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Chicago Underground Duo “Synesthesia” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『シナスタジア』


Chicago Underground Duo “Synesthesia”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『シナスタジア』
発売: 2000年5月2日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 コルネット担当のロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッション担当のチャド・テイラー(Chad Taylor)からなる、アヴァンギャルドなジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの2ndアルバム。

 トータスらを擁するシカゴの名門インディー・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。エンジニアは、トータスのジョン・マッケンタイアが担当。

 ジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロックにおける編集感覚で再構築した、前作『12° Of Freedom』。2作目となる本作では、前述のとおりトータスのジョン・マッケンタイアをエンジニアに迎え、よりポスト・プロダクションを大胆に施し、電子音も導入した、ポストロック色の濃い1作となっています。

 1曲目の「Blue Sparks From Her And The Scent Of Lightning」は、イントロから輪郭のはっきりしない電子音が増殖する、アンビエントな雰囲気からスタート。コルネットのフレーズと音色からはジャズの香りが漂い、再生時間4:46あたりからは、いきいきとしたスウィング感の溢れるアンサンブルが展開。ジャズの躍動感と、エレクトロニカの音響を併せ持った1曲と言えます。

 2曲目「Threads On The Face」では、1曲目で聴かれたエレクトロニクスの導入はやや控えめに、コルネットとドラムのフレーズが、それぞれフリーにフレーズを繰り出していきます。後半になると、録音後に再構築されたであろう、ポスト・プロダクションを感じさせるサウンドが展開。

 3曲目「Bellatron」は、シンセなのか打ち込みなのか、あるいは生楽器にエフェクト処理を施したのか、電子音が飛び交う、アンビエントな1曲。

 4曲目「Red Gradations」は、ヴィブラフォン、パーカッション、コルネットが、音数を絞ったミニマルなフレーズを持ち寄り、緩やかに絡み合い、有機的なアンサンブルを構成していく1曲。

 5曲目「Fluxus」は、ドラムとコルネットがそれぞれ即興性の強いフレーズを繰り出す前半から、アナログシンセが入り、ジャズのグルーヴ感と、テクノの音響とダンス要素が融合したような後半へと展開。クレジットを確認すると、このアナログ・シンセサイザーはモーグ(Moog)で、ザ・シー・アンド・ケイクのサム・プレコップがゲスト参加で弾いているようです。

 8曲目「Tram Transfer Nine」は、エフェクト処理されたであろう楽器や、フィールド・レコーディングらしき大人など、多様な素材が飛び交う、実験性の強い1曲。この曲をアルバムのラストに持ってくるところに、実験性を重んじるこのデュオの態度が、あらわれていると言ってもいいかもしれません。

 前述したとおり、1stアルバム『12° Of Freedom』から比べると、編集や電子音が大胆に用いられ、ポストロック色の増した2作目と言えます。

 各楽器のフレーズやサウンドには、間違いなくジャズの香りが漂うのですが、完成された音楽は、良い意味でジャンルレス。断片的にはジャズ感が強いのに、言葉には表しがたい新しい音楽として仕上がっており、実にポストロック的な、またスリル・ジョッキー的な作品です。

 





Chicago Underground Duo “12° Of Freedom” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『12ディグリーズ・オブ・フリーダム』


Chicago Underground Duo “12° Of Freedom”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『12ディグリーズ・オブ・フリーダム』
発売: 1998年10月20日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 コルネット担当のロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッション担当のチャド・テイラー(Chad Taylor)からなるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの1stアルバム。シカゴの名門インディー・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 スリル・ジョッキー所属のジャズ系グループやミュージシャンというと、アイソトープ217°(Isotope 217°)と、トータスのギタリスト、ジェフ・パーカー(Jeff Parker)が挙げられます。ロブ・マズレクはアイソトープ217°の中心メンバーでもあり、本作には同じくアイソトープ217°のメンバーでもあるジェフ・パーカーが3曲でゲスト参加。

 シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ(並行して「トリオ」「カルテット」と拡大した編成でも作品をリリース)には、スリル・ジョッキー界隈のジャズ系ミュージシャンが結集したグループ、という側面もあります。

 ジャズ的なフレーズやグルーヴを、ポストロック的な手法で再構築していくアイソトープ217°と比較すると、よりジャズ色の濃い音楽を志向しているのが、このグループ。しかし、本作がスリル・ジョッキーからリリースされていること自体が示唆的ですが、ジャズ的なフレーズや即興性を用いつつ、シカゴ音響派を思わせるサウンドも持ち合わせた作品となっています。

 1曲目「The Pursued」は、コルネットとドラムの断片的なフレーズが行き交う、隙間の多い1曲。音数が絞られ、無音部分もあるのですが、それぞれの楽器のプレイには、一瞬のひらめきや疾走感が随所に感じられます。最小単位のスウィング感が提示されるるような、このアプローチ方法は、音響を前景化させる一部のポストロックと、精神性では共通していると言ってもいいでしょう。

 2曲目「Not Quite Dark Yet And The Stars Shining Above The Withered Fields」では、マズレクがピアノ、テイラーがヴィブラフォンを担当。ジェフ・パーカーがギターでゲスト参加しています。ビート感に乏しく、各楽器の音の粒がすれ違い、時に重なり合う、アンビエントな1曲。

 3曲目「January 15th」は、これまでの2曲と打って変わって、ドラムの躍動感あふれるビートと、翼が生えたように飛び回るコルネットが絡み合う、アンサンブルの重視された1曲。コルネットのフレーズも、ステレオタイプにジャズ的で、ノリノリのビバップのようにも聴けます。後半は音数を減らし、アンビエントな雰囲気へ。

 5曲目「Waiting For You Is Like Watching Stillness Grow Into Enormous Wings」は、2曲目と同じく、マズレクがピアノ、テイラーがヴィブラフォン、パーカーがギターという編成。各楽器の音が有機的に絡み合い、幻想的な雰囲気を作り上げていきます。北欧のポストロック・バンドが作りそうな、音響と各楽器の重なり方が美しい1曲です。

 6曲目「Twelve Degrees Of Freedom」は、ドラムとコルネットによる、このデュオの基本となる編成での演奏。ですが、両楽器ともにエフェクト処理がなされ、ポスト・プロダクションを強く感じる、言い換えればポストロック色の濃い1曲。ややフリーキーで、奥まった音質の両者が、吹き荒れる風のようにテンポを変えながら、フレーズを繰り出していきます。

 8曲目「Gratitude」は、コルネットとヴィブラフォンが音を紡ぎ出していく、幻想的な1曲。コルネットのフレーズは、ジャズのマナーに沿っていますが、全体のサウンド・プロダクションは、音響系ポストロックのように柔らかくアンビエント。

 1stアルバムということで、まだコンセプト先行で手探り状態の印象も受けますが、スリル・ジョッキーらしい風通しの良さと、新しさのある作品です。

 メンバーのロブ・マズレク、また本作にゲスト参加しているジェフ・パーカーは、ソロ作品も含め、多くのプロジェクトに参加しています。他のグループや作品と比べながら聴くのも、リスニングの楽しみを広げてくれることでしょう。

 





Isotope 217 “Who Stole The I Walkman?” / アイソトープ217『フー・ストール・ジ・アイ・ウォークマン?』


Isotope 217 “Who Stole The I Walkman?”

