コピできそうな曲に聞こえますが、とにかく迫力とコントラストが鮮烈で、かっこいい1曲。イントロのギターは単音を弾いているだけなのに、なんでこんなにかっこいいんだろう。

 再生時間0:47あたりからの、切れ味鋭いギターのサウンドも、鳥肌ものです。もっと音圧の高い、迫力のあるギター・サウンドっていくらでもあると思うんですが、シンプルに歪ませた音でジャカジャカとコードを弾いているだけなのに、これ以上ないぐらいの迫力。ロックのエキサイトメントを凝縮して抽出したような、純度の高さを感じる1曲。イアン・マッケイ先生のボーカルにも、鬼気迫るものがあります。。

 2曲目「Public Witness Program」は、テンション高く疾走する1曲。すべての楽器の音が硬質で、全体のサウンド・プロダクションにも、独特のざらついた質感があります。

 5曲目の「Rend It」は、イントロからバンドが塊になって聴き手に迫ってくる1曲。静寂と轟音のコントラストも鮮烈です。

 6曲目「23 Beats Off」は、6分を超えるアンサンブル重視の1曲。1曲の中でのギターのサウンド、全体の音量のレンジが広く、展開も多彩。

 アルバムを通して、臨場感のある生々しいサウンドと、エモーション溢れる演奏が、充満した1枚です。ボーカルの歌唱からも、もちろんエモーションが溢れていて迫力満点ですが、この作品の優れたところは、各楽器の音にも、怒りや苛立ちといった感情があらわれ、聴き手に迫ってくるところです。

 フガジのアルバムはどれも素晴らしい完成度で、この作品も安心してオススメできる1作です。

 





Fugazi “The Argument” / フガジ『ジ・アーギュメント』


Fugazi “The Argument”

フガジ 『ジ・アーギュメント』
発売: 2001年10月16日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの6枚目のスタジオ・アルバムであり、現在のところ最後のアルバムです。

 フガジのアルバムからは、常にストイックな空気が漂います。サウンドとアレンジの両面において、無駄を極限まで削ぎ落とした、むき出しの音を発しているのがその理由と言えるでしょう。

 シングアロングできるメロコアが持つ爽快感や、スピード重視のハードコアが持つ疾走感とは、全く異質の魅力が本作『The Argument』、そしてフガジの音楽にはあります。(メロコアやハードコアが劣っている、という意味ではありません。念のため。)

 前述したとおり、とにかくストイック。切れ味鋭いむき出しの音が、こちらに迫ってくるアルバムです。圧倒的に音圧や音量が高いというわけではないのに、臨場感あふれる鬼気迫るサウンドが、充満したアルバムです。

 2曲目「Cashout」は、アンビエントなイントロから始まり、再生時間0:53から混じり気のない音色のドラムとギターが、響きわたります。前半は感情を抑えたように淡々と進み、再生時間2:55あたりからエモーションが爆発。3:13あたりから始まるサビでの、イアン・マッケイのボーカルは鳥肌ものです。

 3曲目「Full Disclosure」は、役割のはっきりした2本のギター、硬質なベース、臨場感あふれるドラム、感情むき出しのボーカル、その全ての音が生々しく、かっこいい1曲。

 8曲目の「Oh」は、ざらついた音色のギターとベースが、複雑に絡み合う1曲。

 9曲目「Ex-Spectator」は、イントロからドラムの立体的な音像がかっこいいです。ボーカルが入るまでのイントロが1分ぐらいありますが、いつまでも聴いていたいぐらいアンサンブルが良い。しかし、イアン・マッケイ先生のボーカルがこれまた良い!

 再生時間1:42あたりからの間奏も、立体的なアンサンブルが非常にかっこいいです。4分20秒ぐらいの曲ですので、まずは黙ってこの曲を聴いてください!と言いたくなるレベルの楽曲です。

 アルバムを通して聴いてみると、音を絞ることで緊張感を演出し、いざ音が鳴らされたときの迫力を増幅させていると感じました。

 また、フガジのアルバムの中でも、特に間を大切にしたアルバムであるとも思います。フガジのアルバムは、どれもクオリティ高く良盤揃い。この作品が、今のところラストなのが残念です。