「インディー・フォーク」カテゴリーアーカイブ

The Dodos “Beware Of The Maniacs” / ザ・ドードース『ビウェア・オブ・ザ・メイニアックス』


The Dodos “Beware Of The Maniacs”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『ビウェア・オブ・ザ・メイニアックス』
発売: 2006年6月11日
レーベル: Self-released (自主リリース)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの自主リリースによる1stアルバムです。こんな作品が自主リリースでサラッと登場するところに、USインディーズの懐の深さを感じます。個人的に、心からオススメしたい1枚。名盤です!

 主にボーカルとアコースティック・ギターを担当するメリック・ロング(Meric Long)と、ドラムとパーカッションを担当するローガン・クローバー(Logan Kroeber)からなる2ピースバンド。というとフォークやカントリー的な音楽が想定されると思いますが、本作はカントリーとは違ったグルーヴ感に溢れた作品です。

 確かにアコースティックギターを中心に据えたサウンドはカントリーに近い耳ざわりですが、それよりもロック的なダイナミズムが全面に出たアルバム。音はカントリーなのに、バンドの躍動感と迫力はロック的と言ったらいいでしょうか。

 また、前述したようにアコギ主体のアンサンブルなので、音色の種類も限られているのですが、変幻自在なアレンジによって、全体の耳ざわりはとても多彩な仕上がりになっています。

 1曲目「Trades & Tariffs」は、アコースティックギターのフレーズ、特に間奏での速弾きにはカントリーの香りが漂うものの、ドタバタしたドラムから、グルーヴ感と加速感が生まれています。ボーカルのメロディーとハーモニーも美しく、音楽の魅力が凝縮された1曲。

 3曲目「Men」は、2本のアコースティックギターと、ドラムのリムショットのような音から始まるイントロ。その後、本格的にドラムが入ってくるにつれて、途端にパワフルな躍動感が生まれます。アコースティック楽器のみで、この迫力を出せるところが凄い。ロック的なエキサイトメントに溢れ、テンションが上がる1曲。

 4曲目の「Horny Hippies」は、タムの音が立体的に響くイントロから、流れるようなアコギのフレーズが心地よい1曲。

 6曲目「The Ball」。この曲もイントロからタムとアコギが重層的に響き、立体的でグルーヴ感あふれる1曲。再生時間0:42あたりから聞こえるリムショットのような音も、アクセントになっていて耳に残ります。歌のハーモニーも極上の美しさ。

 9曲目「Elves」は、ドラムは控えめに、イントロからアコギを中心に据えたアンサンブル。なのですが、少ない楽器、少ない音数なのに、疾走感があります。再生時間1:24と1:33あたり、再生時間3:00と3:09あたりと、演奏のスイッチが段階的に切り替わる展開も、コントラストを鮮やかに演出しています。

 音はアコースティックなのに、非常にカラフルな印象を与えるアルバムです。前述したようにアコギ主体と思えないほど、パワフルでいきいきとした躍動感に溢れた作品。いわゆるオルタナ・カントリー的な、激しく歪んだエレキ・ギターや電子音を導入するアプローチとも違う、オリジナリティがあります。

 こんな素晴らしい音楽を作ってくださって、ありがとうございます!という気持ちになります。名盤です! 心からオススメしたい。

 





Father John Misty “Pure Comedy” / ファーザー・ジョン・ミスティ『ピュア・コメディ』


Father John Misty “Pure Comedy”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『ピュア・コメディ』
発売: 2017年4月7日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン)

 ジョシュ・ティルマンが、Father John Misty名義でリリースする3枚目のアルバムです。

 収録曲の大半は、ピアノかアコースティック・ギターを中心に据えたバラードですが、曲ごとに丁寧にアレンジが施されており、深い意味でポップな1枚だと思います。見た目も含めて、現代の吟遊詩人といった趣のあるジョシュ・ティルマンですが、彼の歌心とクリエイティヴィティが随所に感じられる作品。

 一聴すると美しいピアノ・バラードであるのに、音楽のフックになる音やアレンジが、仕掛けのように含まれていて、いつの間にかアルバムの世界観に取り込まれてしまいます。

 アルバムの表題曲でもある1曲目の「Pure Comedy」。テレビ番組のオープニングを数秒だけサンプリングしたようなイントロから、ピアノと歌による美しいバラードが展開されます。奥の方では時折、数種類の電子音のようなサウンドが鳴っていて、それが妙に耳に残ります。そして、曲自体は再生時間2:04あたりから、王道とも言える流れで盛り上がり、いつの間にか曲に集中してしまいます。

