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The Dodos “Visiter” / ザ・ドードース『ヴィジター』


The Dodos “Visiter”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『ヴィジター』
発売: 2008年3月18日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)
プロデュース: John Askew (ジョン・アスキュー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの2ndアルバム。前作『Beware Of The Maniacs』は、レーベルを通さない自主リリースでしたが、今作からLes Savy Favのベーシスト、シド・バトラーが設立したニューヨークのレーベル、Frenchkissと契約しています。

 1stアルバムである前作は、アコースティック・ギターとドラムを中心にしたナチュラルなサウンドを用いて、パワフルに躍動感あふれるアンサンブルを響かせた1作でした。今作では、アンサンブルがより洗練され、アコースティックギターが重層的に、ドラムが立体的に音楽を構成する1枚になっています。前作に引き続き、ボーカルの美しいメロディーとハーモニーも、もちろん聴きどころ。

 1曲目の「Walking」は、ゆったりとしたリズムのなか、アコースティックギターとバンジョーが絡み合い、牧歌的な雰囲気を醸し出します。およそ2分の短い曲で、彼ら得意の立体的なサンサンブルも控えめな、イントロダクション的な役割の1曲。

 2曲目の「Red And Purple」では、アコギのコード・ストロークを、低音の響く立体的なドラムが追いかける、彼ら得意のアンサンブルが展開されます。広々とした空気感まで感じられるアコギの響きと、様々な方向から聞こえてくる立体的なドラムが、開放感ある音空間を作り上げています。

 3曲目「Eyelids」は、ギターとドラムが掛け合うイントロから、ボーカルのハーモニーが全体を包み込む、重層的なサウンドが美しい1曲。ドタバタしたドラムのサウンドには、ローファイの香りも漂います。

 4曲目の「Fools」は、リムショットが耳に残り、イントロから疾走感のある1曲。立体的なアンサンブルが彼らの魅力だと思いますが、各楽器が縦を合わせた演奏から、徐々に各楽器が離れていく、この曲のような展開も良い。

 8曲目「Paint The Rust」は、哀愁を帯びたイントロのギターのフレーズが聴こえます。叩きつけるようなドラムが入ってくると、立体的な音像に一変。再生時間1:44あたりからの間奏も、カントリーとインディーロックの融合といった感じで、ルーツと現代性が溶け合った1曲。

 前作同様、アコースティックギターが中心でありながら、サウンド・プロダクションとアレンジはさらに洗練され、カラフルな印象のアルバムに仕上がっています。オーガニックな質感のアコースティック・ギターと、どこかローファイな雰囲気を持つドタバタした音色のドラムのバランスも、前作に引き続き素晴らしいです。

 





The Dodos “Beware Of The Maniacs” / ザ・ドードース『ビウェア・オブ・ザ・メイニアックス』


The Dodos “Beware Of The Maniacs”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『ビウェア・オブ・ザ・メイニアックス』
発売: 2006年6月11日
レーベル: Self-released (自主リリース)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの自主リリースによる1stアルバムです。こんな作品が自主リリースでサラッと登場するところに、USインディーズの懐の深さを感じます。個人的に、心からオススメしたい1枚。名盤です!

 主にボーカルとアコースティック・ギターを担当するメリック・ロング(Meric Long)と、ドラムとパーカッションを担当するローガン・クローバー(Logan Kroeber)からなる2ピースバンド。というとフォークやカントリー的な音楽が想定されると思いますが、本作はカントリーとは違ったグルーヴ感に溢れた作品です。

 確かにアコースティックギターを中心に据えたサウンドはカントリーに近い耳ざわりですが、それよりもロック的なダイナミズムが全面に出たアルバム。音はカントリーなのに、バンドの躍動感と迫力はロック的と言ったらいいでしょうか。

 また、前述したようにアコギ主体のアンサンブルなので、音色の種類も限られているのですが、変幻自在なアレンジによって、全体の耳ざわりはとても多彩な仕上がりになっています。

 1曲目「Trades & Tariffs」は、アコースティックギターのフレーズ、特に間奏での速弾きにはカントリーの香りが漂うものの、ドタバタしたドラムから、グルーヴ感と加速感が生まれています。ボーカルのメロディーとハーモニーも美しく、音楽の魅力が凝縮された1曲。

