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Goon Moon “I Got A Brand New Egg Layin’ Machine” / グーン・ムーン『アイ・ガット・ア・ブランド・ニュー・エッグ・レイン・マシーン』


Goon Moon “I Got A Brand New Egg Layin’ Machine”

グーン・ムーン 『アイ・ガット・ア・ブランド・ニュー・エッグ・レイン・マシーン』
発売: 2005年6月7日
レーベル: Suicide Squeeze (スーサイド・スクイーズ)

 トゥイギー・ラミレズ(Twiggy Ramirez)名義で、マリリン・マンソンに参加していたジョージア・ホワイト(Jeordie White)と、マスターズ・オブ・リアリティ(Masters Of Reality)のクリス・ゴス(Chris Goss)の2人から成るバンド、グーン・ムーンのデビュー作となるミニ・アルバム。

 本作では、上記2名に加えて、サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラのドラマーを務めるザック・ヒル(Zach Hill)もメンバーとしてクレジット。それ以外にも、複数のゲストを招いてレコーディングされています。

 当サイトのジャンルでは「エクスペリメンタル」に振り分けましたが、ポストロックともマスロックとも、エクスペリメンタル・ロックとも呼べる音楽が展開されるアルバムです。ジャンルで音楽を聴くわけではないし、そこまで気にする必要も無いんですけどね。

 前述したように、マリリン・マンソン、ア・パーフェクト・サークル(A Perfect Circle)、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)に参加していたジョージア・ホワイト、デザート・ロックの雄マスターズ・オブ・リアリティを率いるクリス・ゴス、さらに変態バカテク・ドラマーのザック・ヒルの3人が揃うこのバンド。その期待どおりに、実験的でバラエティ豊かなアンサンブルが繰り広げられる作品になっています。

 1曲目の「The Wired Wood Shed」から、立体的なドラムと、地を這うようなベース、倍音たっぷりの豊かな歪みでリフを弾くギターが、音合わせのように、さりげなく演奏を展開します。1分ほどのイントロダクション的な1曲。

 2曲目「Mud Puppies」は、ハードロック的なギター・リフを主軸に、バンドが一体となって躍動するアンサンブルに、浮遊感のあるコーラスワークが溶け合います。

 3曲目「Inner Child Abuse」は、アンビエントな音像のイントロから、エフェクトを深く施したエレクトロニックな耳ざわりの各楽器と、高速ドラムが溶け合う、音響系ポストロックに近い1曲。

 4曲目「The Smoking Man Returns」は、3曲目に続いて、高速ドラムと電子音が溶け合い、アヴァンギャルドな空気が強く漂う1曲。

 6曲目「Rock Weird (Weird Rock)」は、いわゆるロボット・ボイスと呼ばれるような、エフェクト処理されたボーカルが印象的。音数を絞り、タイトでジャンクなアンサンブルが展開されます。

 7曲目「Mashed」は、アコースティック・ギターを中心に据えた、オーガニックなサウンドのイントロからスタート。その後、エフェクト処理されたアングラ色の濃いボーカルが入り、ジャンクさとポップさの同居した、躍動感あふれるアンサンブルが展開されます。

 ドラムは曲によってフリーなリズムとタイトなリズムを巧みに叩き分け、ギターはロックのハードな部分を凝縮したようなリフを弾き、ベースは全体を支えるようにメロディアスなベースラインを紡いでいく、各人の個性がぶつかり合い、有機的に絡み合う1作です。

 音楽的には実験的な要素も多分に含まれ、決してポップな作風ではありませんが、ロックの音質上の魅力や、アンサンブルのかっこよさが、むき出しのまま提示されるような、ダイレクトな感覚に溢れています。

 





Hella “Church Gone Wild / Chirpin Hard” / ヘラ『チャーチ・ゴーン・ワイルド / チャーピン・ハード』


Hella “Church Gone Wild / Chirpin Hard”

ヘラ 『チャーチ・ゴーン・ワイルド / チャーピン・ハード』
発売: 2005年3月22日
レーベル: Suicide Squeeze (スーサイド・スクイーズ)

 ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による、カリフォルニア州サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラの3rdアルバム。これまでの2枚は、キル・ロック・スターズのサブレーベル、5 Rue Christineからのリリースでしたが、本作はスーサイド・スクイーズからリリースされています。

 ディスク1が『Church Gone Wild』、ディスク2が『Chirpin Hard』と、それぞれのディスクにタイトルが付けられた2枚組のアルバムです。しかし、ヘラ名義でのリリースではありますが、『Church Gone Wild』はザック・ヒル、『Chirpin Hard』はスペンサー・セイムのソロ・アルバムとなっており、純粋なヘラの作品とは、趣向が若干異なります。

 とはいえ、2人の変態的なテクニックはもちろん健在。これまでのヘラらしい部分も、多分に含んでいます。ヘラの特徴というと、非常にテクニカルな演奏を繰り広げながら、サウンドやアレンジに、思わず笑ってしまうぐらい、コミカルな要素や、やりすぎな部分があるところ。いわゆるポップな歌モノではないにも関わらず、とっつきやすさを持っているところが魅力です。

 本作も、メンバー2人それぞれの演奏とアイデアが、ノイジーかつカラフルに展開されます。前述したとおり、2枚組でそれぞれのディスクが、それぞれのソロ作品となっているので、個々の音楽的志向を知る上でも、興味深い作品と言えます。

 ディスク1『Church Gone Wild』は、ザック・ヒルのソロ作。ドラム以外にもギターやボーカルが入っていますが、全てザックによる演奏とのこと。

 手数の多い高速ドラムを中心に、ノイジーなギターや絶叫系ボーカルが飛び交う作品になっています。ドラムが本職のザックだけに、ドラムがアンサンブルの主軸になるのは納得ですが、ギターや電子音などがドラムに絡まり、思いのほかカラフルな世界観を作り上げています。

 例えば3曲目の「Half Hour Handshake: Movement 3」では、叩きつけるようなパワフルなドラムに、ピコピコした電子音が絡まり、親しみやすさを演出。再生時間2:00あたりからは、ボーカルが入り、ドラムがメタリックなサウンドへ。そのまわりで多様な音が飛び交う、ノイジーでカラフルな1曲です。

 ディスク1全体を通して、ノイズ要素を多分に含んでいるのに、どこかコミカルで、ハードルの高さを感じさせないところは、これまでのヘラの音楽性と共通しています。

 ディスク2『Chirpin Hard』は、スペンサー・セイムのソロ作。こちらはヘラというよりも、ファミコンの楽曲をカバーする、スペンサーの別バンド、アドバンテージ(The Advantage)に近い音楽が展開されます。すなわち、正確なテクニックとファニーな音色を用いて、ポップで親しみやすいメロディーを奏でる作品。

 1曲目「Gold Mine, Gold Yours」から、まさにファミコンを彷彿とさせるピコピコ系の音色によってメロディーが奏でられ、そこにリズムマシーンのように、画一的なビートが重なります。

 2曲目「Song From Uncle」では、サウンドがよりソリッドに。しかし、高音域のギターと思われる音色は、押しつぶされたように奥行きが無くチープ。そんなチープな音色で、テクニカルなソロが披露されていきます。

 7曲目「Dad For Song」は、各楽器が歯車のように噛み合い、アンサンブルを構成。かっちりと制御された演奏が続きますが、再生時間1:28あたりから、ジャンクでラフな展開を見せます。

 12曲目「Chirpin Hard」では、前半はファミコンを彷彿とさせる電子音が使われ、なにかのゲームのボス戦のテーマ曲のような、スリリングなアンサンブルが展開されます。

 ディスク1とディスク2共に、マスロックらしい魅力を持ったアルバムであると思います。ディスク1は、高速ドラムを中心に、ロックのダイナミズムと疾走感を凝縮したようなかっこよさが随所にあり、ディスク2には、ロックのアンサンブルの機能性と、そのかっこよさが詰まっています。

 メンバー2人のソロですが、それぞれのディスクに、ヘラと共通する部分、異なる部分があり、ヘラの音楽性がどのような個性の衝突によって出来上がっているのか、その過程を垣間見ることもできます。

 現在のところ、AppleとSpotifyでは配信されておりませんが、Amazonでは配信されています。ちょっと珍しいパターン。