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David Grubbs “The Spectrum Between” / デイヴィッド・グラブス『ザ・スペクトラム・ビットウィーン』


David Grubbs “The Spectrum Between”

デイヴィッド・グラブス 『ザ・スペクトラム・ビットウィーン』
発売: 2000年7月10日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、デイヴィッド・グラブスの4枚目のソロ・アルバムです。レコーディングには、トータスのジョン・マッケンタイアも参加。

 時期や作品によって、作風の異なるデイヴィッド・グラブスですが、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップスの形式をそなえていて、聴きやすいと思います。本作も、アコースティック・ギターを中心に、オーガニックな楽器のサウンドが響く1作。

 ルーツ・ミュージックからの影響も感じさせ、基本的にはフォーキーなサウンドの作品です。しかし、生楽器を使いながら、ポストロックのような音響的なアプローチや、ルーツ・ミュージックの枠におさまらないアンサンブルなど、随所にデイヴィッド・グラブスの音楽的教養の高さをうかがわせるアルバムでもあります。

 1曲目「Seagull And Eagull」は、アコースティック・ギターの弾き語りのような曲ながら、エレキ・ギターのフレーズと響きが、モダンな雰囲気をプラスしています。

 2曲目の「Whirlweek」は、イントロからアコースティック・ギターとドラムの、縦に揺れるグルーブ感が心地いい1曲。どことなくボサノバの香りも漂います。

 3曲目「Stanwell Perpetual」では、イントロからアコーディオンのような音色と、トランペット、サックス、ギターなどが、多層的にロングトーンを重ねていきます。使用されている楽器は生楽器で、音色も暖かみのあるナチュラルなものなのに、立ち現れる全体のサウンドは、エレクトロニカかポストロックのような音響になっています。

 濃密な音の壁が立ちはだかるようなサウンド・プロダクションで、いつまでも聴いていたいぐらい、耳に心地よく響く1曲。

 4曲目「Gloriette」は、音響的なアプローチの3曲目とは打って変わって、立体的ないきいきとしたアンサンブルが響き渡る1曲。鼓動のようなバスドラ、ギターの何度も繰り返されるフレーズなど、持続していく部分と、変化していく部分とのコントラストが鮮烈。

 8曲目「Preface」は、ギターとトランペットによる哀愁の漂うイントロから、後半はアヴァンギャルドな展開を見せる1曲。再生時間2:34あたりからのトランペット、それに続く耳障りな高音ノイズなど、多種多様なサウンドとジャンルが、1曲のなかにおさめられています。

 カントリーを感じさせるサウンドを持ちながら、随所にオルタナティヴで実験的なエッセンスも含んだアルバムです。ポップでありながら、違和感のあるアレンジや音が散りばめられ、その違和感がやがて音楽的なフックへ転化し、耳から離れなくなります。

 ポップさと実験性のバランスが絶妙で、聴きやすい作品ではないかと思います。

 





Don Caballero “American Don” / ドン・キャバレロ『アメリカン・ドン』


Don Caballero “American Don”

ドン・キャバレロ 『アメリカン・ドン』
発売: 2000年10月3日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの4枚目のスタジオ・アルバムです。レコーディング・エンジニアは、1stアルバム『For Respect』以来となる、スティーヴ・アルビニが担当。このアルバムを最後に、ドン・キャバレロは一旦解散してしまいます。

 また、本作『American Don』と、前作『What Burns Never Returns』の間には、7インチのシングル盤を集めたコンピレーション盤『Singles Breaking Up (Vol. 1)』が発売されています。

 ドン・キャバレロの代表作と紹介されることの多いアルバムが、本作『American Don』です。個人的にも、彼らのアルバムのなかで一番好き…どころか、全てのバンドの全てのアルバムのなかでも、上位に入るぐらい大好きな作品です。

 ギターのサウンドは激しい轟音から、空間系のクリーントーンまで多種多様で、全体のサウンド・プロダクションは、彼らのアルバムの中でも最もカラフルに仕上がっています。収録されている楽曲のバラエティも豊かで、アンサンブルも緻密。非の打ち所がない作品だと思います。

 1曲目「Fire Back About Your New Baby’s Sex」から、各楽器が折り重なるように、躍動感あふれるアンサンブルを構成していきます。ベースのメタリックで硬いサウンド、はためくようなギターの音とフレーズなど、音楽の素材ひとつひとつにも、強いこだわりが感じられます。

 再生時間0:45あたりからドラムが躍動感を増すところ、0:58あたりで全体のリズムが一変するところなど、展開がめまぐるしく、5分弱の1曲とは思えないほど、聴くべき情報量の多い1曲です。

 2曲目「The Peter Criss Jazz」は、アンビエントな空気も漂う、透明感のあるイントロから、徐々にリズムと音が増え、複雑に絡み合っていく1曲。

4曲目「You Drink A Lot Of Coffee For A Teenager」は、何拍子かつかみにくい複雑なリズムを、切り刻むように叩くドラムが鮮烈な印象を与えます。

 8曲目「A Lot Of People Tell Me I Have A Fake British Accent」は、トライバルな雰囲気漂うドラムに、ミニマルで幾何学的なギターのフレーズが絡み、緻密なアンサンブルを構成していく1曲です。

 サウンド・プロダクションの面でも、アンサンブルの面でも、彼らの最高傑作と言っていい、すばらしい作品だと思います。「マスロック」という言葉ではくくれないほど、多種多様な音楽の要素を感じさせる1作です。収録楽曲の内容も、実に多彩。

 前述したとおり、個人的にもドン・キャバレロのアルバムのなかで一番のお気に入り。本当に名盤だと思います。