 3曲目「Men」は、2本のアコースティックギターと、ドラムのリムショットのような音から始まるイントロ。その後、本格的にドラムが入ってくるにつれて、途端にパワフルな躍動感が生まれます。アコースティック楽器のみで、この迫力を出せるところが凄い。ロック的なエキサイトメントに溢れ、テンションが上がる1曲。

 4曲目の「Horny Hippies」は、タムの音が立体的に響くイントロから、流れるようなアコギのフレーズが心地よい1曲。

 6曲目「The Ball」。この曲もイントロからタムとアコギが重層的に響き、立体的でグルーヴ感あふれる1曲。再生時間0:42あたりから聞こえるリムショットのような音も、アクセントになっていて耳に残ります。歌のハーモニーも極上の美しさ。

 9曲目「Elves」は、ドラムは控えめに、イントロからアコギを中心に据えたアンサンブル。なのですが、少ない楽器、少ない音数なのに、疾走感があります。再生時間1:24と1:33あたり、再生時間3:00と3:09あたりと、演奏のスイッチが段階的に切り替わる展開も、コントラストを鮮やかに演出しています。

 音はアコースティックなのに、非常にカラフルな印象を与えるアルバムです。前述したようにアコギ主体と思えないほど、パワフルでいきいきとした躍動感に溢れた作品。いわゆるオルタナ・カントリー的な、激しく歪んだエレキ・ギターや電子音を導入するアプローチとも違う、オリジナリティがあります。

 こんな素晴らしい音楽を作ってくださって、ありがとうございます!という気持ちになります。名盤です! 心からオススメしたい。

 





Father John Misty “Pure Comedy” / ファーザー・ジョン・ミスティ『ピュア・コメディ』


Father John Misty “Pure Comedy”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『ピュア・コメディ』
発売: 2017年4月7日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン)

 ジョシュ・ティルマンが、Father John Misty名義でリリースする3枚目のアルバムです。

 収録曲の大半は、ピアノかアコースティック・ギターを中心に据えたバラードですが、曲ごとに丁寧にアレンジが施されており、深い意味でポップな1枚だと思います。見た目も含めて、現代の吟遊詩人といった趣のあるジョシュ・ティルマンですが、彼の歌心とクリエイティヴィティが随所に感じられる作品。

 一聴すると美しいピアノ・バラードであるのに、音楽のフックになる音やアレンジが、仕掛けのように含まれていて、いつの間にかアルバムの世界観に取り込まれてしまいます。

 アルバムの表題曲でもある1曲目の「Pure Comedy」。テレビ番組のオープニングを数秒だけサンプリングしたようなイントロから、ピアノと歌による美しいバラードが展開されます。奥の方では時折、数種類の電子音のようなサウンドが鳴っていて、それが妙に耳に残ります。そして、曲自体は再生時間2:04あたりから、王道とも言える流れで盛り上がり、いつの間にか曲に集中してしまいます。

 2曲目の「Total Entertainment Forever」は、このアルバムの中ではテンポが速く、ビートもはっきりした1曲。ピアノとギターを中心に、各楽器が折り重なるように躍動するアンサンブルも心地いい。

 6曲目の「Leaving LA」は、13分以上もある大曲ですが、アコースティック・ギターのみのイントロから、1曲を通してストリングスがアレンジを変えながら重層的に彩りを加えるため、常にいきいきとした躍動感があります。単純に音数や音量に頼らず、アンサンブルによってコントラストや彩りを演出するところも、このアルバムの魅力。

 7曲目「A Bigger Paper Bag」の、牧歌的な雰囲気を漂わせながら、立体感のあるアンサンブルも素敵。すべての楽器が、サウンド的にも演奏的にも有機的に絡み合っています。

 前述したようにアルバムを通して、リスナーの耳をつかむ仕掛けが、随所に散りばめられています。違和感がいつの間にか魅力に転化してしまう、という感じでしょうか。そのため、74分もあるアルバムですが、それほど冗長には感じません。

 ストリングスや電子音のアレンジも絶妙で、アルバムには室内楽的な雰囲気も漂います。深い意味でポップな、素晴らしい1枚です。