 2曲目の「Total Entertainment Forever」は、このアルバムの中ではテンポが速く、ビートもはっきりした1曲。ピアノとギターを中心に、各楽器が折り重なるように躍動するアンサンブルも心地いい。

 6曲目の「Leaving LA」は、13分以上もある大曲ですが、アコースティック・ギターのみのイントロから、1曲を通してストリングスがアレンジを変えながら重層的に彩りを加えるため、常にいきいきとした躍動感があります。単純に音数や音量に頼らず、アンサンブルによってコントラストや彩りを演出するところも、このアルバムの魅力。

 7曲目「A Bigger Paper Bag」の、牧歌的な雰囲気を漂わせながら、立体感のあるアンサンブルも素敵。すべての楽器が、サウンド的にも演奏的にも有機的に絡み合っています。

 前述したようにアルバムを通して、リスナーの耳をつかむ仕掛けが、随所に散りばめられています。違和感がいつの間にか魅力に転化してしまう、という感じでしょうか。そのため、74分もあるアルバムですが、それほど冗長には感じません。

 ストリングスや電子音のアレンジも絶妙で、アルバムには室内楽的な雰囲気も漂います。深い意味でポップな、素晴らしい1枚です。

 





Bon Iver “For Emma, Forever Ago” / ボン・イヴェール『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』


Bon Iver “For Emma, Forever Ago”

ボン・イヴェール 『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』
発売: 2007年7月8日(自主リリース), 2008年2月19日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 ジャスティン・バーノン(Justin Vernon)を中心に2006年に結成されたフォークロック・バンド、ボン・イヴェールの1stアルバム。2007年に自主リリースされたあと、翌年にはインディアナ州ブルーミントンのインディペンデント・レーベル、ジャグジャグウォー(Jagjaguwar)より発売されています。

 こういうエピソードと音楽を聴くと、アメリカは自主リリースレベルで、ぽっとこんな優れた作品が出てくるという事実に驚きます。歴史的に見れば新しい国ながら、移民が作ってきたという特殊な事情も作用しているのでしょうが、音楽の豊潤さを感じますね。

 ちなみにバンド名のカタカナ表記は、以前は「ボン・イヴェア」という表記も散見されましたが、最近は「ボン・イヴェール」に統一されたようです。

 今作は、アコースティックギターの弾き語りを基本にしたフォーキーなサウンドに、オルタナティヴなアレンジが加えられた1枚。歌とアコースティック・ギターだけのシンプルで綺麗な曲だなぁ…と思って聴いていると、突如として異物的な音が入ってきて、驚くこともしばしば。しかし、「異物的」とは書きましたが、フォーキーな歌とギターに見事に溶け合ったかたちで、多種多様なサウンドやアレンジが加えられています。

 もっとフランクな言葉で言い換えると、変な音が音楽のフックになっているということ。例えば1曲目「Flume」の奥で持続して流れている電子的な音や、ジリジリした鐘のような音だとか、違和感がありそうなのに、むしろ心地よく感じるほどにメインの音楽と溶け合っています。

 2曲目の「Lump Sum」は、ギターのフレットを移動するときの弦をこする音まで拾った生々しいサウンドの曲ですが、パタパタとはためくようなリズムが、ギターの邪魔をせず入ってきます。

 4曲目「The Wolves (Act I And II)」もアコギの弾き語りのような曲なのに、再生時間3:55あたりから徐々にサンプラーで加工されたような音が入り始め、音楽が増殖していくような感覚があります。

 5曲目「Blindsided」はポスト・プロダクションを感じさせながら、音数は少ないものの各楽器が絡み合うようなアンサンブルが秀逸。

 7曲目「Team」はドラムとエレキギターの入った、ボーカルレスの1曲。2分弱の曲ですが、ミニマルなドラムのリズムに、ギターが折り重なるように乗っていくのが心地よい1曲。

 8曲目は「For Emma」。個人的にアルバムの中で1番好きな1曲。わずかに濁りを感じさせるコード、アコースティックギターの刻むリズム、バンド全体のアンサンブル、全てが良いです。

 基本的には、フォークやカントリーに近い、アコースティックギターの弾き語りを中心に据えたアレンジと音作り。そこに、わずかにエッセンス程度に実験性を忍ばせていて、クセになる1枚です。こういうルーツと現代性が融合した音楽に出会えるところも、アメリカのインディー・シーンの魅力。