アイソトープ217 『フー・ストール・ジ・アイ・ウォークマン?』
発売: 2000年8月8日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータス周辺のメンバーが結成したジャズ・バンド、アイソトープ217の3rdアルバム。

 これまでの2作で、ジャズとポストロックの融合を推し進めてきたアイソトープ217。本作『Who Stole The I Walkman?』でも、その方法論は基本的には変わっていません。

 彼らはジャズの要素をポストロック的な手法で、解体・再構築してきました。今作は、最もポストロック色の強い1作と言えます。

 ジャズのフレーズやリズムを、パーツとしてポスト・プロダクション的に組み立て直した1作目『The Unstable Molecule』。ジャズのグルーヴ感やダイナミズムと、音響的なアプローチが高度に融合した2作目『Utonian Automatic』。

 そして、3作目の本作は、もはやジャズとポストロックを、細切れに解体して再生された、全く新しい音楽を作りあげています。

 1曲目「Harm-O-Lodge」から、多種多様なサウンドとリズムが飛び交う、ジャンルレスで不思議な音楽が展開していきます。再生時間0:55あたりで、別の音源を切り貼りしたように、雰囲気が一変するところも新鮮。というより、実際にかなり大胆なポスト・プロダクションが施されているのだろうと思います。

 3曲目「Meta Bass」は、音の素材がそのまま漂うようなアンビエントな1曲。音響が前景化された曲であることは確かですが、徐々にビート感とグルーヴ感が生まれていきます。音響とアンサンブルが、不可分に融合したような感覚。

 7曲目「Moot Ang」は、ギターやトランペットのフレーズ、ドラムのリズムが、かみ合わないようでかみ合っていく展開。いわゆるポリリズムとは異なりますが、いくつものパーツから、有機的に新しい音楽が生まれていくような1曲。

 前述したとおり、アイソトープ217のアルバムの中で、最も斬新でジャンルレスな音楽が展開される1作です。前2作と比較すると、ある程度の難解さはあるかなぁ、とは思います。

 しかし、既存の音楽ジャンルを刷新する、ポストロックやポストジャズの一種として、とても刺激的な作品です。トータスが好きな方や、普段ポストロックを聴いている方には、違和感なく受け入れられる作品であると思います。

 





Isotope 217 “Utonian Automatic” / アイソトープ217『ユートニアン・オートマティック』


Isotope 217 “Utonian Automatic”

アイソトープ217 『ユートニアン・オートマティック』
発売: 1999年8月10日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータス周辺のメンバーが結成したジャズ・バンド、アイソトープ217の2ndアルバムです。

 前作『The Unstable Molecule』を単純化して説明するなら、ジャズのフレーズやサウンドを、ポストロック的な手法で再構築したアルバムでした。2作目となる本作は、矛盾するようですが、ジャズ色とポストロック色の両方が、より色濃くあらわれた作品です。

 どういうことかと言うと、前作ではあまり聴かれなかった、ダンス・ミュージックとしてのジャズのスウィング感が強まり、同時にポストロック的な、サウンドを切り貼りしコラージュする手法も、より強く出たアルバムということです。

 1曲目「LUH」のイントロからエンジン全開! 個人的に大好きな1曲です。1音目が鳴った瞬間から、かっこいい。エレクトリック期のマイルスの香りも漂いますが、リズム構造はよりわかりやすく、ロック的なノリでも聴ける1曲だと思います。前半は様々なサウンドとリズムが折り重なっていく、怒濤の展開。

 再生時間2:42あたりからは、嵐が過ぎ去ったあとのように、突如としてアンビエントな音像へ。そこから再び音が増えていく後半。後半はポストプロダクションを強く感じさせるサウンド。

 3曲目の「New Beyond」は、低音に重心を置いた、録音された音全体にエフェクトがかけられたような、不思議なサウンド・プロダクションを持つ1曲。

 4曲目「Rest For The Wicked」は、ワウとディレイのかかったギターらしき音が漂うイントロから、ベースとドラムがリズムを重ねていく展開。2分ちょっとの短い曲ですが、リズム隊からはジャズが香り、上モノからはエレクトロニカや音響系ポストロックが香る、このバンドらしい1曲。

 5曲目「Looking After Life On Mars」は、ノリノリで抜群のグルーヴ感。1曲目「LUH」に続いて、非常にわかりやすいかっこよさの1曲です。8分を超える曲で、再生時間5:40ぐらいまではジャズの要素が濃い、躍動感あふれる演奏が繰り広げられます。

 後半は、それまでのフレーズをサンプリングして再構築した、ミニマル・テクノのような展開。このバンドが持つ魅力と音楽性のレンジの広さが、凝縮された1曲だと思います。

 ジャズとポストロック、それぞれの要素が前作よりも色濃く、バンドとしての洗練を感じさせるアルバムです。ジャズ的なグルーヴ、音響的な心地よさなど、多面的な魅力があふれる1枚。

 これは心からオススメしたい作品です!

 





Isotope 217 “The Unstable Molecule” / アイソトープ217『ジ・アンステイブル・モルキュール』


Isotope 217 “The Unstable Molecule”

アイソトープ217 『ジ・アンステイブル・モルキュール』
発売: 1997年11月4日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータス周辺のメンバーが結成したジャズ・バンド、アイソトープ217の1stアルバムです。

 トータスとメンバーが重なっていますし、所属も同じくスリル・ジョッキー。どうしても、ジャズ版トータスという先入観を持って聴いてしまうバンドです。(少なくとも僕は)

 では、どこがトータスと共通し、どこがトータスとは違うのか、そして実際どんな音が鳴っているのか、という視点でこのアルバムの魅力をお伝えしたいと思います。

 トータスといえば1998年発表の『TNT』で、本格的なハードディスク・レコーディングを導入し、大胆なポスト・プロダクションを施した、革新的なアルバムを作り上げました。『TNT』が発売されたのは1998年、本作が発売されたのは1997年ですが、本作にもポスト・プロダクションを意識したアプローチが随所に感じられます。

 ポスト・プロダクションを意識した製作過程はトータスとアイソトープで共通している、では両者のどこが異なっているのかといえば、音楽を構成する素材、実際に演奏されるフレーズです。

 単純化が過ぎることを承知で言えば、ポストロック・バンドであるトータスはロック的でないパーツを用いて音楽を作り上げ、アイソトープはジャズ的なフレーズやリズムを用いて音楽を作り上げるということです。

 1曲目の「Kryptonite Smokes The Red Line」は、ドラム、キーボード、ホーンがレイヤーのように重なる1曲。アルバム1曲目ということで、リスナーをアルバムの世界観にチューニングするような曲だと思います。

 2曲目「Beneath The Undertow」は、イントロのホーンがトリガーとなり、多層的なアンサンブルが繰り広げられる1曲。再生時間0:40あたりからのホーンのフレーズと、ドラムとパーカッションのリズムの重なり方など、レイヤー構造のようなポリリズム。再生時間1:55あたりからのトランペットのソロも良い。ジャズ版トータスと言いたくなる1曲。

 3曲目「La Jeteé」は、メローなジャズのようにも聞こえますが、音響が前景化したエレクトロニカのようにも聞こえる1曲。

 4曲目「Phonometrics」は、立体的なリズムが印象的。サウンドも生々しくレコーディングされており、臨場感あふれる1曲。

 5曲目「Prince Namor」は、スローテンポで音響的なアプローチの1曲。電子音の代わりにホーンを使用したエレクトロニカのような印象。

 6曲目「Audio Boxing」は、図太いサウンドのベースが空間を埋め尽くし、タイトなドラムが時間を切り刻む、濃密な1曲。全体の音の密度が高いです。

 ジャズ的なフレーズとリズム、サウンドを用いて、ポスト・プロダクションを意識したポストロック的な手法、音響を重視したエレクトロニカ的な手法を実践したアルバムのように思います。

 ジャズ版トータス、裏トータスとしての楽しみ方もできれば、ジャズとポストロックが高度に融合したアルバムとしても聴けるクオリティを備えた作品と言えます。